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140話─銀河より、正義の使者来たる

「報い、ねえ。お生憎様、そんなことにはならないのだ! 行けっ、ブーメランタートル! あいつのアバラをへし折っちゃえ!」


「いいや、受けてもらうぜ。嫌っつってもムダだ、アタシが受けさせてやっからよ! オラアッ!」


 浦島太郎は自身の近くを浮遊していたウミガメを放ち、ブーメランのようにチェルシーを攻撃する。逃げれば倉庫の中にいる人々に当たりかねない。


 そのため、チェルシーは全身に力を込めて踏ん張りウミガメを受け止める。が、その衝撃でマジンフォンが落ちてしまう。


「あ、やべ……」


『……殿! 聞こえておりますかな、チェルシー殿! 通信が繋がっていたら返事をしてくだされー!』


「……わけでもねえな、ミサキ風に言や塞翁が馬ってやつだ! トシオ、問題なく聞こえてるぜ……そりゃ!」


 しかし、それが良い方に転がった。地面に落ちた衝撃で故障していた通信機能が復活し、俊雄と連絡が取れるようになったのだ。


 受け止めたウミガメを投げ返し、チェルシーは素早くマジンフォンを拾う。


「わりぃな、いろいろあって今戦闘中だ! 力貸してもらうぜ、相手は……ウラシマタロウとか名乗ってる!」


『むむ、こちらもすでに戦闘に! あいかしこまりました、それでは拙者がお力添え致しますぞー!』


「チッ、かぐや姫たちの時みたいなことするつもりか。そうはさせない、もっかいブーメランタートルを食らえ!」


「危ない、逃げろ!」


 状況を理解した俊雄により、チェルシーの背中にビデオテープが挿入されていく。それを見た浦島太郎は、再びウミガメを放ち妨害しようと試みる。


 何らかの方法でかぐや姫戦の情報を得ているらしく、飛来するウミガメは勢いがさらに上昇していた。チェルシーに助けられた青年が叫ぶなか、変身が始まり……。


「さあ行くぜ……瞬・着!」


「うわ、まぶしっ!」


「ひええっ! な、何が起きてんだあ!?」


 チェルシーの身体から眩い光が放たれ、不可視の力場が発生してウミガメが弾き返される。浦島太郎や青年たちが目を瞑るなか、少しずつ光が消えていき……。


「遠い銀河の果てまでも、正義のまなこは悪を見逃さない。聞け! 我が名は銀河特捜マイティバーン! 悪しき者よ、現行犯で逮捕する!」


 現れたチェルシーの姿は、大きく変わっていた。メタリックシルバーのボディを持つ、サイボーグとなっていたのだ。


 頭部は黒いバイザー付きのマスクで覆い隠され、警察官が被る帽子のような飾りが頭頂部に着いている。威圧感のある姿に、場が静まり返る。


 彼女が変身したのは、俊雄が生まれる前に放送されていた特撮作品……【銀河特捜マイティバーン】。宇宙にはびこる犯罪組織、デブリスターズと戦う宇宙刑事マイティバーンの戦いとサイボーグ故の苦悩を描いたギャラクシーヒーロー三部作の第一弾だ。


『くう~、これこれ! 完璧な名乗りでしたぞチェルシー殿! 拙者それはもうマイティバーンは五百回ほど借りてきたビデオを』


「おう、わりぃがその話は戦いが終わってからにしてくれや。さて、ウラシマタロウさんよ、おめぇはデブリスターズじゃあねえが……」


「ねえが……なんだってのさ?」


 もはや恒例となった俊雄のオタク談義キャンセルを挟み、チェルシーは手首に付いているボタンを押しながら浦島太郎に話しかける。


 すると、腹部が展開し体内に収納されていた銀河警察の警察手帳が現れる。手帳を相手に見せ付けながら、チェルシーは叫ぶ。


「対デブリスターズ対処法、第一条! 銀河連盟警察特別捜査課に所属する刑事は、デブリスターズが悪事を働いている場面に遭遇した場合、特例措置に基づき排除を行うことが許される! っつーわけだ、この国にとってのデブリ……要はゴミであるテメエをここで排除する!」


「ゴミねぇ、言ってくれるじゃん! 本当にやれるのか確かめてあげるよ! 今度は全力……受け止められるもんならやってみろ!

ハイパー・ブーメランタートル!」


 警察手帳を仕舞うチェルシーへ、三度ウミガメが放たれる。腰へ手を伸ばし、警棒らしきものの柄を掴み取ったチェルシーはホルダーから引き抜く。


 すると、柄の先端からエネルギーによって作られた刃が伸びてくる。宇宙警察の基本武装、ギャラクティカブレードを起動したのだ。


「カメにゃあ恨みはねえが、こっちは民間人を守らなきゃならねえんでな。気の毒だが……こうする! スリャアッ!」


「おお、凄い! 飛んできたウミガメが真っ二つだ!」


「キィア……」


 逆手に持ったブレードを振るい、チェルシーは心の中で謝りながらウミガメを一刀両断する。青年や倉庫に捕らえられていた者たちが歓声を上げるなか、チェルシーは走る。


「さあ、次はテメェの番だ! 対デブリスターズ対処法、第二条! 銀河連盟警察特別捜査課に所属する刑事は、自身の裁量に基づき令状無しでデブリスターズを処罰することが出来る!」


「ふざけやがって、殺されてたまるかっつーの! 食らえ、ソードフィッシュミサイル!」


「ハッ、すっトロい攻撃だな! 今のアタシにゃあ全部止まって見えらぁ!」


 浦島太郎は十メートル近い後方へテレポートし、巨大なカジキを数匹召喚する。それらをチェルシーに向かって高速で放つも、全て斬り捨てられてしまった。


『くぅ~、かっこいいですぞ! あの日テレビの前で見』


「だーっ、それは後で聞くっつってんだろ! 戦いに集中させろ!」


「お喋りなんて余裕だね! こいつは対処出来るかな? 竜宮の玉手箱!」


 まだ距離的に余裕があるからか、特段焦ることなく浦島太郎は次の手に出る。巨大な玉手箱を召喚し、封を解くと……箱の中から煙が溢れ出しチェルシーを包み込む。


「うおっ、また霧……いや煙か! チッ、いい加減鬱陶しいぜ!」


「あははは! そうやって怒っていられるのも今のうちだよ。その煙を浴びた奴はみんな老化するんだ。お前なんてしわくちゃのババアになるぞ。ま、元からババアみたいなも」


「あ゛? 誰がババアだてめぇ、お姉さんだろがオラァッ! マッポの拳を食らえや!」


「べぶぁっ!?」


 うら若き乙女を自認しているのに、ババア呼ばわりされたことでチェルシーがキレた。煙の中を最速で突っ切り、浦島太郎の顔面にグーパンを叩き込む。


「ぐ、ぐええ……。なんで、老化してない……?」


『デュフフフ、残念でしたな! マイティバーンは身体の八割を機械化したサイボーグです故、老化ガスなぞ効かないのですぞ!』


「そーいうこった。さて、このままぶっ殺してやりてぇとこだが……その前に聞かなきゃならねえことがある。アタシたちより前に、ここに踏み込んだパラディオンたちがいる。そいつらの居場所を知ってるなら全部吐け」


 へし折れた何本かの歯と血を撒き散らしながら、浦島太郎は吹っ飛ばされる。悪鬼のような表情を浮かべ、乙女は相手ににじり寄る。


 もしユウが今のチェルシーを見たら、気絶してしまうだろうことは明らかなほど人様にお見せ出来ない殺意を放出していた。


「ぐ、ふ……。ああ、あいつらね。金太郎から連絡があったよ、何人か逃げられたけど残りは捕まえたって」


「ほー、そうかそうか。で、そいつらは何処に捕まってるんだ?」


「さあ、そこまでは聞いてないよ。こうやってやられた時の情報漏洩防止のためにね、必要最低限の報告しか来ないのさ」


「……フン、嘘をついてるわけじゃなさそうだな。ならもう用済みだな、これ以上好き勝手出来ねえように……処罰させてもらう!」


 必要な情報を聞き出した後、チェルシーはギャラクティカブレードにエネルギーを注ぎ込む。すると、白かったエネルギーの刃が輝く銀色へと変化した。


【レボリューションブラッド】


「こいつでトドメだ! ギャラクシー・エンド!」


「ぐ、あ……! クソッ、こんなところで……。金太郎、一寸法師、後は任せ……」


 光の刃で両断され、浦島太郎の生命反応が消失した。チリとなって消滅したのを見届けた後、チェルシーは倉庫に戻る。


「よっ、待たせたな。お前らを閉じ込めた奴はぶっ殺してきたぜ、今から外に逃がしてやっから安心してくれ」


「……なんでだ? お前、異邦人の味方をしてるクセに。なんで俺たちを助けるんだよ」


 変身を解除し、倉庫の中にいた青年や王国民たちに語りかけるチェルシー。そんな彼女に、青年が理解出来ないといった風に問う。


「決まってるだろ、異邦人だのなんだのはこっちにゃ関係ねえ。悪人に苦しめられてる奴らがいたら助ける。それだけのこった」


『……リーヴェディア王国の民が、拙者たちを嫌っているのは知っていますぞ。しかし、偏見と差別は憎しみしか生みませぬ。どうか個人個人を見ていただきたい。そうすれば、きっと……拙者たちは分かり合えるはずですからな』


「……今の声、異邦人か? ……そうだな、まがりなりにも助けられたわけだし。努力……一応、してみるよ」


「よし、分かってくれたならそれでいち。さあ行こうぜ、墓の下に押し込められてる連中も助けなきゃならねえしな」


 チェルシーや俊雄の言葉で、ひとまず和解することを選んだ青年は背後にいる仲間たちに目配せする。彼らもまた、青年に同意したようだ。


 満足そうに頷き、チェルシーは彼らを連れて倉庫を出る。ほんの少しだけ、されど確実に。わだかまりが解けつつあるのだった。

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条約まで考えてあるキャラらしいが(ʘᗩʘ’) 流石に遠い異世界の地では最高裁判所のジャッジメントタイムは出来ないか(⌐■-■)
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