113話─外道なる切り札
「魔夜よ、喜べ。ネイシア様がお前の要望に応えてくださった。リクエストされた者らを転移させ、アストラルMバージョン2としてここに配備することが決まったぞ」
「そう、上出来ね。でも出来るだけ早く配備を終わらせて。あのゴミがいつここに来るか分からないから」
ユウたちが作戦会議をしている頃、レオンと魔夜の方も策謀を巡らせていた。以前からの魔夜の要望に応え、新たなアストラルMが二体製造されたようだ。
魔夜がアストラルMの素体として選んだ人物、それは……。
「しかし……お前も容赦ないな。地球時代の夫と、子を取り上げた産医をしもべにしようなど発想に悪意がありすぎる」
「悪意? 私は当然の発想のもと実行に移っているに過ぎないわ。それにしても……いい姿になったわね。このゴミ共も」
「かつての夫、そして我が子を取り上げた産医……。その二人をここまでモノ扱いするとは。その精神恐れ入る」
前世での夫、鏑木八雲。そして、ユウの出産に立ち会った産婦人科医の水上早苗。その二人を、アストラルMに改造し……捨て駒として配下に加えたのだ。
ユウ、そして自身を裏切った憲三への最大限の嫌がらせをするためだけに。その常軌を逸した外道な行いに、流石のレオンも戦慄を覚えていた。
(この女……己のためなら、どんなに卑劣で残忍な手段でも平然と行うのはやはり危うい。場合によってはアストラルLに始末させた方がいいな……)
「何か言いたそうな顔ね? まあいいわ、私はあのゴミを迎え撃つ準備をするからもう行くわよ。楽しみにしてなさい、必ず叩き潰すから」
「……ああ。健闘を祈る」
今はその残忍さがユウの抹殺へと向いているが、もし自分たちに矛先が移ったら。そう危惧したレオンは内心粛清を視野に入れつつ魔夜を見送るのだった。
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『……よし、今のところ怪しまれてはいないわね。このままリンカーナイツの基地へ向かいましょう』
『ククク、我に感謝してほしいものだな。我がジェムの残滓があればこそ、こうしてスムーズに敵国に入り込めているの……こら、無理矢理押し込めるな!』
『すいませんね、ここからは僅かでもしくじりは許されないのでちょっと黙っててもらいますよ』
十日後、ユウたちはヴィトラの持つ境界のオニキスの力を借りて無事リーヴェディア王国へと侵入していた。怪しまれないよう念話で話しながら、魔夜の元へ向かう。
時々茶化してくるヴィトラを心の深層に追い返した後、ユウは道中で何度も行ってきたシミュレーションの内容を脳内で反芻する。
『いい? ユウくん。私とチェルシー、ブリギットが基地の入り口付近で暴れて敵の注意を引き付けるわ。その間に、憲三さんと一緒に侵入して』
『ワタシたちは雑兵どもを始末して背後の安全を確保するデスマス。だから、ゆーゆーたちは安心して侵入するデスよ』
『そうして、ボクたちであの人……魔夜を仕留めるというわけですね。分かりました、大変な仕事をしてもらうことになりますが……頼みます』
『おう、アタシらに任せとけ! ド派手に暴れて一人でも多く叩き潰しとくからよ!』
リンカーナイツだけでなく、リーヴェディア王国もユウたちにとって敵となる。悠長に基地の偵察をしている暇は、今回の作戦では存在しない。
迅速に基地を叩き、魔夜を滅して撤退しなければ王国軍に存在を気付かれてしまう。魔夜との戦いが始まれば、いつまでもジェムの力を維持することは不可能。
第三勢力の介入により魔夜を取り逃がすという、最悪の事態だけは防がねばならない。ゆえに、即座に攻撃を行うことを決めたのだ。
『ふう、街を通り過ぎてもう結構……お、見えてきたな。あれが目的地だ』
『よし、手筈通りにやりましょう。ユウくん、憲三さん。武運を祈るわ!』
『ええ、坊ちゃんはあっしが必ず守り抜きやす。シャーロットの姐さんたちに心配はさせやせん』
『……ふう。よし、作戦開始です!』
長い行軍の末、ついにリンカーナイツの基地にたどり着いた一行。数キロ離れた林の中でそれぞれの無事を祈った後、電撃作戦の火蓋が切って落とされた。
【4・1・8・3:マジンエナジー・チャージ】
【9・6・9・6:マジンエナジー・チャージ】
【2・4・2・4:マジンエナジー・チャージ】
「さあ、行くわよチェルシー! ブリギット! ユウくんを縛り付ける因縁の鎖、全部ぶっ壊してやりましょう!」
「おう、やってやらぁ! エレインの仇討ちを手伝ってくれた礼、ここでド派手にやってやる!」
「油断は禁物、見逃しも厳禁! 一人残らずぶっ殺しマース!」
まずは手筈通り、シャーロットたちが魔神化して飛び出していく。真正面から基地へ突撃し、敵に発見されてもお構いなしとばかりに猛攻を仕掛ける。
「あ、あいつらは!? 敵襲、敵襲ー! 例の奴らが来……ぎゃあっ!」
「レーザーキャノンを起動しろ! これ以上近付けさせ」
「ヤッホッホ、そうは問屋が卸さねーデスマス。出会って早々、死んでもらうデス! トマホークトルネード!」
【レボリューションブラッド】
「ぎゃああああ!!!」
シャーロットの放った矢が、正門上の連絡通路にいた見張りの一人を貫く。残りの見張りたち四人は、通路に設置してある迎撃用のレーザーキャノンを起動させる。
が、自慢の翼を羽ばたかせ飛翔してきたブリギットによる斧の乱舞で纏めて切り刻まれる。が、最後の一人が絶命する直前、制服に装着されていた警報ボタンを押していた。
【エマージェンシー! エマージェンシー! 侵入者の存在を検知! 対応出来る者は迎撃せよ! 繰り返す、侵入者の存在を検知……】
「おーおー、ビービーうるせえな。さて、ブリギットにばっかいいカッコさせらんねえ。……滾らせていくぜ!」
「ええ、ユウくんたちは……よし、無事裏手に回り込めてるわね。さ、本番はここからよ」
別行動に移ったユウたちを視界の端に捉えながら、シャーロットはそう口にする。基地から流れ出てくるリンカーナイツの戦闘員たちを見ながら、唇を舐めるのだった。
◇─────────────────────◇
「坊ちゃん、ここに大きめの通気口がありやす。蓋を外せば入れそうですぜ」
『分かりました、ここから中に入りましょう。急がないと見つかりかねませんし』
「ガッテン、そいじゃ……フンッ!」
シャーロットたちが大暴れを始めるなか、ユウと憲三は基地内部に続く通気口を見つけ侵入を試みていた。憲三が力任せに蓋を引っ張り、けたたましい音と共に剥がしてみせる。
幸い、鳴り響く警報と戦闘音によってこちらの音を敵に聞かれることはなかった。小柄なユウを先頭に、素早く通気口内に入り込む。
『憲三さん、窮屈じゃないですか?』
『心配ありやせん、これくらいなら問題なく進めまさぁ』
『よかった、途中でつっかえたらどうしようかと思っちゃいました』
そんな軽い会話を交わしつつ、通気口を進む二人。ある程度奥に入ったところで、内部通路に空気を送り込む蓋を見つけた。
そこから下の様子を覗き込み、敵がいないか確認する二人。幸い、誰かがやって来る気配もないためここで通気口を出ることに。
『ほっ! よし、これで降りられやすぜ。さあ行きやしょう坊ちゃん』
『はい、ここからが本番で──!?』
『坊ちゃん!? チィッ、やられた……! あの女、あっしらがいずれ来ることはお見通しってわけですかい……!』
蓋を殴って歪め、強引に外す憲三。先に降りたユウを、異変が襲う。床に着地した瞬間魔法陣が足下に現れ、ユウを別の場所に転移させてしまったのだ。
魔夜の仕業だと直感で気付いた憲三は、舌打ちしながら飛び降りる。すると、彼の足下にも魔法陣が浮かびどこかへと転送してしまう。早くも離ればなれにされてしまうも、憲三は焦っていなかった。
「どこに飛ばされようが、あっしはすぐに坊ちゃんと合流してみせまさあ。あの女の鼻っ柱をブチ折ってやりましょ」
広い倉庫のような場所に飛ばされた憲三は、そう呟きながら周囲の観察を行う。罠が張り巡らされていないかを確認しようとした、その時。
『待っていたわよ、憲三。飼い主の手を噛むふざけた野良犬に相応しい死に場所を用意してあげたわ。感謝なさい』
「魔夜! ハン、わざわざご苦労なこって。しかしねえ、あっしはこんなところでくたばるつもりはありゃせんぜ。首ィ洗って待ってなせ、すぐタマぁ獲りに行きやすんで」
『ウフフフ。それは無理ね、お前はここで死ぬのだもの。さあ、行きなさいアストラルM・MARK2! 前世の恨みを晴らし、薄汚い野良犬を抹殺するのよ!』
「何を言って……!?」
どこからともなく、魔夜の声が響いてくる。勇ましく啖呵を切る憲三の数メートル前方に、魔夜の用意した刺客……アストラルM改が転送されてくる。
「水上……さん? なんで、あんたが……」
「ウ、ウウ……アアア……」
かつて、守り抜こうとするも死なせてしまった……ユウを取り上げた医師、早苗。錆びた金属で作られた、いびつなカマキリのような異形に成り果てた彼女と……今、再会した。
戦わねばならない敵として、予想していなかった最悪の形で。




