152話─故郷で、愛の契りを
「デ・ェ・ト! デ・ェ・ト! ゆーゆーと初めてのデートなのデース!」
『ブリギットさん、嬉しいのは分かりますけどはしゃぎすぎると転びますよ? 駅の中はともかく、外は雪が降ってるんですから』
熾烈極まるバトルロワイヤルを制し、見事デート一番乗りを果たしたブリギット。それを阻む最大の敵、ファティマが立ちはだかると思いきや。
意外にも『ユウとお互い婚約の意思を交わしたのならよほどのことがなければ口出しはしません』と寛容な姿勢を見せたのだ。小躍りしたブリギットは、デート先を自身とユウの故郷。
キュリア=サンクタラム北方にある雪と氷のエリア……『グリアノラン地区』に決定した。その目的は……。
「フフフ、グリアノランには船湯という素晴らしい温泉があるのデス。自動運転スル船型の湯船に乗って、オーロラを眺めながらシッポリ出来るデスマス!」
『温泉……楽しみですね、ブリギットさん。ボク、リヴドラス以外にはあんまり行ったことないのでワクワクします!』
グリアノラン地区観光にて最大の人気スポットたる、雪上船式温泉を楽しむためにやってきたのだ。地下から湧き出した温泉を魔法で循環させ、肩コリやリウマチをはじめとする病や怪我の治癒に役立つのである。
「ササ、ここから目的のお宿マデはすぐに行けマス。一旦荷物を預けたラ、まずはこの地区を束ねる名代に挨拶しに向かうデスよ」
『ええ、セレーナママに元気な姿を早く見せてあげたいです』
リヴドラスから天空列車に乗り、地上に向かったユウたちが降り立ったのがグリアノラン地区の領都。その名をマギアレーナ。千と数百年前、まだグリアノランが独立した帝国だった頃の首都だ。
その中央にある宮殿に、地区全体の政治を司るリオの名代がいる。それがリオの妻……すなわち、ユウの母の一人でもある女性セレーナ。
グリアノラン帝国最後の皇帝、メルンの娘にしてリオの血を与えられて不老長寿となった【魔神の眷属】の一人だ。
「ようこそ、お待ちしておりましたよユウ様にブリギット様。すでにメルン様もセレーナ様も玉座の間にてお二人が来られるのを待っていますよ」
『ありがとうございます、衛兵さん。それじゃ、行きましょうかブリギットさん』
「いつもゴクロー様なのデス。これ、少ないケドワタシからの心付けデス。仕事が終わったらチョットいいとこで一杯やるといいデスマス」
「わ、そんな恐れ多い……! ですが、ありがたくいただきますね。ありがとうございます、ブリギット様」
大通りを抜け、宮殿前にたどり着いたユウたちを衛兵が出迎える。すでにリオ経由で連絡が行っているため、あらかじめスタンバイしていたのだ。
寒空の下待っていた衛兵にお礼を渡し、ブリギットはユウと手を繋いで玉座の間へと向かう。もちろん、手は恋人繋ぎである。
「失礼するデスマス! セレーナ様にメルン様、お久しぶりデス!」
『おばあさまにママ、お久しぶりです。二人ともお変わりなさそうで安心しました』
「ふふ、それはわたくしたちのセリフでもありますよ。あなたの活躍、いつもリオ様が嬉しそうに語ってくれます。さ、母の元においでなさい? 元気な顔を近くで見せてくださいな」
「うむ、わらわも久しぶりに孫に会えて嬉しく思うぞよ。ささ、二人ともこちらに」
玉座には、純白のドレスを身に着けた柔らかな笑みを浮かべる女性が座っている。女性……セレーナは嬉しそうにユウたちを手招きする。
その隣に立っている、真紅のドレスを身に着けた女はメルン。セレーナの母であり、ユウにとっては祖母となる人物だ。首から下はゆえあってキカイになっており、駆動音が響いている。
「ああ、私には分かります。あなたが強く、大きくなったのを。ユウ、あなたの口からも聞かせてくださいな。これまでの冒険の日々を。遠い昔、リオ様がそうしてくださったように」
『はい! ボクとブリギットさんたちはですね……』
セレーナの膝に座り、ユウは母と祖母にこれまでに繰り広げた冒険を語って聞かせる。その隣では、ブリギットが体内に仕込んである装置を使い静かな音楽を奏でていた。
『……という冒険を、大切な仲間たちと共に繰り広げてきました。辛いこともたくさんあったけど、みんなが一緒だったから乗り越えられました』
「ほほほ、やはりそなたは強い子じゃな。うむうむ、その目……初めてこの宮殿にやって来た時のリオを思い出すわ。……あれから千と数百年、か。時の流れは速いものよ」
「そうですね、お母様。……っと、いつまでも二人を引き留めているわけにはいきませんね。これから七日、存分に遊んで羽を伸ばしてくださいな。グリアラノンには楽しい観光名所がたくさんありますから」
「お二人の気遣いに感謝致しマス。さ、そろそろおいとましまショウ、ゆーゆー。ホテルに戻ってこれからの計画を立てるデス」
『ええ、そうしましょうか。ママ、おばあさま。次の冒険を終えたら、またお話をしに来ますね』
セレーナたちと別れ、ホテルに戻ったユウたち。その後、二人はデートプランを練り七日に渡って大いに楽しんだ。
ある日は二人でスキーを楽しみ、その次の日は街で食べ歩きに勤しみ。雪祭りに行ってかまくらの中で花火を見たり、雪だるまを作ったり。
そうして楽しいデートで心身共にリフレッシュするなか……最終日、お待ちかねの船上温泉を楽しむ時間がやって来た。
『わー、すごい! 星空がどこまでも広がってる……こんな綺麗な景色、そうそう見れませんよ』
「デスデス、ゆーゆーに喜んでもらえてよかったデスよ。温泉も素晴らしいし言うことナシ! デスね」
水着を着用して混浴専用の温泉船に乗り込んだユウとブリギット。発進した船がゆっくりと雪原を進むなか、二人の頭上に満点の星空が広がる。
『パパから聞きました。遠い昔、エルディモスっていう悪者が造った人造魔神の一人と雪上船で戦ったって』
「ワタシも聞きまシタ。レケレス様の血を使って魔神を造るなンテ、凄い天才もいたもんデスよ。ま、そんなバチ当たりなコトをする奴は酷い死に方したと思うデスマス」
肩を寄せ合って温泉に浸かりながら、そんな会話を繰り広げるユウたち。これまでずっと、リンカーナイツと戦い詰めでゆっくりと語らう時間をあまり取れなかった。
その埋め合わせをするように、二人は思いつくままに語り合った。これまでのこと、そして……これからのことを。
「ゆーゆーは子どもは何人欲しいデス? ワタシは一個師団を編隊出来るくらい欲しいデスよ!」
『ず、随分と気が早くありませんか? もう少しこう、先に話すことがあるような気がしますが……』
「えー? 愛するヒトとの子どもを産みたいとイウのは、乙女なら誰もが思うことデスマス。おかしいことは何もありまセン」
『そうなんですか? ……実を言うと、ボク少し怖いんです。ちゃんとした人の親になれるのかな、って』
いきなり子どもの話をし始めるブリギットに呆れつつ、ユウは胸の内を吐露する。前世で虐待を受け、その末に死んだ彼には不安があった。
いつの日にか自分に子どもが出来た時、魔夜のように自らの子を虐げてしまうのでないかと。そんな少年を抱き寄せ、ブリギットは真剣な表情をする。
「なれマス。他の誰でもナイ、ワタシが言うんだから間違いありまセン。ゆーゆーはあんな【ピー】女のようには絶対になりまセン。だって、誰かを愛し愛さレルことの大切さを知っていマスから」
『……ええ。それを教えてくれたのが、今世のパパとママたち。そして……ブリギットさんたちですから』
力強いブリギットの言葉に、ユウの中にあった不安は消えた。そして、二人は見つめ合ったまま少しずつ顔を近付けていく。
「ゆーゆー。ワタシは大好きなアナタに誓いマス。この先、何があったとシテも。ゆーゆーだけを愛し、守っていくと。もう二度と、ゆーゆーが泣かない幸せに満ちたミライを共に歩むと」
『はい。ボクも……ブリギットさんが大好きです。いつも明るくて、みんなを和ませてくれるあなたを愛しています。これからも……仲間として、【家族】として。いつまでも、一緒にいましょうね』
お互いに愛の言葉をささやいた後、ブリギットはユウとくちづけを交わす。それぞれにとって初めての、深い愛情のこもった……静かに、されど力強く燃える青色炎のような。
二度と忘れることの出来ない、輝かしい未来へのファースト・キス。唇が離れた後、ユウは嬉しそうにブリギットの肩に頭を預ける。
少年の目尻に浮かんだうれし涙を指で拭い、ブリギットは微笑む。そんな二人を、天に輝く星々が見守っていた。




