128話─見出された糸口
十数分後、このまま調査を中止するわけにはいかないと義人隊はリーヴェディア王国へと出立した。それを見送ったユウは、無事帰還してくれるよう祈る。
だが……その祈りが通じることはなかった。数時間後、十二人いた調査隊のうち……四人だけが帰ってきた。その中に、義人はいなかったのだ。
『……義人さんまで取り込まれてしまうなんて。これはもう、ボクたちだけでは……』
「とは言っても、お父様やリオ様たちでも解決出来るかどうか……。ここまで長期化するとは思わなかったわ。幸い、霧が拡大してないことだけが安堵出来る要素ね……」
義人隊の失踪から、一週間が経過した。今もなお、霧の異変を解決する手掛かりを掴むことが出来ていなかった。各国の支援も虚しく、このまま進展がないのか……と、誰もが諦めかけたその時。
「ぬっふっふっふっふっ! 皆の衆! お喜びくだされ、朗報ですぞ~! 安全に霧の中を調査出来る手法を、拙者が確立しましたぞ~!」
「……っつーことらしいぜ。ホントかねえ……なんかイマイチ信用性に欠けるっつーか……」
『まあ、とりあえず聞いてみましょうよ。自分で喧伝するくらいなんですから、きっと本当……のはずです』
義人の後任として調査隊を率いていた俊雄から、そんな報告があちこちにされていた。ユウたちも、彼に話を聞くことに。
「おお、ユウ殿たちもお越しですか~。今し方ギルドのお偉い方々もお見えでしてな、これから説明会をするところなのですぞ。デュフフフフ!!」
『ということは……信憑性はかなりある、と見て間違いないですね?』
「当然ですとも! こんな時に嘘なんてついたら拙者焼き豚にされてしまうでござるよ! おっと失礼、オタクの部分が……デュフフ」
「とりあえず中に入れろ、話を聞きたくて仕方ねえんだこっちは」
「はいはい、それでは五人と一匹様ご案内しますぞ~!」
ようやく打開策が見つかったとあり、広い会議室を借りて上層部に説明を行うらしい。ユウたちもこれまでの功績により、参加させてもらうことに。
「え~、コホン! それではこれより、拙者が見つけ出した霧……まあ正確には、霧の中に広がる『おとぎの国』への対抗策について説明しますぞ~!」
「さて、どんな話が飛び出るか……。ふふ、楽しみだね」
「さて、拙者推しを語る時以外に長話はしない主義なので結論から話しましょう。ズバリ! 拙者のチート能力【素晴らしき二次元】に鍵がありましたぞ~!」
『ええ~!?』
俊雄の口から出た言葉に、集まっていたギルドの上層部やユウたちはどよめく。まさかの彼自身がキーパーソンという事態に、みな驚きを隠せない。
「それはどういうことなのかね? 峰くん。詳しく聞かせてくれたまえ」
「デュフフ、もちろんですとも! 拙者のチート能力をかいつまんで話しますと、アニメや漫画、映画にドラマ……それらフィクションに登場する人物になりきることが出来るのですな。その能力が、あの霧の中でも発揮出来たのですぞ!」
「なんと! あのユウくんですら、霧の外にいても能力を発揮出来なかったというのに……これは大きな発見だよ、峰くん!」
「恐らく、あの霧の中ではフィクション……要するに架空の存在や能力しか力を発揮出来ないのでしょうな。それゆえ、拙者のチート能力だけが効力を発揮出来たのでしょう」
霧の中に広がるのは、黒原によって創られたおとぎの国。そこは、現実に存在するものの一切が力を振るうことを禁じられた、一種の聖域。
だが、おとぎ話と同じく架空の存在である各種メディア作品もまた……力を振るうことが出来るのだ。あの忌まわしい霧の中で。
「おい、俊雄! その能力、アタシらにはかけられねえのかよ!? もしやれるんなら、すぐにでもあの霧の中に突入してやるぜ! なあ、ユウ!」
『ええ、これまでずっと歯噛みしていましたが……俊雄さんの力があれば、ようやく逆襲出来るんですから! こちらから打って出ますよ!』
「デュフフフ、もちろん可能ですぞ! しかしながら、他者に対して拙者の能力をかけるのは負担が大きいので……どう頑張っても五人が限界ですぞ~」
『それなら、ボクたちが……! このサイレンは?』
『ガンドラズルに駐在するパラディオンたちに告ぐ! 霧の中より魔獣の出現を確認! ただちに討伐に当たられよ! 繰り返す、霧の中より……』
ついに逆襲の狼煙を上げられる……。というところで、ギルド本部内に緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。
これまで沈黙を保っていた黒原が、霧の中に潜んでいたおとぎの存在を外に解き放ったらしい。このままでは、街に被害が出てしまう。
「こんなタイミングで敵襲デスか! ちょうどいいデス、ゆーゆー! としとしの能力をかけてもらって、どんな感じに戦えるのかテストするデスよ!」
『そうですね、溜めに溜めたフラストレーションの発散も兼ねて……叩きのめしてやりましょう! 俊雄さん、協力してもらえますか!?』
「デュフフ、もちろんですとも! かの名高い英雄、ユウ殿とお近付きになれるとは……拙者興奮しますぞ~!」
「……変な気は起こさないでね? 流れ矢に当たりたくはないでしょう?」
「……気を付けますぞ」
エキサイトする俊雄に釘を刺しつつ、ユウたちは敵を迎え撃つため外へと飛び出す。リーヴェディア方面に向かう通りはすでに封鎖されており、先発したパラディオンたちが戦っていた。
「クソッ、このウサギどもちょこまかと……ぐあっ!」
「一旦下がれ、奴ら首を狙ってくるぞ! 動脈をやられないように気を付けろ!」
「な、なんだこりゃあ? なんでウサギがこんなにいるんだ?」
ユウたちが突入した通りの先では、霧の中から現れる大量のウサギたちとパラディオンの戦いが行われていた。素早く動き回るうえに、身体が小さく狙いにくい相手に苦戦を強いられているようだ。
「たぶん、あのウサギたちはなにかしらのおとぎ話に登場する動物なんだろうけど……ウサギが出てくる話は結構あるからね、果たしてどれなのか……」
「フフフ、お前たちが知る必要はない。と言いたいところだが、冥土の土産に教えてやろう! 我らは童話『ウサギとカメ』より顕現せし【おとぎマスターズ】なり!」
『みんな、見てください! 空に……カメがいます!』
パラディオンたちの加勢に入ろうとするユウたちの頭上から、とても野太い声が聞こえてくる。見上げると、太陽をバックに大きなカメが浮かんでいた。
「へえ、ウサギとカメ……ね。なるほど、だからウサギたちはあんなに素早いのか」
「ミサキ、そのウサギとカメってどんな話なのかしら?」
「簡単に言うと、歩く遅さをバカにされたカメがウサギとかけっこをするのさ。先行したウサギが油断して昼寝してるところを、後から来たカメが追い抜いてゴールするってお話だよ」
「教訓としては、『どんなにバカにされても努力しし続ければ報われる』あるいは『相手を侮っていると足下をすくわれる』ということですな!」
「その通り。貴様らもゆめゆめ侮らぬことだな、黒原様に力を授けられた我らリンカーナイツの特殊部隊は手強いぞ!」
『なるほど、あの霧の力で下っ端たちがパワーアップしたというわけですか。……なら、その自信を木っ端微塵にするまでです。カメのように油断なく行きますよ!』
ウサギたちとカメの正体は、リンカーナイツの構成員のようだ。これまで取り込まれた王国民やパラディオンでないのなら、遠慮なく倒せる。
仲間たちに呼びかけたユウは、ファルダードアサルトを引き抜き銃口を敵に向ける。おとぎの国への反逆の時が、今始まる。




