130話─新たなる仲間、現る?
『令嬢……ですか?』
「ええ、その通りですわ。とはいえ、エクテイザー家はすでに滅び……今はわたくし一人が生き残っているのみ。ま、それはおいおい話すとして……今はギルドに帰還致しましょう。親玉を倒したことで、ウサギたちも消えたみたいですから」
『ええ、分かりました。シャロさんたち、無事だといいんですけど……あ、話をすればシャロさんから電話が。ちょっとすみませんね』
槍を地面に置き、ジャンヌと名乗った女はユウの前でかしずく。なにやら事情がありそうな口ぶりではあるが、ひとまずはギルドに帰ることに。
その直前、ユウのマジンフォンにシャーロットから着信が入る。ウサギたちが消滅した後、連絡を取り合い全員の無事を確認出来たためギルドに戻るとのことだった。
『小僧、もうやるべきことは終わった。さっさと帰れ、我は退屈なのだ』
『まったく、何もしてない人が偉そうに言いますね。まあ、確かに疲れちゃいましたし帰りましょう。あ、その前に! 俊雄さん、協力ありがとうございました! おかげでフェナンを倒……俊雄さん?』
「ふぬおおおおおお……!! ま、眩しすぎますぞ……! 拙者には三次元の美少女への耐性が備わっておりませぬぅぅぅぅぅ!!!」
「あの、貴方……行ってしまいましたわ。稲妻のような速さでしたわね……」
ユウは俊雄にお礼を言ってから帰還しようとするも、ジャンヌを見て顔を真っ青にした俊雄は脱兎の如く逃げていってしまう。生粋のオタクである彼には、いろいろと免疫がないらしい。
そんな俊雄に苦笑した後、ユウたちはギルドに戻りシャーロットたちと合流する。グランドマスターたち上層部に一部始終の報告を行った。
「なるほど、彼の能力が大活躍したというわけだね。俊雄くんには後で特別報酬を渡さねばならないな。ところで、そちらのお嬢さんはもしや……」
「ええ、お久しぶりですわねグランドマスター。不肖ジャンヌ・シルヴァーテイル=エクテイザー、ルケイアネス王国での任を終え帰還致しましたわ」
『え、ルケイアネスにいたんですか? ジャンヌさん』
「左様ですわ、王国の復興……そして、未だ残っていた黒太陽の影の残党を滅していましたのよ。我が家に伝わる神器、【破槍バルファラート】を用いて……ふふ」
どこかに逃げた俊雄を除くユウ一行、そしてジャンヌの報告が終わった後。ジャンヌは改めてユウたちに自分のことを語る。
「神器……ね。確かに感じるわ、その槍はファルダの神々が造ったものよ。……ごめんなさいね、あまり私に近付けないでもらえると嬉しいわ。闇の眷属にはだいぶキツいの……」
「失礼しましたわ、そういえば貴女様はかの魔戒王、コーネリアス陛下の御息女……。少しお待ちくださいませ、今仕舞いますわ」
「へえ、シャーロットが苦しむってこたぁ神が造ったってのは本当なんだな。でもさ、なんでそんなスゲェもんをあんたが持ってんだよ?」
ジャンヌの持つ槍を見て、シャーロットは脂汗をかく。どうやら、闇の眷属にとっては側にいるだけでそれなりのダメージを食らう代物らしい。
魔法で青い筒状のケースを呼び出し、ジャンヌは槍をその中に仕舞う。その様子を見ていたチェルシーが、首を傾げながら問う。
「遙か昔、このクァン=ネイドラが誕生した頃……神々はこの大地が闇の眷属の手に落ちるのを防ぐべく守り人を立てました。それがわたくしの一族たるエクテイザー家。この世の全てを破壊する槍を造り、我が一族の始祖に授けたのです」
「なるほど……確かに、神々にとってこの大地は最重要拠点の一つ。少しでも守りを盤石にしたいでしょうから、守り人を立てるのは納得だわ」
『あれ? でもボクと会った時に家が没落したって……』
ジャンヌの一族は遙か神世の時代から、重要な使命を帯びていたのだという。だが、その一族は今は無い。その理由は……。
「……ええ。長い間、我が一族はフェダーン帝国の貴族の一家という形で存続し、密かにこの大地を守ってきました。ですが……リンカーナイツが現れ、運命が狂わされたのですわ」
「ああ……分かるよ。やられたんだろ? あいつらに。アタシもそうだった……エレインを、妹を……殺された。あんたもそういうことなんだよな、ジャンヌ」
「……左様ですわ。リンカーナイツ……いえ、その裏に潜む者は破槍の力を危惧した。一族ごと破槍を葬り去り、この大地の守りを弱めようと……あっ?」
『……すごく、つらかったですよね。あいつらは……どこまで、人の幸せを奪えば気が済むんでしょうか。ジャンヌさんからも、ルケイアネスの人たちからも、チェルシーさんからも……この大地の人たちを、どこまで……!』
彫刻のように美しく整った顔を歪め、かつて一族に起きた悲劇を思い出すジャンヌ。そんな彼女の身体にユウの尻尾が伸び、慰めるように包み込んだ。
ユウが知っている範囲だけでも、リンカーナイツは多くの人々の命を奪った。エレインや氷狼騎士団、ルケイアネス王国の民……そして、エクテイザー家の人々。
改めてリンカーナイツの所業と、その被害者の悲しみを目にしたユウは怒りを燃やす。そんな彼の尻尾を優しく触り、ジャンヌは微笑みを浮かべる。
「ふふ、貴方は優しいのですわね。初対面のわたくしのために、そんなにも怒ってくださるなんて」
「そーデス、ゆーゆーはとっても優しいんデスマス。ぬーぬーに事情があるのは理解したデスよ、ワタシたちは今日からぬーぬーのオトモダチなのデス!」
「ぬ、ぬーぬー……?」
「……また変なあだ名を付けてるね。まあ、もう慣れたけどさ」
「コホン、あー……話が盛り上がっているところ申し訳ないのだが。これ以上は別室でお願い出来るかな? これからいろいろとやらなければならないことが山積みなのでね……」
『あ、すみません。すぐ出ますね』
これ以上はグランドマスターの仕事の邪魔になると、ユウたちは客室へと移動する。そこで改めて、ジャンヌのこれまでの境遇を聞くことに。
「……あれは十年前のこと。わたくしが七歳の誕生日を迎えた翌日……リンカーナイツが軍勢を差し向けてきましたわ。連中はこちらの退路を断ち、援軍を呼べないよう屋敷を包囲し一人残らず一族を殺そうとしました」
「チッ、汚えことしやがる。胸クソ悪くなるぜ」
「……当時、家督を継承したばかりの兄はわたくしに言いました。『奴らの狙いはこのバルファラートだ、これを持って逃げろ。お前が生き延びてくれれば、未来は守られる』と」
「なるほどね。それでジャンヌさんは槍を持って……」
「はい、秘密の通路を通って脱出しました。兄は槍のレプリカを手に、一族を率いて戦い……みな、名誉の死を遂げましたわ」
「心中……お察し致しにゃす。さぞ、お辛かったでにゃしょう」
幼い少女の身に降りかかった、あまりにも辛すぎる災い。たった一人生き延びたジャンヌは、遙か遠くに見える炎上した屋敷を見ながら誓ったと語る。
リンカーナイツへの復讐、そしてエクテイザー家の復興を。そのために、十年の時を修行に費やし……ジャンヌは神器の継承者となって、パラディオンの道を歩み出したのだ。
「わたくしは必ずや成し遂げねばなりませんわ。あの日、わたくしと槍を守るため散っていった一族の想いに応えるために。……ですので、ユウ様に一つお願いがありますの」
『ええ、なんでも言ってください! さっきブリギットさんも言いましたけど、事情を知ったからには協力は惜しみません! さあ、どんなおねが』
「一族復興のため、わたくしの婚約者になっていただきたいんですの。そのための指輪もすでに用意してありますわ!」
『……え?』
「はい?」
「ああん!?」
「ンンンン?」
「……おやおや?」
「ほう、こいつぁ……」
すっかり親身になったユウは、ジャンヌへの惜しみない協力を表明する。その直後、ジャンヌは頬を赤らめながらそんなことを言い出した。
『ちょ、ちょっと待ってください!? なんでそうなるんですか!?』
「不躾ですが、わたくし……マジンフォンを通してギルドが開示している貴方様のデータをいろいろと見させていただきましたの。この際ですから、ハッキリ申し上げますわ。ユウ様はわたくしの! クッソ好みの殿方なのですわ!!!!!!」
『え、えええ……????』
「一族の復興はわたくし一人では為すことは出来ません! 共に歩む殿方があって初めて成せるのですわ! なのでわたくしと」
「おシショー秘伝、簀巻きの術!」
「すわー!?!!?!!?」
「ゆーゆー? オネーサンはちょっとこのアバズ……アンポンタ……敵性存在Aとお話してくるデス。ちょーっとだけ待っててほしいデスマス」
『え? あ、はい。どうぞ……』
「もごー!? もがー!?」
ジャンヌがエキサイトするなか、ブリギットの目が怪しく光る。直後、部屋のカーテンが消え……ジャンヌが簀巻きにされていた。カーテンに包まれたジャンヌを担ぎ、ブリギットは笑みを浮かべ出て行った。
……表情とは真逆に、目はまるで笑っていなかったが。
『クックックックッ! これは面白いことになったな、え? こぞ……コラ貴様! 無言で我を封印するでな』
『……なんだか、いろいろ起きすぎて疲れてきましたね……』
茶々を入れるヴィトラを秒で黙らせ、ユウは静かにそう呟いた。
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