142話─大と小の激闘!
「さあ、行くデスマス! ガイアブレスレット装着! パワーオン!」
手元に出現したオレンジ色のブレスレットを右手首に装着し、ブリギットはそのまま腕を天に突き上げる。すると、彼女の身体を陽光のようなオレンジの光が包む。
人型のシルエットとなった彼女は、少しずつ巨大化していく。そして……光が消えると、そこには巨人がいた。
「うおおおお!? なんだこりゃ、報告は聞いてたがこんなデカいのにも変身しやがるってのか!?」
『デュふふふ、驚きましたかな! これこそが元祖巨大ヒーロー【守護者巨神タイタニアン】! その威容にひれ伏すがよいですぞ!』
「ひれ伏すがいいデスゾー!」
巨人はオレンジ色のボディの上に手脚から白いラインが伸び、胴体の縦線で一つに結ばれた身体を持ち。頭部は仮面のように無機質な質感をしており、はしゃぐブリギットとの対比がかなりあった。
俊雄によって変身したのは、日本においてかなりの歴史を持つ巨大化ヒーロー作品の主人公。地球の意思から大いなる力を授けられた青年が、宇宙より襲来する異星人や怪獣と戦うシリーズ作品だ。
「さーて、こうやって大きくナッタからにはもう負けないデスよ! ところ構わず地団駄踏んでれば、そのうち踏み潰せるハズ!」
『そうそう、そのとお……ん? 相手は一寸法師……あ、まずいですぞブリギット殿!』
相手が小さくて捉えられないなら、自分が巨大化して暴れ回ればそのうち勝手に死んでいるだろうと考えたブリギット。そんな彼女に頷いていた俊雄は、あることを思い出す。
「やっべぇ、このままじゃ死ぬ……わけねえだろ! こっちには『これ』があるんだ、巨大化はそっちだけの十八番じゃねえ! 行くぜ、打ち出の小槌!」
「オヨ? 何を……ホワッ!? なんでデカいのが出てきマシター!?」
『ぐぬぬ、拙者としたことがすっかり忘れていましたぞ! 一寸法師はお話の最後で打ち出の小槌によって大きくなると!』
「な、なんデスとー!?」
タイタニアンに変身したブリギットの身長は、現在約五十メートル。流石の一寸法師といえど、その巨体から逃げ続けるのは不可能と言えた。
そこで、原典にて自身を大きくするために使用された打ち出の小槌を呼び出して相手に対抗出来るよう巨大化したのだ。
「はっはっはっ! どうだ! 大きさはこれでごかぐっべぇ!?」
「必殺不意打ちパーンチ! ワタシを甘く見ない方がいいデスよ、リンカーナイツ相手に正々堂々やると思ったら大間違いデス! チェスト! チェスト!」
「いたっ、いったっ! てめぇふざけんじゃねえぞ、仮にも正義の味方だろが!? やっていいことと悪いことおぼぉ!」
これで対等……と、一寸法師が得意気にしていたその時。ブリギットが不意打ちの拳を顔面に炸裂させ、倒れた相手に馬乗りになったのだ。
彼女にとって、リンカーナイツに与する異邦人はあらゆる手段を用いて排除するべき敵に他ならない。勝つためならばダーティファイトもこなすのである。
『お、おお……な、なかなかやりますな?』
「あー、なんで引くデスか! ワタシは……オット!」
「んのクソアマ、もう許さねえ! 次はてめぇが踏み潰される恐怖を味わいやがれ! 打ち出の小槌で小さくしてやらぁ!」
マウントを取られ、ひたすら殴られていた一寸法師が完全にキレた。力尽くでブリギットをぶん投げ、打ち出の小槌を構えて襲いかかる。
原典たる物語では描写されなかったが、おとぎの国では打ち出の小槌により対象を小さくすることも出来るらしい。
「ん? そうデスか。じゃあ勝手に小さくなるデス、ガイアブレスレット……ミニマムモード!」
「は!? なんだお前ズル……ぼぶっ!?」
「やーいやーい、自分の脛殴ってるデース! ダサすぎてヘソが茶ぁ沸かすデスねー! ぷっぷっぷー!」
いざ逆襲、と走りながら小槌を振りかざす一寸法師。振り下ろされたソレが直撃する寸前、ブリギットはブレスレットの力で自ら一寸サイズに小さくなった。
結果、空振った小槌は一寸法師の右脛にクリーンヒットすることに。盛大に自爆をかましてのたうち回る相手を、ブリギットは煽り散らしながら笑い転げる。
『むむむ……。ガイアブレスレットのパワーで小さくなり、機械怪獣の体内に入り込んで自爆を止める回もありましたが……。ブリギット殿、その時以上に使いこなしていますな』
「ふふふ、おシショー様にいろいろと仕込まれマシタので! ワタシ、器用さならゆーゆーにも負けない自身が……」
「どこまでも人をコケにしてくれやがってよぉ……! どこにいようが見つけ出してやるぞ、ニードルレイン!」
シャーロットたちよりも早く力を使いこなしてみせているブリギットに、俊雄が舌を巻いていたその時。復活した一寸法師が、針の雨を降らしはじめる。
ブリギットが最初にやろうとしていた戦法を逆用し、無限に降り注ぐ巨大な針で敵を串刺しにするつもりなのだ。これには、流石のブリギットも苦戦……。
「フーン、そんなすっトロい攻撃なんて当たりまセン! おシショー様との修行で食らったビームの方が、モット速くて回避不可能でシタ!」
「チィッ、声はするが姿は見えねえか。小ささといい、まるでゴキブリだな!」
することはなかった。師匠であるファティマの地獄の訓練によって、ブリギットの動体視力は極限まで鍛え上げられているのだ。
単純に高速移動する物体を目で追うだけならば、フクロウの化身たる魔神ダンスレイルにも引けを取らない。単なる無数の針など、目を瞑っていても避けられる。
「あーん? 乙女をゴキブリ呼ばわりスルなんてマナーがなってナイですね。ワタシをゴキブリ扱いしてイイのはおシショー様だけデスマス!」
『いや、それもどうかと思いますぞ?』
「もう怒ったデス! もっかい巨大化してぶちのめしてやるデスよ! ガイアブレスレット、タイタンモード!」
『無視されましたぞ……しくしく……』
ゴキブリ呼ばわりされたことに腹を立てたブリギットは、お遊びをやめ一寸法師を始末するため再度巨大化する。その傍らで、スルーされた俊雄が泣いていた。
「バカめ、まだ針の雨は続いてるんだ。そんな状況で元の大きさに戻るとは死にたいようだな!」
「ン? ああ、この程度なら痛くも痒くもないデス。今のワタシは大地の化身、地に足が着いてイル限りちょっとやそっとの攻撃じゃ傷ナンテつかねーデス!」
降り注ぐ針は、ブリギットの身体に突き刺さることなく表面を滑り落ちていく。タイタニアンは地球の意思に守られており、地上にいれば耐久力が大きく上昇する。
そのため、原作の作中に登場する敵はあらゆる手を使ってタイタニアンを地上から引き剥がし、優位な状態で戦おうと策を巡らせていた。
……が、一寸法師にそんな策はない。ブリギットを大地から引き剥がすすべなど、彼は一切持ち合わせていないのだ。
「クソッ、なんつーふざけた能力だ! インチキもいい加減に」
「いい加減にスルのはお前たちの方デス! こんなふざけた国を作って、何の罪もナイ王国の人たちやよしよしたちを苦しめる。そんな悪人ドモはワタシが裁くデス!」
「ハッ、好き勝手言ってくれるじゃねえか。居場所がねえなら自分たちで創り出すしかねえんだよ、こっちはな! 黒原様はな、寄る辺ない連中のためにこの国を……ぐふっ!」
「だったら、人のいないヘンピな場所でやりやがれデス! どんな大義名分を掲げてるカハ知りまセンが、こんな真似が許されることはナイと知りなサイ!」
一寸法師に肉薄し、相手の土手っ腹に右の拳を叩き込むブリギット。すると、ブレスレットがオレンジ色の輝きを放ちはじめた。
【レボリューションブラッド】
「こいつでトドメを刺すデス! ガイア・ブラスター!」
「ぐ、ごはっ! ……チク、ショウめ……。こんな一方的にやられ……」
叩き込まれた右拳から、オレンジ色のビームが発射される。ゼロ距離から攻撃をブチ込まれた一寸法師は防御も回避も出来ず、一撃で葬り去られるのだった。
「フウ、これで終わったデスね。さ、ゆーゆーたちを探し……としとし? さっきから静かデスがどうかしまシタ? さっきスルーしたコト、怒ってるデス?」
『あいや、実はですな。つい先ほどシャーロット殿が戦っていた敵も、一寸法師と同じようなことを言っていまして……』
戦いを制し、仲間と合流しようと歩き出すブリギット。直後、やけに俊雄が静かなのに気付き声をかける。先ほどスルーされてスネているのかと考えたのだ。
そんな彼女に、俊雄はグレーテルが今際の際に遺した言葉を伝える。話を聞き終えたブリギットは、困ったように眉根を寄せる。
「ウーン……クロハラのやりたいコトはなんとなく見えてきまシタ。デモ、こんなやり方を認めるわけにはいきまセン」
『拙者もそうは思いますが……正直、複雑な気分ですぞ。パラディオンギルドに拾ってもらえたからよかったものの、もしそうでなければ……』
「……難しいものデスね。差別も偏見もリンカーナイツも、全部無くなればいいノニ」
そう呟き、ブリギットは空を見上げるのであった。




