129話─空想の戦士出陣!
「ハッ、六人がかりでなら勝てると? バカめ、そんな作戦やらせるものか! ウサギたちよ、ガキの仲間を押し流せ!」
「キィー!」
「うおっ!? ウサギの津波が……おあああああーー!?!?!!?」
『うわっ! み、みんなぁ!』
空に浮かぶカメは、ユウたちを見下ろしながらニヤリと笑う。大声で部下たちが変異したウサギの群れを呼び寄せ、シャーロットたちを別の通りへ押し流してしまう。
全員と離ればなれにされてしまった……と思いきや、咄嗟に近くの街灯にしがみ付いたことで俊雄は難を逃れていた。
「ふおおおお、危ないところでしたぞ! ウサギの波に呑まれて退場……など出オチもいいところですからな!」
「フン、ムダにしぶとい奴め。いいだろう、ならほのガキ共々このフェナン様が仕留めてくれる!」
「ふっふっふっ、そうはいきませんぞ! さあユウ殿、拙者のチート能力【素晴らしき二次元】を授けますぞ~!」
「バカが、はいそうですかとやらせるわけ……いてっ! いって! このガ……おふっ!」
『じゃあボクは妨害の妨害をします! こゃーん!』
スルスルと街灯から降りてきた俊雄は、ユウの背後に立って自身のチート能力を発動しようとする。そうはさせまいとするカメ……フェナンが動く。
が、ユウの的確なシューティングで直撃を食らい続け、後退させられていく。その間に俊雄は、ユウの背中にあるものを作り出す。
『あれ? なんだか背中に違和感が……?』
「ええ、今ユウ殿の背中にビデオテープをセットする穴を空けましたからな。それでは行きますぞ! 今回は……これ!」
『ひえっ!? ウワーッ!』
「ぬうっ、あいつら何を……!?」
俊雄は右手に持ったビデオテープをユウの背中に出来た長方形の穴に押し込む。その瞬間、ユウの身体を異変が襲う。
どこからともなく現れた白いベルトがユウの腰に装着され、バックルに描かれた陰陽の紋章が光り輝く。その様子を、フェナンは驚きながら見ていた。
(感じます……何をすればいいのか、全部分かる! 今、ボクがすべきことは……!)
「さあ、ショータイムですぞユウ殿! 存分に大暴れしてくだされ~!」
『ええ、行きますよ! ……変身!』
【オーヴァードライブ……マスクドバスター・影牙】
「ぬおっ! ま、まぶしい!」
ユウのかけ声に合わせて、ベルトから音声が鳴り響く。直後、まばゆい光がユウを包み込みその姿を変えてしまう。
漆黒のロングコートに青と黄でカラーリングされたブーツと赤い篭手、そして頭部には、額に一本角が生えた黒鬼の頭を模したヘルメット。
それらを身に着けた、架空のヒーローへと変身したユウが現れた。
『おお……俊雄さん、これは?』
「むっふっふっ、では解説しましょう! 今ユウ殿が変身したのは、日本で長く愛される特撮アクションシリーズ『マスクドバスター』シリーズの……」
「ゴチャゴチャうるせぇ! もう待たんぞ、食らえ! タートルロケット!」
『もう、今解説聞いてるんですから黙っててください! これでも食らいなさい、フレイムナックル!』
「うごっ!?」
大変身を遂げた自身を見下ろしながら、ユウが尋ねる。俊雄がオタク魂を爆発させ、熱く解説しようとしたその時。
流石にしびれを切らしたようで、フェナンが突撃する。解説を聞く気満々だったユウは妨害されたことに怒り、炎のパンチを見舞う。
「うぐおっ!?」
『わあ、飛びましたねー』
「コホン、邪魔者がいなくなったので解説を続けますぞ! ユウ殿が変身したのはマスクドバスターシリーズ第六作目、『マスクドバスター鬼牙』に登場するライバルキャラクター……マスクドバスター影牙ですぞ!」
マスクドバスター鬼牙。俊雄が愛してやまない特撮アクションシリーズに属する作品の一つで、主人公の館山鬼一が人々を襲う謎の怪人『シャドウボイド』と戦う王道ヒーローモノだ。
ユウが変身したのは、鬼一の仲間にしてライバルである二号バスター、井沢頼人が変身するマスクドバスター影牙。炎を操る、クールな男……と、俊雄は解説する。
『なるほど、かっこいいですね~!』
『……我には何も分からん。ここは貴様に任せるぞ、小僧』
『ええ、やってやりますよ! こゃーん!』
「頑張ってくだされー! 拙者は応援していますぞー!」
俊雄の解説を聞き終えたユウは、コートをひるがえしフェナンが吹き飛んでいった方へと駈けていく。ヴィトラは話についていけず、静観を決め込んだ。
「うぐぐ、あのガキよくも……」
『見つけましたよ、この勢いのままトドメを刺してあげましょう!』
「やれるものならやってみろ! いでよウサギたち! 奴の動脈を噛み千切ってやれぇぇぇ!!」
「キィィィーーー!!!」
『来ましたね、みんなやっつけてやりますよ!』
フェナンは配下のウサギたちを呼び出し、ユウへけしかける。対するユウはつま先でトントンと地を叩いた後、襲い来る敵を迎え撃つ。
両の手脚に炎を纏い、四方八方から飛びかかってくるウサギたちにカウンターの蹴りや拳を叩き込んで焼殺していく。
(俊雄さんに与えられた知識によれば、このキャラクターはカウンター攻撃が主体。一対多の状況なら、このまま反撃に徹してチャンスを……)
「チッ、このままではラチが明かぬか! なら次の手だ! ウサギたちよ、集まれ! 合体するのだ!」
『ん? なにを……!?』
「キィィィーーー!!!」
数の暴力だけではどうにもならないと判断し、フェナンは作戦を変える。呼び集めたウサギたちを組み体操の要領で合体させはじめたのだ。
あっという間に白い巨人が生まれ、ユウと俊雄を見下ろす。ウサギ巨人は拳を握り、ゆっくりと振り上げる。
「いいぞ! そのラビットハンドで奴を叩き潰してしまえ!」
「キィィィーーー!!!」
「ぬおおおおお!!! あ、あんなの食らったらひとたまりもありませんぞ!」
『なら任せてください、そろそろトドメを刺しますから! すぅぅぅ……はぁぁぁ……!』
拳が振り下ろされるなか、ユウはバックルに描かれた陰陽マークを指で一回転させる。すると、ベルトから音声が鳴り響く。
【フィニッシュコード:シャドウ・ジ・エンド】
「何をするつもりか知らんがムダだ! 叩き潰せェェェェ!!!」
『そうはいきません、これで終わりです! てやっ!』
「キッ……!?」
直後、ベルトから闇のエネルギーが溢れ出しユウの全身を駆け巡る。そうして、体内で増幅されたエネルギーの全てが右脚へと集まっていく。
振り下ろされた拳を右腕で受け止め、すかさず左手でアッパーを放ちウサギ巨人の腕を跳ね上げるユウ。相手の体勢が崩れた隙を突き、少年は高く跳躍する。
『てやあああああ!!!!』
「キ……キィィィアァァァァ!!!」
高度が最高に到達した瞬間、ユウは縦に身体を回転させウサギ巨人の脳天へ闇の力を纏ったかかと落とし……マスクドバスター影牙の必殺技『シャドウエクステンド』を放った。
フィニッシャーを食らったウサギ巨人は、幾筋もの黒い光を体内から漏らし……黒炎と共に爆散して消滅した。
「おおおおお!!!! テレビ越しじゃない、生のシャドウエクステンド!!!! フォォォォ!!! 拙者感動ですぞぉぉぉぉぉぉ!!! 中の人の違いなど、この際気にしませ……ウェホッ! ゲホッ!」
「バ、バカな……。ありえん、我らオトギの存在が敗れるなど!? クッ、ここは一度撤退するしかない!」
決着を見届けた俊雄がエキサイトするなか、切り札を失ったフェナンは霧の中に逃げようとする。……が。
『逃がしませんよ、ここで……』
「ユウ様のお手を煩わせはしませんわ! 滅びなさい、悪しき幻想の手先よ!」
「なに……ぐあああああ!!! グ、バカ……な……。こんな、槍で……オトギの力を得た私が、死ぬ……? がふっ!」
『え? え? この槍はいったい誰の……?』
突如、第三者の声が響くと共にエメラルドグリーンの輝きを放つ槍が飛来する。そして、フェナンを貫きその息の根を止めた。
ユウと俊雄が困惑しているなか、槍の持ち主と思われる人物がパラディオンギルド方面から歩いてくる。現れたのは……。
「到着が遅れてしまい、申し訳ありません。わたくしはジャンヌ。ジャンヌ・シルヴァーテイル=エクテイザー。フェナン帝国が誇る大貴族、エクテイザー家……の、没落令嬢ですわ」
エメラルドグリーンのドレスアーマーを身に着けた、深い青色の髪を持つ女だった。




