150話─手を取り合って、未来へ
ユウに敗北した黒原がチート能力を解除したことで、リーヴェディア王国を侵食していたおとぎの国は消え去った。おとぎの国に取り込まれていた王国の人々も戻り、ようやく平和が訪れる。
「……ユウ・ホウジョウ並びに、その仲間たちよ。貴殿らの活躍で、我がリーヴェディア王国は悪しき異邦人たちの魔手より逃れ平和を取り戻せた。此度の件、深き感謝の意を示そう」
戦いが終結してから十日後。リーヴェディア王国の首都ザーガンティに招待されたユウ一行、そしてパラディオンギルドの幹部たちはガンドルクから歓待を受けていた。
ユウの言葉と行動で心を入れ替えた王は、善なる異邦人に歩み寄りお互いを理解し合えるよう努めることを決めた。この歓待はその第一歩なのだ。
「貴君らがいなければ、俺はおとぎの国に取り込まれたままさらに心を歪め……さらなる惨禍をもたらしてもいただろう。それを止めただけでなく、こうして再び玉座に戻れたこと……感謝したもしたりない」
「みな、面を上げよ! これより王からの報償を授与する! 呼ばれた者から前へ!」
ガンドルクがユウたちへの感謝を口にしている間、一行は玉座の間にてひざまずき言葉に耳を傾ける。話が終わると、宰相によって顔を上げることが許された。
一人ひとりが名を呼ばれ、王の前に立つ。授けられたのは、王国最高の栄誉たる『金十時紋章』だ。王国騎士でも、ごく一部の英雄のみが授与される名誉の証。
「続いては、パラディオンギルドのグランドマスター殿になります」
「ハッ。ガンドルク陛下、私は嬉しく思います。こうして、貴方と分かり合える日が訪れたことを」
「礼ならば俺ではなくユウ・ホウジョウに言うといい。……貴君には勲章ではなくこれを。我が国とギルドの永久友好の証となる条約をしたためた書簡だ。……これからは共に歩み立ち向かおうではないか。この大地を脅かす悪しき者たちに」
「……ええ。私たちも長い間待ち望んでおりました。共に手を取り、歩めるのを」
グランドマスターに書簡が手渡され、残るはユウ一人となった。名を呼ばれたユウは、ガンドルクの前に進み出る。ビシッと敬礼をし、深々とお辞儀をした。
『陛下、本日はお招きいただき』
「よい、楽にせよ。貴君は最上の賓客、俺の前でかしこまる必要はない。……改めて、礼を言わせてほしい。ありがとう、ユウ・ホウジョウ。貴君のおかげで、俺は間違いを正すことが出来たのだから」
『陛下……はい! ボクも喜ばしいです、少しずつこの国の人たちと打ち解けていけるよう頑張る所存です!』
ユウを見るガンドルクの目には、最初の頃のような敵意はもう存在していない。まるで孫を見るような慈愛に満ちた眼差しと共に、改めて頭を下げる。
そんな王に、ユウは嬉しそうに九本の尻尾をパタパタさせる。それを見て後方で控えていたブリギットとジャンヌが暴走しそうになるも、ミサキによって即座に鎮圧された。
「俺の方から民に働きかけ、少しでもわだかまりが解けるようにしていくつもりだ。で、その一貫でもある貴君への報償なのだが」
『ふむ、小僧に何をくれてやろ』
『はい、お邪魔虫はちょっと黙っててください。今大事な話をしてるので。申し訳ありません陛下、話の腰を折ってしまって』
途中でしゃしゃり出てきたヴィトラを押し返し謝罪する。気にすることはないと返したガンドルクは、報償の内容を伝えた。
「さて、話を戻そう。貴君への礼として、我が国での爵位と領土を用意した」
『はい! ……え?』
「貴族たちと緊急会議をした結果、ガンドラズルに隣接する土地の一部を貴君の領地として授与することが決まった。その方が気が楽であろう」
『え、ちょ……え? え?』
「オー、ゆーゆーもついに貴族になるデース。この国の……というのはだいぶ予想外デシたが」
「まさかあの異邦人嫌いで知られるガンドルク王が……」
まさかの報償内容に、ユウはフリーズしてしまう。その後ろでヒソヒソ話をしているブリギットとシャーロットも動揺を隠せず、他の仲間共々狼狽えていた。
いくらユウが超両血のプリンスといえど、貴族となり領地の経営をするのはまだ早い。十数分ほどすったもんだした後、ひとまず領地の授与は棚上げになる。
今現在はリーヴェディア王国の名誉貴族に名を連ねる……という形で、なんとか議論を軟着陸させることが出来た。
「ま、これで話も着いた。さあ、ここからは無礼講だ! 長らくパラディオンギルドと我が王国の関係を冷え込ませていた責任を取るため、盛大な宴を催す! 城の中庭に設置したワープマーカーを使い、ギルドの者らを呼ぶといい!」
「ハッ。それではお言葉に甘え、友好を深めるため……共に祝いましょう。我らの新たなる日々の始まりを!」
ガンドルク王とグランドマスターの言葉を受け、大広間にいる者たちは歓声をあげる。ユウの抱いた志、その第一歩が……見事、結実した瞬間であった。
◇─────────────────────◇
「ぐあああああ!!! 燃える、燃えるぅぅぅぅぅ!! 誰か火を消してくれぇぇ!!」
「うう、なんで、なんでよ!? どうして川に転がり込んだのに火が消えないのよおおおおお!?」
「うぎ、あああ……」
同時刻、クァン=ネイドラのどこか。人里から遠く離れた、川の流れる草原に無数の火だるまが転がっていた。燃えているのは、みなリンカーナイツの構成員。
低カテゴリーの者たちが徒党を組み、街を襲撃しようとしていたその矢先。彼らの元に現れた二人組の男女により……死ぬことを許されず、永遠に生きた薪として燃え続ける末路をプレゼントされたのだ。
「ハッ、前準備無しにお前らを殺すとテンセイ? だったか。して逃げられるってのはとっくにバリアス様から聞いててな。そうやって燃え続けてろ、パラディオンとかいう連中が来るまでよ」
「まあ、ここは街から遠~く離れてるからそうそうきづかないと思うけど。運良く気付いてくれるよう祈るのね。もっとも、天上の神々も地の底の混沌たる闇の意思も聞き届けてはくれないだろうけど」
リンカーナイツの構成員たちを罰したのは、クァン=ネイドラの外より来たる二人の民。神々が生み出した最初の被造物の片割れたる【精霊】の女、イリゼア。
そして、その伴侶にして精霊の力を操り戦う者。【精霊騎士】の男、ゾルネスト。故郷を離れ気ままな旅をする途中、狼藉を働こうとした者たちを成敗したのだ。
「お、前……たち、は。いったい、何者なんだああああ!?」
「フン、知りたいなら教えてやるよ。もう禁も解かれたから、各大地や暗域に情報が広まるのに時間もかからないだろうし」
「私たちは精霊の民。遙か昔、神世の時代にグラン=ファルダに穿たれた【虚空の穴】を永遠に閉ざすため……戦い続けてきた者たちよ」
「せい、れい……?」
のたうち回っていた者たちのうち、一人がゾルネストたちに問う。そう答えた後、二人は構成員たちを放置して歩き出す。
「ま、て……待ってくれ! せめて、せめて殺してくれぇぇぇ!!! 燃えながら生き続けるなんて嫌だああああ!!」
「断る。てめぇらを見てると、虚空の穴から這い出てきやがった【虚無の民】……ああ、今じゃウォーカーの一族って呼ばれてるな。そいつらを思い出して反吐が出るんだよ」
「しかるべき死を与えるのは私たちの役目じゃない。お腹の中の子の教育にも悪いしね」
「つーわけで、俺らは旅に戻るぜ。あ、そうだ。イリゼア、せっかくだからパラディオンギルドの本部に寄ってこうぜ。ヨソ者だからな俺たちは、変な誤解を生まねえようにしねえと」
「ええ、そうね。じゃ、行きましょうか」
介錯を懇願するリンカーナイツの構成員にそう吐き捨て、二人は旅を再開する。それぞれの左手の薬指に嵌められた指輪が、陽光を浴びて輝いていた。
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