110話─魔魂片復活
『や、やった……。敵を、全滅……させ……』
「坊ちゃん! しっかりしてくんなせ、大丈夫でやすか?」
『う、くう……。どうやら、このマガジン……かなり体力を消耗するようです。もう……立つのも、やっと……』
アストラルMたち、そして宗吾を打ち破ったユウ。だが、クイックマガジンの使用による疲労と魂の負傷が重なり……。
もう立っているのが限界、というところまで消耗してしまっていた。特に、魂を削られてしまったのが大きく響いているようだ。
「すぐに脱出しやしょう、情報探しはギルドの人らに任せて休んでくだせえ」
『ええ……流石に今回はそうし──!』
駆け寄ってきた憲三に支えられ、彼の進言もあり一度撤退しようと決めるユウ。だが……消耗がピークに達したその瞬間。
恐れていた最悪の事態が起きてしまう。魂の輝きが陰り、心の深層へと封じ込めていた魔魂片ヴィトラが……封印を破り、目覚める。
「坊ちゃん? 一体どうし」
『……ふっ、ようやく封印を破れたぞ。ふむ、これが小僧の身体か。素晴らしい、疲労してはいるがそれを差し引いても瑞々しく力に溢れているな。クククク』
「てめぇ……! 話に聞く魔魂片とやらですかい! 坊ちゃんの身体から出て……グッ!」
『うるさい奴だ、我は今望外の喜びに震えている最中。邪魔をするでない』
肉体の主導権を奪ったヴィトラは、憲三を吹き飛ばし踊るようにステップを踏む。最悪の事態をどうにかしなければ、と立ち上がる憲三だが……。
『さて、時にそこの者。封印されていても我は外の様子を知れる。こやつを取り巻く環境はもう把握している……ついてこい。目的のモノを探しに行くぞ』
「……は? おめえ、一体何を言ってやがるんでぇ。あんたは」
『フン、リンカーナイツに与する者だと言いたいのだろう? そんなのはもうどうでもいいこと。我は……今回の奴らのやり口に憤っている。ゆえに、連中の思惑には乗らぬことにした』
「……なに?」
ヴィトラの想定外の言葉に、憲三は狼狽えてしまう。いの一番に基地を抜け出し、そのまま敵本隊と合流するだろうと考えていたからだ。
『……かつて、我が魂の欠片に別たれるよりも遙か昔。いたのだ、今回のリンカーナイツどもと似たようなやり口で我を陥れ、絶望を与えた者たちが。ゆえに、リンカーナイツを我は許さぬ。奴らには仕置をしてくれるわ』
「その言葉……どうやってあっしに信じさせるつもりで?」
『貴様に何も危害を加えていない。それ以外に必要か? その気になれば、貴様なぞまばたきする間に消し炭に出来る。そうしていないということが、協力してやっている証だ』
あまりにも尊大な態度だが、一応ヴィトラに敵対の意思が無いことを認め憲三は考え込む。本当にこのまま探索を続けていいのか、と。
表裏が入れ替わったことで、心の中に押し込められてしまったユウの容態はようとして知れない。もしかしたら、かなり危険な状態ではと危惧したのだ。
『なんだ貴様、小僧のことが心配か? 案ずるな、奴は我と入れ替わりで心の深層で休息を取っている。命に別条はない、証拠を見せて……いや、聞かせてやる』
『あ……憲三さん。ごめんなさい、こんなややこしい事態になっちゃって……』
「坊ちゃん! よかった、無事でやしたか。しかし、このふてぇ野郎の言葉……信じていいんですかい? いつ後ろから刺されるか分かりやせんぜ?」
ヴィトラは少しだけユウがコンタクトを取れるよう、念話の権利を彼に譲る。とりあえずユウの魂が消えていないことに安心し、憲三は問う。
『……信じてみるしかないでしょう。封印が破られ、こうしてボクが逆に押し込められてしまった以上は……はい』
『というわけだ。なに、案ずることはない。小僧の魂が癒えたらまた主導権をくれてやる。だが、勘違いはするな。いずれ我は、己のやり方でこの肉体を完全に手に入れる。分かったな?』
「ハッ、そんな日は来させはしねえさ。あっしがいる限りは、ね」
『フン、まあいい。ムダ話はここまでだ、さっさと行くぞ』
予想外の展開が連続しつつも、最終的には当初の予定通り事を進める二人。これからどうなるのか、憲三は内心ため息をついた。
◇─────────────────────◇
「……というわけで、暗域よりフィービリア殿に来ていただいた。幻影ではあるが、な」
「ふうん、ここがリンカーナイツとやらの本部なのね。私の城に比べたら月とすっぽん、たいしたことないわ」
その頃、レオンたちトップナイトがリンカーナイツ本部に集結していた。その目的は一つ、同盟相手である魔戒王……【滅怨の魔女】フィービリアを接待するためだ。
が、のっけから無礼千万な物言いをする彼女に全員僅かながら苛立ちを覚えた。一方のフィービリアは、どこ吹く風とばかりに黒いドレスをたなびかせている。
「ま、住むわけじゃなし別にいいけど。さっさと案内しなさい、私の執事ならもう解説しながら歩き出してる頃よ」
「ぐ……分かった、一通り案内しよう」
「早くしなさい? 私は気が短いんだから」
傍若無人なフィービリアに辟易しつつ、彼女の接待をするレオンたち。……が、思った以上のワガママっぷりに振り回される羽目に。
「あー、疲れたわ。そこの黒騎士、私をおぶりなさい」
「……幻影なのだからわざわざ歩く必要はないのでは? そもそも疲れるはずが……」
「いいのよ、そういうロールプレイなの。ほら、早く背負いなさい。嫌なんて言わせないわよ、ほら!」
「……仕方あるまい」
こんな調子で、延々振り回される一同。どうにか本部の案内を終え、同盟締結後の人材受け入れ等の打ち合わせを行う。
ワガママに振り回されたこと以外、特に問題はなく終わる……はずだった。トップナイトの一人が、不用意な発言をするまでは。
「はあ……まったく、こんなワガママな奴と同盟組むなんて選択を間違えたかしらね。噂に聞くコーネリアスとやらの方が」
「──今なんて言った? あのクソガキの方が……なんですって? 言ってみなさい、その言葉の続きを」
チャイナドレスを身に着けたトップナイトの発言に、それまでのワガママ娘な雰囲気が消え……冷徹な王としての顔を見せるフィービリア。
レオンたちが凍り付くなか、魔女はふと考え込む。沈黙が続くなか、問題発言をした張本人は冷や汗を流しどう答えるべきか脳をフル回転させる。
「あ、そ、その……」
「……そうね。最後に一つ、お前たち下等な大地の民に教えておいてあげる。私の機嫌を損ねる者はみぃんな──こうなるのよ」
「がっ……!?」
コーネリアスの名を口走ったトップナイトの方へ手を伸ばし、手のひらを上に向ける。そして、クイッと人差し指を曲げると……チャイナドレスの女に異変が起きた。
一切触れられていないのに、全身の骨が身体の外に弾き出されたのだ。ただの一つも、傷を負うことなく。
「は、え……? あ、わたしのほね……うびゃ!」
「この女の死に様をよく見ておきなさい。たとえ同盟を結んだ相手であろうと、私の逆鱗に触れればこうなるのだと」
「リィレン……!」
「じゃ、私は帰るわ。そのきったない肉の塊は掃除しておきなさいよ。あ、この骨は全部貰ってくわね、コレクションに加えるから」
一瞬にして全身の骨を引き抜かれ、チャイナドレスの女はあっけなく死んだ。戦慄するトップナイトたちを残し、怒りが収まったフィービリアの幻影は姿を消す。
「……とんでもない存在と同盟を結んでしまったな。とはいえ、今更破棄も出来ぬ……か」
次々と巻き起こる、波乱の嵐。その果てに待つ未来は、果たして……。
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