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138話─創り出せ! 勝利のフルコース!

「へえ、フルコース。いいよ、出してみればいいさ。僕たち絶対食べないけどね!」


「ぜーんぶお残ししてあげる。一口も手を付けないわ! クッキーソーサー!」


「あらあら、悪い子たちね。いいわ、ユウくんみたいに好き嫌いなくなんでも食べる……そんないい子にしてあげるわ! クッキング、スタート!」


 大窯の魔女をまるごと魔力に変換し、取り込んだシャーロット。そんな彼女に、ヘンゼルとグレーテルが放つ巨大クッキーが襲いかかる。


 フチが鋭い刃になっているクッキーをまな板の盾で防ぎつつ、シャーロットはふわりと空中に浮く。そして、自身の真下に巨大な鍋を創り出した。


「さあ、シャーロット流フルコース……最初は前菜(オードブル)よ! たっぷりと召し上がれ、今日の一品を!」


 迫り来る無数のクッキーカッターをまな板で粉砕しながら、シャーロットは足下の鍋にて料理を行う。この鍋はただ煮込むだけではない。


 シャーロットが変身している元作品『ミラクルお料理♪ハニークック』のように、どんな調理もこなせる魔法の鍋なのだ。


『拙者ワクワクドキドキしますぞ! あ、拙者は好き嫌いはないのでそこの心配はいりませんぞ!』


「いや、今作ってるのはあの子たちを倒すための料理なのよ……。ちゃんとしたのは後で作るから、少し待ってなさい。さ、行くわよ! 前菜(オードブル)、【生ハム巻きグリーンマッシュポテトのバゲット乗せ】よ!」


「うわっ、何か出てきた!?」


 シャーロットが最初に完成させたのは、細かく刻んだブロッコリー等の野菜を練り込んだマッシュポテトを生ハムで包み、薄切りにしたバゲットに乗せた料理だった。


 前菜(オードブル)に相応しい、軽く摘まめるちょっとした一品である。……人間を軽く轢き殺せるくらいの巨大サイズであることを除けば、だが。


「さあ、好き嫌いばかりする子には無理矢理にでも食べてもらうわよ? 突撃開始!」


「ちょおおおっと、そんなの聞いて……きゃあっ! ないんだけど!?」


「は、はやっ! こんなのに体当たりされたら死んじゃうよ! 僕らを殺すつもり!?」


「え? そうだけど。あなたたちを放置してたら、後々ユウくんたちが困りそうだし」


 号令を受け、料理が猛スピードで飛翔しヘンゼルとグレーテルに襲いかかる。自分たちの十八番をやり返され、兄妹は大慌てで地上を逃げ回る。


 が、速度で遙かに勝る料理に追い付かれ追突されることに。前菜(オードブル)ゆえに威力はそこまでないのか、勢いよく吹っ飛んでお菓子の家に激突するもたいした怪我は無いようだ。


「う、いたた……。よくもやったな、グレーテルに何かあったらどうしてくれるんだ!」


「そうよ、ヘンゼルに後遺症でも……? 何かしら、なんだか涼しくなってきたわね」


「ふふふ、あなたたちが逃げ回ってる間に次の料理の()()()をさせてもらったわ。お次はスープよ、あっつあつを召し上がれ。いでよ【人参とカボチャの冷製スープ】!」


 反撃に出ようとする兄妹だったが、ふと空気が肌寒くなってきたことに気付く。直後、鍋がひっくり返りオレンジに近い黄色の液体が溢れ出す。


 液体はあっという間に兄妹を呑み込み、冷製の名に恥じぬ冷気によってじわじわとダメージを与えていく。二人は抜けだそうとするも、冷気に体力を奪われ思うように動けない。


「さ、ささささ寒い! くそっ、身体の動きが鈍る……!」


「大丈夫だよグレーテル、僕たちが動けないならこうしてやればいい! プレッツェルジャベリン!」


『シャーロット殿、来ますぞ!』


「問題ないわ、超高速で調理をしてるからすぐにでも……出来た! 魚料理(ポワソン)【ダイオウタイの姿焼き~特製ソースを添えて~】の完成よ! これで全部……撃ち落とす!」


 直接攻撃が出来ないなら、遠隔攻撃で反撃すればいい。焦るグレーテルを落ち着かせつつ、ヘンゼルはそうして反撃に出る。


 俊雄が警告するなか、シャーロットは新たな料理を完成させ鍋から取り出す。丸焼きにされた巨大な魚を呼び出し、口から放つソースの砲弾で攻撃を相殺する。


「冷製スープの海は冷たいでしょう? そろそろ暖めてあげる、濃厚な味の特製ソースでね!」


「くうっ……くそっ、僕たちは負けられないんだ。黒原様に賜った、大切な安住の地を守るためにも!」


「そうよ、やっと……穏やかに暮らせる場所を手に入れたのに。奪われてなるものか! 行きなさいゼリー・シャーク! あの女を食い殺せぇぇぇぇ!!」


 形勢逆転され、追い詰められつつあるヘンゼルとグレーテルは焦り始めた。どうにかしてシャーロットを倒そうと、ゼリーで出来た巨大サメを呼び出しけしかける。


「あらあら、大きなサメ……まるで牙の魔神クイナ様みたい。なら、こっちは肉料理(ヴィアンド)で対抗させてもらうわ。【魔界牛のレイジング・ヒート仕上げ】の出来上がりよ! それっ!」


「ブモオオオオオ!!」


 空中を大きく横移動し、敵の初撃を回避しつつ新たな料理を呼び出すシャーロット。鍋の中から現れたのは、巨大な牛だった。


 よく見ると、牛の全身が分厚いステーキと薄いローストビーフで形作られている。鼻腔をくすぐる香りが、嗅ぐ者の腹を空かせる。


「牛とサメの対決、どちらが勝つかしらね! さあやっちゃいなさい!」


「負けるなゼリー・シャーク! 僕たちはもう戻りたくないんだ……クァン=ネイドラ(こっち)に来る前の、惨めな暮らしには!」


「ここで勝たなきゃ、黒原様に捨てられる……嫌、それだけは絶対に……!」


 食物で出来た巨大獣の戦いが始まるなか、シャーロットと俊雄はヘンゼル・グレーテル兄妹の異変に気付く。あまりにも怯える二人を見て、首を傾げた。


『ふむ、先ほどから様子が変わりましたな。あの二人、異様に黒原を恐れているようですが……』


「単純に粛清を恐れてる……ってわけでもなさそうね、離れてるから詳細までは聞こえないけど……。トドメを刺す前に、事情を聞いておきましょうか」


 そう話している間も、鍋の中で最後の一品であるデザートを作り続ける。そんななか、巨大獣が相打ちとなり両者共に消滅していった。


「! 相打ち……まあいいさ、このまま一気に攻め立てて反撃だ! やるよグレーテル、切り札発動だ!」


「ええ、せーの……ギガ・プディングメテオ!」


 今が反撃の最後のチャンスと捉え、兄妹が即座に動く。シャーロットの遙か頭上に、巨大なプディングを作り出す。その大きさは、ちょっとした小山ほど。


 直撃すれば、間違いなく無事では済まないだろう。ピンチが訪れるなか、シャーロットは……。


「行けーーー!! あの女を押し潰せー!」


「これでトドメよ! 死んじゃえー!」


『シャーロット殿、攻撃が来ますぞ! 悠長に調理を続けてる場合では……』


「大丈夫よ、もう完成したから! これがシャーロット流フルコース、最後の一品! その名も……【闇の王に捧ぐブラックカカオアイス】よ!」


 巨大菓子が迫るなか、シャーロットは矢の形をした巨大なアイスを完成させた。矢を落下してくるプディングに向け……最後の一撃を放つ。


【レボリューションブラッド】


「これで終わりよ! ディザスター・アロー【晩餐(ディナー)】!」


 放たれた矢は、プディングを貫き粉々にしてしまう。そうして最高高度に達した後、分裂を繰り返し矢の雨となって地上に降り注いでいく。


「そんな……僕たちの奥義が……」


「……ここまでね。もう……打つ手は、一つもないわ」


 敗北を悟り、ヘンゼルとグレーテルの兄妹は無抵抗で矢を受ける。巻き込まれたお菓子の家も倒壊し……矢の雨がやんだ後、無事に残るものは何もなかった。


「終わったわね。あの二人、まだ息があるといいのだけれど……」


『気配はありますからな、まだ生きてはいましょう。もっとも、虫の息ではございましょうが』


 そんな会話をしつつ、シャーロットは地上に降りて兄妹の元に向かう。そこには……仰向けに倒れ伏したグレーテルと、彼女を庇うように覆い被さり息絶えたヘンゼルの姿があった。


 グレーテルはかろうじて生きていたが、その命も長くは保たないだろう。上から見下ろすシャーロットを睨め付けながら、少女は口を開く。


「負け……たのね、私たち。悔しい……ようやく、手に入れたのに。二人で、静かに暮らせる場所を」


「さっきもそんなことを言っていたわね。断片的にだけど聞こえていたわ。教えてちょうだい、あなたたち……何をそんなに怯えているの?」


「ふ、ふふ……私とヘンゼルはね? 転生する前は……孤児だったの。誰にも助けてもらえない、惨めな……」


 シャーロットに問われ、グレーテルは話し出す。自身とヘンゼルの過去を。彼女の語りを、シャーロットと俊雄は黙って聞き続ける。


「そんな私たちも、ネイシア様に選ばれ転生した。でも……チート能力は授けてもらえなかった。そんな無力な子どもが、異邦の地でどう生きればいい? 結局、転生しても私たちは誰にも助けてもらえなかった」


「それは……」


「お前に分かるかしら? 異邦人というだけで、何も悪事を働いてないのに排斥される苦しみが。全ての現地人が……私たちを受け入れてくれるわけじゃない。そんな当たり前の現実に打ちのめされ、絶望していた私たちを……黒原様が救ってくれた」


 リーヴェディア王国のように、異邦人というだけで問答無用で個々の善悪に関係なく排除しにかかる者たちも……残念ながら存在している。


 リンカーナイツによる風評被害は、決め付けによる偏見と差別を生み……憎しみの連鎖を作り出し続けている。その事実を突きつけられ、シャーロットは何も言えなくなってしまう。


「黒原様は言ったわ。自分に着いてくれば、悩みも苦しみもないおとぎの国に連れて行くって。そこでなら……ひもじい思いをしなくていい。誰にも虐げられずに……生きて、いけると……。約束、して……」


『……息絶えましたな。黒原修一……かの者の所業は許せませぬが、この者たちのように救われている者らもおるのですな……』


「そう、ね。やるせない気持ちになるわ……彼らはただ、幸せに暮らしたかった。ただそれだけなのに……」


 勝利は掴み取ったが、おとぎの国の侵食の裏にある切ない事実を知りシャーロットは複雑な表情を浮かべる。クァン=ネイドラの民と、異邦人の間にある溝。


 リンカーナイツによって生まれたしまったソレによって生まれた被害者は、この兄妹以外にも大勢いるだろう。そのことを想い……シャーロットはため息をつくのだった。

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― 新着の感想 ―
ヤレヤレ┐(´д`)┌ 食い物を粗末にするのは目を瞑れても(◡ω◡) 飯が不味くなる話だな(´-﹏-`;)
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