109話─最後のマガジンを手に
アストラルM軍団を相手に、たった二人での戦いを強いられるユウと憲三。数の差だけで言えば、絶望的なものではない。だが、数以上に厄介な問題がある。
全てのアストラルMが、魔夜の持つチート能力【薄れ消え果てよ、魂】を使うことが出来るのだ。僅かにでも触れられたが最後、魂を削られてしまう。
『ビーストコンバート! お前たちには指一本触られるつもりはありません、すぐに全滅させてやります! チェンジ!』
【トリックモード】
『食らいなさい! ファントムシャワー! からの! オールバレットシュート!』
『ぐうっ! 一斉に仕留めようってわけ? ムダよムダ、アストラルMの装甲の硬さを甘く見ないことね!』
まずは数の差を埋め、攻撃を集中させて一体ずつ各個撃破を狙うユウ。合計八人の分身を生み出し、その内の五人を他のアストラルMの囮に回す。
そうして、本体と分身計四人での一斉射撃で残る一機を仕留めようとする。が、相手の装甲が頑強で表面に軽い傷が付いた程度のダメージしか与えられない。
『か、硬い!』
「坊ちゃん、まだやりようはありやすぜ! あのモニターを狙うんでさあ! 視界を奪えば……おっと!」
『余計なことを言うんじゃない! その口を開けないようにくびり殺してやるわ!』
「ハハハハ! いいぞ、やってしまえ!」
装甲の硬さに驚いているユウに、敵と戦いながら憲三がアドバイスを送る。そんな彼が気に食わない魔夜は、アストラルMを操り抹殺に向かう。
そんな機兵の肩の上で、宗吾は自分だけバリアで身を守りながら高みの見物を決め込んでいた。ユウは試しにと、憲三のアドバイスに従いモニターを狙う。
『まずはこいつを機能不全にしないと、憲三さんを助けに行けない……! もう一度いきまよ! オールバレットシュート!』
『こゃーん!』
『ムダなことを。このモニターはバリアを展開する機能があるのよ。それを使えば』
『じゃあ展開される前に壊します! チェンジ!』
【ブレイクモード】
『せいやっ! ナインフォールディバスター!』
分身たちにはアストラルMの脚を狙わせて足止めを任せ、モニターを撃つユウ。魔夜が調子に乗り始めた瞬間、素早くマガジンを取り替えレーザーを放った。
バリアが展開される前なら破壊出来るかもしれない、その判断は見事に当たった。紫色のレーザーがモニターをブチ抜き、相手の視界を完全に奪う。
『ぐうっ、よくもやってくれたわね! なら適当に暴れ回るだけよ、こんな風にね!』
『わわっ! もう、滅茶苦茶な……! でも、これで一体は機能停止させ』
「甘いぜ、俺のことを忘れてないか? もうそろそろ十分経過……さあ、俺のチートの恐怖を存分に味わえ!」
何も見えなくなり、適当に大暴れするアストラルMその一。共に射撃をしていた分身たちが巻き込まれて消滅してしまうが、本体はどうにか攻撃範囲から逃れた。
これで実質あと四体、と思ったその時。宗吾のチート能力が発動条件を満たし、ユウたちに牙を剥く。彼が乗っていたアストラルMが複製されて、六体目が出現した。
「!? ふ、増えやがっただと!?」
「ハハハハ! 言ったろ? こいつらは俺が増やしたってな。そんなわけで、十分ごとに一体ずつ増やしてやるから覚悟しておけよ。なぶり殺しにしてや」
『それは私の仕事よ、お前はアストラルMを増やすことだけ考えてなさい!』
「おーこわ。だとさ、諦めて死んどけ!」
『くうっ、これじゃあキリがありません。あいつの乗ってるアストラルMから排除しないと、いつまで経っても終わりませんよ、これ』
急いで宗吾を倒さなければ、どんどん敵が増えて収拾がつかなくなってしまう。それを相手も分かっており、ユウたちから一番遠い位置にいるアストラルMの方に飛び移っていった。
「ハアッ! チィッ、かってぇボディだ。あっしの長ドス、こりゃあ長くは持たなさそうだ」
『ならそのまま死ね! この面汚しが!』
「っと、そうは……いきやせん!」
『チィッ、ゴミの分際でよくも!』
(一体倒れた! 今なら行ける、急いで奥にいるアストラルMのところに!)
前に出てきたアストラルMその二を、愛用の長ドスで両断し撃破する憲三。敵が一体消えたことで、最奥の敵にたどり着くための道が開けた。
それを見逃さず、すかさず駆け出すユウ。もう少しでたどり着く、というところまで近付いたが……。
「バカが、バレバレなんだよ! やっちまいな、あのガキを!」
『言われなくてもやってやるわよ! オラァッ!』
『しまっ……ガフッ!』
「坊ちゃん! くっ、分身たち! あっしの援護はいい、坊ちゃんのところに!」
目敏くそれに気付いた宗吾によって魔夜に伝えられ、阻止されてしまう。アストラルMの蹴りを食らい、吹っ飛ばされるユウ。憲三は残っている少年の分身たちを救助に向かわせるが……。
『ムダよ。みんな纏めて薙ぎ払ってあげるわ!』
『こゃーん!』
「ぐうっ! くっ、擦っただけでこの激痛……アストラルボディでも、魂を削る力は危険ってわけですかい……」
『オホホホホ! 他愛ないわね、所詮不完全なゴミカスのお前たちじゃ! 完璧な存在である私には勝てないのよ!』
四体のアストラルMによるパンチの嵐によって、分身は全滅してしまう。憲三も攻撃を完全に避けることが出来ず、魂を削られダウンしてしまった。
そんな彼を、四体がかりで蹴りつけ踏みつけリンチする魔夜。そこにモニターを壊されたアストラルMも近付いていくなか、ユウはどうにか立ち上がる。
『ま、て……! それ以上、憲三さんに手出しはさせません……!』
「とかほざいてるがよぉ、フラフラじゃねえかよ、え? ハッ、この調子ならすぐに殺せちまうなぁ!」
『そうね、でもそれじゃ面白くない。徹底的に苦しめてから殺してやるわ! 死ね、私の最大の汚点め!』
『あぐあっ!』
最奥で待機していたアストラルMが動き、満身創痍なユウを殴り飛ばす。パンチの直撃を食らい、ユウは自身の魂が削り取られていく痛みを感じながら吹っ飛ぶ。
『く、うう……』
『あの男のようにリンチしてから殺してやるわ。宗吾と言ったかしら、お前は適当なタイミングであのガキから魔魂片とやらを回収しなさい』
「あいよ、そっちは俺に任せとけ」
『まず、い……。この、ままじゃ……。負けられない……こんな、ところで……!』
魂を削り取られ、息も絶え絶えなユウ。しかし、その瞳に宿る光は消えてはいない。相手が近付いてくるなか、ゆっくりと立ち上がり息を整える。
そして、右腰のホルダーに手を伸ばし……第六のアドバンスドマガジンを取り出す。最後に残された切り札を、今ここで切ることを決めたのだ。
『ボクは負けない! お前たちを倒して、憲三さんと一緒に帰ります! もう二度と……ボクの心は折れません!』
『チッ、まだ立てるの。本当にしぶとい……あの時もそうだったわね、どれだけゴルフクラブで殴ってもなかなか死ななかった……今思い出しても腹が立つ!』
『そんなの知ったこっちゃありません! すうー……はー……。チェンジ!』
【クイックモード:アルティメットアクセラレイション】
ブレイクマガジンを排出し、青色のマガジンをファルダードアサルトに装填する。その直後……音声が響くのと同時に、ユウの左目に数字の10が刻まれた。
そして、少年の脳に情報が流れ込む。最後のアドバンスドマガジンの持つ力と、その使い方。その全てを理解し……ユウは走り出す。超加速の世界へ向かって。
(流れ込んでくる……このマガジンをどう使えばいいのかが! そうか、最後のマガジンは加速した時の中を自在に移動する力! ……これなら!)
神々が創り出した、第六のマガジン。その効果は、十秒間使用者とその周辺の時の流れを歪ませ……超加速能力を与えること。そうして、ユウは駆ける。
全ての敵を滅し、因縁の決戦に向けての前哨戦に打ち勝つために。
【アブソリュートブラッド】
『この加速した時の中を! 自由に動けるのはボク一人だけ! 時間切れを迎える前に、全員倒します! イノセンスインパクト・アクセル!』
『!? いない、ガキの姿が消え──』
「なにが……うぐはあっ!?」
誰にも認識出来ない、超高速移動から放たれる一撃。それは分厚く頑丈なアストラルMの装甲を容易く砕き、たった一発で再起不能にしてしまうのに十分な威力。
何が起こったのかすら理解出来ず、アストラルMたちと宗吾は超加速のラッシュを叩き込まれる。そうしている間にも、カウントダウンは進んでいく。
【……3】
『てやっ! はあっ! やあっ!』
【……2】
『これで……トドメです! こゃーん!!』
【……1】
『な、にが……どうなってるのよおおおお!!!!』
【タイムアウト】
「が、ふ……! なん、でだ……? どうして、俺の身体が……チリ、に……なっ……て……」
「すげぇ……ハハ、本当に坊ちゃんはすげえですぜ……」
制限時間ピッタリで、アストラルM六体が破壊され崩れ落ちる。そして、宗吾もまたユウの攻撃によってチリとなり……身も魂も消滅した。
後には、加速する世界から帰還したユウと彼を見つめる憲三だけが……勝者として残っていた。




