122話─向き合う二人のキモチ
リオとファティマが帰った次の日、今度はシャーロットを伴ったコリンとテレジアがユウの元へやって来た。何故かは分からないが、大荷物を持って。
『あの、コリンさん? この大荷物は一体なんですか?』
「うむ、取り急ぎシャロの嫁入り道具一式を揃えてきた。ユウよ、不出来な娘じゃが末永くよろしゅう……」
「私たちの娘を頼んだよ、ユウくん」
「ふ、ふつつか者ですがよろしくね! ユウくん!!!!」
『ああああ、ちょちょちょちょっと待ってください! これには事情があるんです!』
親子三人、五体投地せんばかりに深々と土下座しながらそう口にする。思っていたよりアクセル全開で来たコリンたちに、ユウは慌てて事情を話す。
「なんじゃ、そういうことであったか。はた迷惑な魔魂片め、可能ならばここに引きずり出して消し飛ばしてやりたいわ」
『うちのがご迷惑をおかけして申し訳ありません……』
『おい、なんだその言い方は。我は貴様の子になった覚えはな』
『話が脱線するので引っ込んでてください! このアホん片!』
『おのれ、我を愚弄するか! 許さ』
今度は逆に、ユウが三人に土下座をすることに。途中で出てきたヴィトラを念入りに封印した後、ユウはコリンからの沙汰を待つ。
「ま、よい。顔を上げてくりゃれ。ところでじゃ、ユウよ。シャロへの好意は……本物なのかのう? そこだけは本音を聞かねばわしらは帰れんぞ」
『はい、シャロさん……いや、シャロさんたちが大好きだというのは嘘偽りのないボクの本心です。こうやってボクが過去を断ち切れたのも。シャロさんをはじめ、みんなが支えてくれたおかげですから』
「ユウくん……」
『シャロさんは、ボクの吃音を知っても……あの人みたいに怒鳴ったり殴ったりしませんでした。それだけで、ボクは救われたんです。今世なら、あるがままのボク受け入れてくれる人がいるって知れたから』
コリンに問われ、顔を上げたユウは真剣な表情でそう答える。前世では、己の存在の全てを徹底的に否定され……惨と苦の地獄の中で短すぎる一生を終えた。
だからこそ、彼は怖かった新たな命を得た先で、また前世のように存在の全てを否定されてしまうのでないか、と。だが、その恐怖をリオたち家族以外にも打ち払ってくれる者がいた。
他の誰でもない、シャーロットだ。
『シャロさんと出会えたおかげで、ボクはパパやママたち……魔神の家族以外にも。心を開ける人たが……どんな過去があっても、受け入れてくれる人たちがいるんだって。理解出来たんです』
「ふむ……」
『だから、ボクは……シャロさんが大好きなんです。確かに、あのぷ、プロポーズは意図したものじゃありませんでしたけど……。でも、あの日伝えた言葉に嘘はありません』
「……ふふ。とても熱い言葉だね。思わず私も胸を打たれたよ。ねえ? コリンくん、シャロ」
ユウの独白を聞き終えた後、テレジアは微笑みながら夫と娘を見る。コリンは微笑みを浮かべ、ゆっくりと頷く。
「うむ。やはりわしの目に狂いはなかった。ユウよ、そなたになら娘を……ところでシャロ、お主もなにか言……な、泣いとる!」
「う、ひぐ、うぇ、ゆ、ユウく……ずびっ、ひううう!!!!」
その時、シャーロットが無言を貫いていることに気付きコリンが娘の方を向く。視線の先では……シャーロットが顔じゅう涙と鼻水まみれにして泣いていた。
『わー、すっごい顔! お姉ちゃんが復活した時のボクみたいになってる!』
「まあ、それもそうだろうさ。私たちだって、シャロと同じ立場ならこうなるよ。ねえ、アニエス?」
『もっちろん!』
「ゆ、ユウく……ひぃぃーーん!!!」
『わわわわわ!? しゃ、シャロさん落ち着いてくださいー!?』
アニエスとテレジアがそんな会話をしているなか、感極まったシャーロットはユウに飛び付き力一杯抱き締める。あまりにも力が強すぎて、振りほどくことが出来ない。
ユウは助けを求めてコリンたちに視線を向けるも、夫婦はイイ笑顔を浮かべグッと親指を立てるだけだった。助けには入らないらしい。
「ふう、はあ……。ごめんね、ユウくん。みっともなく抱き着いちゃって……」
『いえ、いいんです。……いろいろびちょびちょになっちゃいましたけど』
「なあに、それくらいならわしが魔法で綺麗にしてやろうぞ。ところでシャロや。次はお主の気持ちを聞きたいのう。ユウばかり本音を語るのでは、少々不公平ではないかえ?」
「え゛っ゛。い、いやそれはそうなのですが……」
『わー、聞きたい聞きたーい! ばっくっろっ、ばっくっろっ! ばっくっろっ! あそーれ!』
これにて沈静化……と思いきや、コリンがすかさず次のフェーズへ事を進める。アニエスに急かされ、シャーロットは悩む。が、少しして小さく頷いた。
父の言う通り、ユウだけ話すのは不公平だと思ったのだろう。今度は彼女が、ずっと支え続けてきた少年への想いを赤裸々に語る。
「……私は、四日前まではユウくんを弟のように可愛がっていました。もし、私に弟がいたらこんな感じなんだろうなって。ずっと、彼を見守ってきました。でも……」
「でも?」
「あの日、ユウくんの想いを知って……私はようやく、自分の心に隠れてたもう一つの気持ちに気付いたんです。私は、異性としても……ユウくんを好きだったんだと」
これまで、シャーロットはユウを支えるために頑張ってきた。どちらかと言えば、彼女が抱いていたのは家族愛に近い感情だった。
だが、それとは別に……本人も自覚していなかった想いがあった。どんな過酷な戦いにも挑み、ついには過去の呪縛をも断ち切る。
そうして前に、未来に向かおうと日々努力を重ねるユウに……いつしか、シャーロットは異性としての愛情を抱いていたのだ。
『シャロさん……。な、なんだ、その……て、照れちゃいます……』
『あ、毛玉に隠れた! 柔らかそー、もふもふしちゃえ! それー!』
『あ、こらアニエス! 勝手に交代しちゃあダメだろう! 早くもど』
「はい、よそ様の子におイタしようとするアニ虫はお仕置き決定です。手ぐすね引いて待っておりました、それでは一足先にゴーホームしましょうか」
シャーロットの本音を聞き、ユウは気恥ずかしさから尻尾にくるまり毛玉モードになってしまう。そんな彼をモフろうと、アニエスが表に出て飛びかかる。
が、その瞬間待ってましたとばかりに彼女の進行方向に扉が現れた。すでに扉は開いており、向こう側ではイイ笑顔のマリアベルがスタンバイしている。
「アアアーッ!? まさかマリアベル、そのために今回同行しなかったのー!?」
「はい。わたくしがいない方が気が緩んでやらかすと思っていましたから。それでは旦那様、一足先に戻っていますね」
「うむ、アニエスとテレジアを任せたぞよー」
「ちょ、ま、助け……ああああああ!!!」
「……合掌」
連行されていったアニエスを見ながら、シャーロットはそっと合掌する。そんなこんなで一時脱線したものの、ユウとシャーロットはお互いの気持ちを確かめることが出来た。
「うむ、なんぞ変な間があったが忘れてたもれ。さて! 改めて問おう、シャロ。お主はユウと添い遂げたいかえ?」
「……はい。こうして自覚し、打ち明けた以上は。ユウくんが受け入れてくれるなら……私は彼の妻になりたいと。そう思います」
『ボクも、コリンさんに許していただけるのなら。その、まだ今はやらなくちゃいけないことが山積みなので、全部終わってからになりますけど……シャロさんを、幸せにしたいと思っています』
二人の言葉を聞き、コリンの心は決まった。ニッコリと微笑み、ユウを見つめる。
「うむ! その言葉を聞けて安心したわ。ユウよ、そなたにならシャロを託せる。リンカーナイツを滅ぼし、この大地に平和をもたらした暁には……盛大な式を開こうぞ。ほほほ、今から楽しみじゃのう!」
『はい。ボクも楽しみです。ね、シャロさん』
「そうね……ふふ、それじゃあ改めて。ふつつか者ですが、これからもよろしくね。ユウくん」
こうして、ユウとシャーロットはお互いの気持ちを確かめ合い……これからの未来を彩るに相応しい、新たな一歩を踏み出したのであった。
◇─────────────────────◇
「なに? パラディオンギルドに助力要請を出してほしいだと?」
「はい、近頃王国各地で起きている事件の早期解決のために是非と憲兵隊から要望が」
「ならぬわ! あのようなよそ者共、信用出来るものか! どうせ、これまでと同様リンカーナイツなる者らと結託してのマッチポンプに決まっておるわ! 薄汚い異邦人め、相変わらず卑劣な真似ばかりしおる!」
その頃……リーヴェディア王国首都、ザーガンティにて。憲兵隊からの要望を受け、大臣か国王ガンドルク四世にパラディオンギルドに助力を請うては、と進言していた。
だが、異邦人を忌み嫌う王はこれまでの全ての騒動がパラディオンギルドとリンカーナイツの自作自演であると信じ大臣の言葉に取り合わない。
元からフェダーン帝国と争いを繰り返してきた歴史があるゆえに、異物に対して排他的な思考が極めて強いようだ。
「……ん、待てよ? むしろこれは好機ではないか。この事件を起こしているのは、どうせ異邦人共なのだ。なら、その元凶を排除する口実になるぞ……クククク」
「陛下、まさかパラディオンギルドを相手に開戦なさるおつもりですか!? かの組織は不可侵な存在、フェダーンをはじめ他の国々が黙っては」
「だからなんだというのだ? 単純な軍事力なら我が国の方が上よ。これを機にその事実を見せ付けてやる。文官を呼べ、宣戦布告の文をしたためさせよ! パラディオンギルドを滅ぼしてくれるわ!」
「あわわ、これは大変なことになったぞ……」
ユウたちの知らないところで、戦争の足音が近付く。一難が去った後、新たな脅威が鎌首をもたげていた。




