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126話─絵本の正体

「な、なに!? 一体何が起きてるの!? あなたたち、王に持病があったりは!?」


「い、いえ! 陛下は健康そのもの、持病などない! な、何が……これはどうなっているんだ!?」


 突如苦しみ始めたガンドルク王を見て、シャーロットは咄嗟に親衛隊の兵士に尋ねる。王に心臓か何かの持病があり、それが突発的に発生した可能性に思い至ったのだ。


 だが、兵士は動揺しつつ王に持病は無いと口にする。ユウは混乱のなか、さりげなくグランドマスターを起立させ自身の後ろにかくまう。


 そんななか、王の身体に変化が現れた。それは……。


「う、ごあっ! な、なんだ……俺の身体、どう、なって……ぐ、おおあああ!?」


「ヒイイィ! お、おっさんの身体がベコベコになっていくデス! ゆーゆー、見ちゃいけまセン! グロ過ぎるデスこれ!」


「なんだ……? 訳が分からないぞ、一体どうなっているんだぁ……!?」


「さあな、だが一つだけハッキリしてることがあるぜ。……残念だが、王はもう助からねえってな」


 突如、嫌な音を立ててガンドルク王の身体がひしゃけはじめたのだ。ブリギットは即座にユウの腕を掴んで引き寄せ、両手で目を覆う。


 喉が裂け、身体が小さく折り畳まれていく王を一同は見ていることしか出来ない。冷静沈着な義人ですら狼狽えるなか、グレイシーは冷や汗を流しながらそう呟く。


「ぐ、ごはっ、が……!!」


「そ、そんな……! ガンドルク陛下が……え、絵本になってしまわれた!」


「クッ、なるほどな。報告にあった絵本の正体はこういうことなのかよ……。じゃあ、これまで消えた連中も……」


「ま、まず間違いなくこうやって絵本になってしまったのでしょうな。むむむ、なんと奇妙な……」


 やがて、王の座っていた椅子の上には……血だまりと一冊の絵本だけが残った。その場にいた全員が、失踪者と絵本の謎について理解した。いや、させられた。


 絶句していた俊雄が我に返り、ズレていた眼鏡を押し戻しつつゆっくりと絵本に近付いていく。兵士たちは目配せし合い、彼に任せることにしたようだ。


「ちょ、ちょっと! 危ないわよ、触ったらどうなるか分からないのよそれ!?」


「だからこそ、ですぞ。まずはどんな危険があるのか調べなければ、正しく恐れること……ほああああ!? ほ、本が浮いたぁぁぁぁぁ!?」


 我が身を呈して絵本を調べようとする俊雄を制止するシャーロット。そんな彼女に反論しつつ、俊雄が一歩踏み出したその瞬間。


 誰も触っていないのに、絵本がひとりでに空中に浮いたのだ。そのままパラパラとページがめくられ、飛び出す本のように()()()が出てくる。


『クククク、はじめましてだね。諸君、私のイリュージョンは楽しんでいただけたかな?』


『お前ですか、ガンドルク王だけでなく……リーヴェディアの人たちを絵本に変えて殺したのは!』


『殺した? いいや、彼らは死んでなどいないさ。私が創り出した()()()()()()()の住民として招いてあげただけのこと』


 現れたのは、黒いバケツ型の兜を被った人物の肩から上の部分だった。ページの一部が隆起しているだけのため、ペラッペラだったが。


 ユウはブリギットの手をはねのけ、相手にそう問いかける。すると、不可解な答えが返ってきた。


「嘘つくんじゃねえ! どう見ても死んでたぞアレは! それに、血だまりだって出来てるのに死んでないなんて信じられっかよ!」


『ああ、これか? ふっ、素晴らしきおとぎの国に血などという夢を壊すものは不要。だからこうして排出しただけのことだ』


「……随分と狂っているものだね、そのおとぎの国とやらは。で、君は何者なんだい? こんなことを出来る存在なんて、チート能力を持つ異邦人くらいのものだからね」


『ああ、そうだとも。ではそろそろ名を告げようか。私は黒原修一(くろはらしゅういち)、リンカーナイツの最高幹部……トップナイトの一角さ!』


 チェルシーが叫び、ミサキが問うと……バケツ頭はそう答える。どうやら、事前に予想していた通りリンカーナイツが事件の黒幕だったようだ。


「いけないなぁ、お前のしていることは無差別な殺戮と同じだ。こんなことをして……何を企んでいるのかなぁ? 教えてもらいたいなぁ」


『ああ、いいとも。私は創り出すのさ、我らが女神……ネイシア様に相応しい国を。だが、そのためにはこの現実という世界が邪魔でねぇ。浸食し、上書きするための準備をしてきた……お前たちが他のトップナイトやアストラルたちと戦っている間にね』


『上書き……? 一体何を……!?』


『さあ、外に出てリーヴェディア王国を見てみるがいい。私の言葉の意味が分かるだろう! ハハハハハハ!!!』


「待ちやがれ……チッ、消えたか。にしても、この揺れはなんだ……?」


 義人が問いを投げかけると、これまた不可解な言葉が返ってくる。ユウたちが訝しむなか、突如激しい揺れが公会堂を襲う。黒原はそう言い残し、絵本を閉じてどこかに消えてしまった。


 グレイシーを先頭に外に出た一同は、国境線の向こう側にあるリーヴェディア王国を見て……言葉を失う。国境に沿って、黒い霧のようなものが王国を覆いはじめていたからだ。


「な、なんだこれは!? 我が国に一体なにが起こっているというのだ!」


「隊長、こうしてはいられません! 国には家族がいるんです、早く助けないと!」


「あ、待て! いかんぞ、危険だ! 闇雲に突入したら……」


「そうも言っていられません! 隊長!申し訳ありませんが我々は先に行きます!」


 それを見て、親衛隊八人のうち三人が無謀にも霧の中に突入してしまう。隊長が止める間もなく、走り出していったが……。


「うわ!? な、なんだこれは!? う、うわああああああ!!!」


「おい、どうした!? 何があった、返事をしろ!」


『こ、これは……一体、王国はどうなってしまったんです?』


『……さあな。一つ言えるのは……我ですら予測し得なかった事態が起きた、ということだ』


 制止を振り切り、通りを駆け抜けて霧に突入した親衛隊のメンバーたち。直後、彼らはナニカを見たらしく悲鳴をあげ……それきり静かになった。


 ユウが呟くと、それにヴィトラが答える。ひとまず、全員でギルド本部へと避難することに。守るべき主君と仲間を失い、親衛隊の面々は打ちひしがれていた。


「一体、何が……。どうして、こんなことになってしまったんだ……」


「……お悔やみ申し上げる。我々も、何が起きているのかまるで分かっていないが……王国の危機を救うため尽力しよう。約束するよ」


「……こうなってしまっては、もうパラディオンギルドだけが頼りだ。どうか、王国を……救ってください」


 本部に到着した後、グランドマスターは落ち込んでいる親衛隊の隊長に声をかける。こんな事態になった以上、もう異邦人だからと憎んでいる場合ではない。


 彼らに希望を託され、グランドマスターはすぐにギルドの上層部メンバーを招集し緊急会議を行う。その間、ユウたちは別室で待機することに。


『……兵士さんたち、すごく落ち込んでましたね。なんとか元気付けてあげたいところですが……』


「そんなこたぁギルドの連中に任せとけ。それより……だ。ユウ、お前は今回の事件……どう思う? あのクロハラと名乗った奴……何を考えてるんだろうな?」


『……どうでしょう。ボクにも図りかねますよ、今回ばかりは。……憲三さん、あの霧に巻き込まれてないといいんですが……』


 グレイシーに問われるも、ユウは頭を左右に振る。これまで多くのリンカーナイツの手の者らと戦ってきた彼でさえ、今回の敵の目的を図りかねていた。


 ため息をついた後、王国に潜伏していた憲三のことを心配するユウ。異変を察知し、すでに逃げ延びていてほしい……と、彼の安全を祈る。


「ふむむ……。何にせよ、拙者たちのすべきことは一つですな。あの霧の中がどうなっているのか、調べなければなりませんぞ」


「だな。ま、いずれ上から調査命令が出るだろうよ。オレたちに……とは限らねえがな」


「おや、それはどうしてだい?」


「決まってるだろ? 自惚れてるわけじゃあねえが、オレたちはパラディオンギルドの上澄み……いわば切り札。それを安全確認なんかで使い捨てるほど、上の頭は悪くねえってことだ」


 一同が落ち着きを取り戻すなか、俊雄は建設的な意見を口にする。それに賛同しつつ、なにやら含みのあることを言うグレイシー。


 ミサキが問うと、至極ドライな態度でグレイシーは返答する。彼女の言葉に、ミサキは肩をすくめた。


「まあ、確かにね。……やれやれ、今回は一段と厄介なことになったよ。あのトップナイト……ベルメザ並みの危険人物だ。気を付けないといけないね、これは」


 疲れ切った様子のミサキは、そう呟き座り込む。黒原によって引き起こされた騒動がいつ終息するのか。それは、まだ誰にも……予測出来なかった。

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― 新着の感想 ―
また身勝手な偶像家の登場だな(ʘᗩʘ’) 只の三文脚本家なのか、果たして(´-﹏-`;)
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