134話─月の巨人と裁きの巨神
かぐや姫一行を撃破した……と思っていたユウたちの前に現れたのは、異形の巨人であった。肘や膝、肩といった関節部に月を思わせる球体を備え、竹のような深い緑色のボディを持ち。
その月一つ一つにかぐや姫たちの顔がある代わりに、本来頭部があるべき場所には虚ろな目をした灰色のウサギの頭があった。よく見ると、うさぎは機械で出来ているようだ。
『な、なんですかあれはー!?』
『デュフフフ、慌てる必要はありませんぞユウ殿! 戦隊ヒーローの戦いの〆……それは巨大化した敵との死闘! さあ! こちらも合体ロボを駆使して戦うのですぞ!』
『が、合体ロボ!? パパの持ってるレオ・パラディオンですらそんな機能ないのに……出来るんですか、そんなこと!?』
巨人を見上げ、驚愕するユウに俊雄がウキウキしながら答える。彼の返答を受け、ユウは父リオが所有する巨大ロボットのことを思い出していた。
──レオ・パラディオン。正義の側に属する異邦人たちの組織の名の由来でもある、魔神リオが駆る搭乗タイプの人型戦闘兵器。
遙か昔、魔王戦役の時代に偶発的に完成した獅子の頭部を持つ騎士の姿をしたロボットである。魔王戦役だけでなく、その千年後に起きた堕天神事件やフィニス戦役でも活躍した。
……と、ユウはリオや母親たちから聞いている。他にも空中戦艦や空飛ぶ砲塔列車もあるが、いずれも俊雄の言うような合体機構は有してはいない。
『デュフフフフ、それが戦隊ヒーローのお約束ですからな! さあユウ殿、オカリナを吹くのです! そうすれば全員が搭乗する神獣ロボが集結しますぞ!』
『ほう、これは驚いた。いつの間にオカリナが……。小僧、早くそれを吹け。我はロボなるものを見たいのだ』
『まったく、仕方ありませんね……。それ、いきますよ!』
突然手元に現れた黄金色のオカリナに唇を当て、音色を奏でるユウ。すると、再び轟音が鳴り響き地が裂けていく。
亀裂か広がり、竹林が呑み込まれ仲間たちの姿が見えるようになるなか……それらは現れた。
「おー、ゆーゆ! 無事デ……ほわあああああああ!? 地面から鹿みたいナノが飛び出してきたデェェェェス!?」
「ちょ、なんなんですのこのウミヘビみたいなのはあああああ!? わたくし蛇は苦手なんですよのおおおおおお!?」
「トシオ!? これはどういうことなのか説明してもらえるかしら!? なんで私たちのところに動物の姿をしたキカイが出てくるのよ!?」
ユウたちが宿す神々に対応した動物の姿をした大型ロボットたちが、それぞれの元に姿を現したのだ。現れたのはワシ、ウミヘビ、天馬、白鳥、鹿、ケルベロス。
それぞれがギリシャ神話の神々のシンボルたる動物たちなのだ。最初はパニックになっていたシャーロットたちも、俊雄の説明を聞きひとまず落ち着く。
「なるほどね、つまり私たちは彼らに乗り込み合体ロボ? とやらになるわけだ。ふふふふ、なかなか楽しそうだね」
「よっしゃ、とりあえず乗り込もうぜ! あのバカデケぇ怪物、今は微動だにしねえがいつ動き出すか分からねえからな」
『ではそれぞれの神獣に祈りを捧げるのです! そうすればコクピットにワープ出来ますぞ! 全員の搭乗が終わったら、ユウ殿が【オリンポス・エンゲージ】と叫べば合体が始まりますぞ!』
『分かりました、とりあえずやってみます!』
巨人は融合したばかりで意識が混濁しているのか、動く気配を見せない。この機を逃すまいと、ユウたちは祈りを捧げそれぞれのロボに乗り込む。
『みんな乗り込めましたね? では行きますよ、オリンポス・エンゲージ!』
ユウの掛け声に合わせ、六体の神獣ロボたちが変形と合体を始める。ユウが乗る黄金のワシ型ロボットの脚が格納され、接続部が現れた。
翼が両腕に当たる位置から背中に移動し、腕用の接続部が露出する。直立姿勢になりつつ、他の神獣ロボたちを待つ。
『ムホホホホ! あの日見た変形合体シーンをこんな風に見られるとは! オタク冥利に尽きますぞ~!』
『……うるさい奴め。味方でなければ八つ裂きにしてやっていたものを……』
『あ、あはは……』
ハイテンションで騒ぐ俊雄にヴィトラが辟易とするなか、変形と合体が進行していく。バトルポセイドンが乗る青いウミヘビ型ロボが少しずつ縮んでいき、右腕となってワシ型ロボに接続される。
反対側では、バトルヴィーナスが駆る白鳥型のロボが変形し、長い首と一対の翼によって形作られたクロー状の手を持つ左腕へと変形していた。
「おーおー、窓から見えるがすげえガッチャンガッチャンしてんな。でもアタシらが揺れたりはしねえんだなあ、すげえもんだぜ」
「なんだかワクワクするデスマス! ワタシも変形出来るようになったらゆーゆーとがった」
「ブリギット? それ以上のおイタは後でお仕置きよ?」
「……デス」
バトルアポロン、バトルアルテミスが乗る天馬、鹿型のロボが両脚となり合体するなか暇を持て余したシャーロットたちは雑談を行う。初めての体験に、戦闘中であることを忘れかけているようだ。
「ほらほら、もう合体も終わるよ。気を引き締めていかないとね、負けられない戦いなのだから」
「ミサキさんの言う通りですわ! さあ、第二ラウンドを始めますわよ!」
最後に、追加戦士であるバトルハーデスが操るケルベロス型ロボの三つの頭が鎧のようにワシ型ロボの頭部と両肩に被さり……超神ロボ【ギガノマキア】が誕生した。
ミサキとジャンヌの言葉で気を取り直し、ユウたちは巨人を見据える。なお、合体が完了したことでコックピットの位置が変わり、全員ワシ型ロボの中に移動していた。
「ぬうう……ふうう……。よくもやってくれたものじゃの、こうして奥の手を使わざるを得ぬ事態にまで追い込んでくれるとはな」
『随分遅いお目覚めですね、こっちはもう迎撃準備が終わりましたよ』
「そのようじゃな、だが……巨大ロボに乗り込んだくらいで我らに勝てると思うな!」
よやく意識が戻った月の巨人は、挨拶代わりとばかりに強烈な右ストレートを放つ。ロボの両腕をクロスさせ、先制攻撃をガードするユウ。
『おっと、いきなりのご挨拶ですね。ならお返ししてやります! スワンクロウ!』
「気色の悪い月を切り裂いてあげるわ、覚悟しなさい!」
「ぬ……ぐっ!」
機体を前進させて相手をよろめかせ、後退させたユウ。直後、左手のスワンクロウによる反撃を叩き込む。素早く体勢を立て直した相手にガードされてしまったが、無傷では済ませない。
「フン、多少フラつかされたが防いでしまえば……ん? なんじゃこれは……羽根?」
「その通りよ。その羽根がくっつくとね、少しずつ力を吸い取られて弱っていくの。ちなみにすごーく吸着するから、そう簡単に引っ剥がせないわよ? ホホホホ!」
「むぬっ!? おのれ、小細工をしよる!」
攻撃を受け止めた巨人の腕についた裂傷に沿って、いくつかの羽根がくっつく。その羽根が巨人の力を吸い取り、筋力の低下を招きはじめたのだ。
パワーダウンした巨人はロボの追撃を防ぎきれず、右ストレートを食らい吹き飛ばされる。態勢を維持出来ず、思わず尻餅をついた。
「ぐぬぬ……ふざけた真似を! なれば体当たりをかましてくれるわ!」
『残念ですが、ボクたちは救出任務のためにここに来ていましてね……。いつまでも戦ってるわけにはいきません! 反撃を潰しつつ……仕留めさせていただきます! いでよガイアセイバー!』
筋力の低下が致命的なレベルになる前にケリをつけようとする巨人だが、短期決戦はユウたちも望むところ。彼らの目的は先遣隊の救出なのだから。
ユウが叫ぶと、黄金に輝く剣が現れる。柄を掴み、ロボを走らせ……迫り来る巨人へ向かって勢いよく振り下ろす。
【アブソリュートブラッド】
『これでトドメです! オリンポスバスター!』
「ぐ、う、あ……! バカな、我らが敗れるなど……黒原、様……」
両断された巨人が崩れ落ち、チリとなって消滅していく。おとぎの国に反撃の狼煙が上がり……その反転攻勢が、決定的なものとなった瞬間であった。




