143話─雪、時々羽根
シャーロット、チェルシー、そしてブリギット。立て続けに勝利を収める流れが続くなか、ミサキもその勢いに乗ろうとしていた。
「くっ、有り得ぬ……。黒原様より賜りしこの肉体で傷一つ付けられぬだと……」
「ふふ、そうさ。ま、こちらも借り物の力だからあまり誇れないけれどね。ところで……君はさっきから徒手空拳ばかりだ。使わないのかい? 自慢の力は」
「チッ、いちいちキザったらしい奴だ。いいだろう、そんなに見たいのならば冥土の土産にそのまなこに刻み込め! ハァッ!」
どれだけ殴打や蹴りを叩き込んでもビクともしないミサキに業を煮やし、女は切り札を解放する。背中に鶴の翼が生え、左腕が鋭いクチバシのような槍へ変わった。
「その姿……ふむ、推察するに『鶴の恩返し』が原典、といったところかな?」
「その通り。だが、これだけではないぞ。来い、フロール! 吹雪を起こして奴を凍らせてしまえ!」
「やっと呼ばれたわね、それじゃあおつるさんのお望み通り……てやっ!」
ついに相手の正体が判明した……と思ったその矢先、猛烈な吹雪が吹き荒れる。雪原の中に、もう一人の敵が潜んでいたらしい。
女……おつるの合図を受け、吹雪によって視界を奪いつつ極低温での体力の消耗と凍傷を狙う。が、今のミサキは只人ではない。
アメリカンコミック最強のヒーロー、ルーンに変身している彼女には吹雪など何の苦でもないのだ。その双眼は、おつるの姿を捉えている。
(ふむ、吹雪に乗じて背後に回り込むつもりだね。ここはギリギリまで引き付けて、直前でかわしつつカウンター……む!)
「あら、避けたの。よく私の気配に気が付いたわね、完全に雪と同化していたのに」
「危ない危ない、もう一人いたんだったね。なるほど、雪女……。なら、これだけの吹雪を起こせるはずだ」
わざと相手を誘い込み、カウンターを決めてやろうとするミサキ。が、その直後殺気を捉え上空に飛び上がる。
一瞬遅れてミサキのいた場所に鋭い氷柱が生えてきた。そのまま留まっていれば、足下と背後の連撃で息の根を止められていただろう。
「相変わらず余裕ね、その涼しい顔を絶望に歪ませてあげるわ! スラッシュスノーダスト!」
「さらに羽根も追加だ、避けられるなら避けてみろ! クレイン・レイン!」
雪女は吹雪に魔力を与え、小さく鋭い氷の刃へ変える。そこにおつるの放った羽根の刃も合わさり、敵対者へ向かわせた。
「さあ、これならどうだ!」
「ふむ……ま、このくらいなら俊雄さんのサポートがなくても切り抜けられる。そうあるよう鍛えてきたのだから! マグナムレーザー・トルネード!」
「なっ!?」
全方位から襲いかかる氷と羽根の刃ならば仕留められる。そう確信していた二人は、目を見開き驚愕することに。
ミサキは全身にくまなく目の模様を出現させ、レーザーを放ちながら身体を回転させ始めたのだ。黄金の竜巻となったミサキから、全方位へレーザーが放たれる。
途切れることなく放たれる黄金のレーザーが吹雪を、そして羽根の雨を切り裂き消滅させていく。それに負けじと、おつると雪女は攻勢を強める。
「くっ、無茶苦茶な攻撃をするわね! 上等よ、ならお前を上回る刃の吹雪でズタズタに切り裂くまでよ!」
「見たところ、奴の攻撃はかなり魔力を消耗するタイプ……いつまでもレーザーを放出し続けられまい。こちらは魔力をシェアすれば早々尽きることはない、持久戦ならこちが有利だ!」
「ふふ、果たしてそうかな? 教えてあげよう、最強のヒーローは魔力も桁違いなのだとね! マグナムレーザー、出力アップ!」
相手は一人、こちらは二人。魔力の総量で勝る以上、いずれ敵が力尽き自分たちが勝つと考えるおつるたち。だが、その考えはあっさりと打ち砕かれる。
ルーンに変身したミサキの魔力は、普段の数倍……否、数十倍に膨れ上がっていた。すでに数分に渡って全身からレーザーを放射してなお、衰えを知らない。
「バカな……!? 我々の攻撃が掻き消されはじめているだと!? こんな規格外な存在など有り得ていいわけが……」
「まずいわ、これ以上はこっちがやられる! おつるさん、一度退くわよ!」
「チッ、仕方ない。シャクだが態勢を立て直さねばならないな……フェザーカーテン!」
レーザーの威力が吹雪と羽根の雨を上回りはじめ、おつるたちは身の危険を覚える。このまま留まれば、命が危ない。
そう判断し、羽根の壁で目眩ましをしつつ雪に潜って姿を消した。吹雪が止んだ後、ミサキは攻撃をやめ地上に降りる。
「やれやれ、相手は撤退したようだね。でもまあ、また出てきても面倒だ。後顧の憂いを断つために仕留めておくとしよう」
ミサキたちの本来の目的は、義人たち先遣隊の発見と救出。敵が逃げた以上、追いかける必要はない。
だが、生かしたままにしておけば何をしてくるか分からない。機を窺い、救出を果たした瞬間に襲われては任務が失敗する可能性がある。
その危険性とユウたちとの迅速な合流を天秤に掛けた結果、敵の排除を選んだ。盤石の態勢で任務に臨めるように。
「ふう、ここまで逃げれば奴も追ってこられまい。しばらく休んで魔力を回復させよう」
「そうね。それにしても困ったものね、まさかあそこまで規格外だと思わなかったわ。さて、どうやって倒し」
「残念、倒されるのは君たちの方さ! マイティラリアット!」
一方、おつるたちはミサキと交戦した場所から数キロ離れたエリアに逃げ延び一息ついていた。これからのことを話し合っていた、その時。
雪原に僅かに残る魔力を追跡してきたミサキが、雪の中から飛び出してきたのだ。雪女に強襲された事への、ちょっとした趣向返しに。
「がふっ! バカな、どうやって私たちを追跡してきた!?」
「ふふ、私の操る黄金の眼ならば魔力の痕跡を見つけ出すのは容易いのさ。追うのも楽だしね」
「逃がすつもりは無し、ってわけね。なら返り討ちにするまで! アイスニードル!」
「ふむ、ならこうしよう。すー……ふうっ!」
ラリアットを食らったおつると違い、すんでのところで回避出来た雪女は氷柱を四つ作り出しミサキに飛ばす。対するミサキは、息を吸い込み吐き出した。
すると、息にミサキの魔力が混ざり合い燃え盛る火炎になる。まさかの火炎攻撃に反応しきれず、雪女は直撃を食らい火だるまになった。
「あああああ!! あ、熱いいいい!」
「ふふふ、そうだろう? 何せ私の炎の吐息は最大で六百度まで温度を上げられるからねぇ、君にはキツいだろうさ」
「貴様、よく……がっ!?」
「さて、そろそろ終わりにしようか。バラバラな場所に飛ばされたユウくんたちを探さないといけないのでね……始末させてもらう!」
炎に包まれのたうち回る相方の仇を討たんと、ミサキに飛びかかろうとするおつる。だが、それよりも先に首を掴まれる。
ミサキは相手を掴んだままふわりと空へ飛び上がり、額に黄金の目を出現させる。狙うのは、相手の土手っ腹。
【レボリューションブラッド】
「それじゃあ、さようならだ。マグナムレーザー・ボルテクス!」
「ぐ、あああああ!! バカな……せっかく、力を……与えて、もらったのに……」
黄金のレーザーが胴体を貫き、雷で焼き焦がす。致命傷を負ったおつるは、無念そうに呟いた後絶命しチリになった。
地上に降りた後、ミサキは同様にレーザーを放ち虫の息の雪女にトドメを刺す。これでもう、輪廻の加護により転生することはない。
「ふう、無事倒せたね。一向に俊雄さんからの連絡はないけれど……ま、多分ユウくんたちのサポートをしてるんだろう。こちらはこちらで探索を再開するとしようか」
一息ついた後、ブリギットの援護に向かってから一向に連絡のない俊雄について考えるミサキ。いずれ連絡があるだろうと思い直し、ユウたちを探すため雪原を去って行った。




