108話─地下に潜む巨躯
『さて、とりあえず敵の司令室までの道のりは……半分くらい、無事に通過出来たようですね。憲三さん』
「ええ、ですがまだ安心は出来やせんぜ坊ちゃん。この基地の親玉、どんどん部下を配備してやすから」
数十分後、ユウと憲三は妨害を掻い潜りながら基地を進んでいた。巧妙に隠された待機スペースから飛び出してくる敵を返り討ちにし、通路を遮断する隔壁を壊し。
司令室の天井裏で位置情報を発信している憲三の左目からの魔力波動を元に、結構な距離を進んできたことを確認するユウ。だが、まだ油断は出来ない。
敵司令官……宗吾は倒されたそばから部下を再配備、さらには隔壁のパターンを変えて明らかにユウたちを特定のポイントに誘導しようとしているのが見て取れたからだ。
(敵は何かを狙っている……。ボクたちをどこかに誘い込もうとしてるように思えて仕方ありません。あの新兵器といい……本当に油断出来ませんね)
飛び出してくるリンカーナイツの構成員を撃ち倒しながら、ユウは言いようのない不安に駆られる。だが、焦りは判断を誤らせ、足元を掬われることになりかねない。
一刻も早く司令官を討ち、魔夜に繋がる情報を手に入れて帰還する。それが今、ユウたちがこなさねばならない任務。まずは冷静にそれをこなすことを考える。
『あ、分かれ道ですよ。憲三さん、右と左どっちがせいか』
「どっせい!」
『いぴっ!? ちょ、いきなりなにしてるんですか!?』
「いえね、やっこさんたちわざわざ通路を偽装してやがるもんですから。ご覧なせえ、左右の分かれ道……と見せかけて真ん中に通路がありまさあ」
しばらく進むと、分かれ道が姿を現す。どちらへ進むべきかなのか、位置情報と照らし合わせて確かめるべくユウが問いかけたその時。
突如憲三が奇声を発し、目の前の壁目掛けてヤクザキックを放つ。壁に大穴が開き、その向こうに……。
『あ、ホントですね。分かれ道は罠、本来の通路を偽の壁で隠す……。なるほど、やってくれますね。ありがとうございます、憲三さん。おかげで罠に嵌められずに済みました』
「いやあ、この程度……」
「罠を見抜いたか! ならここで死にや」
「朝飯前でさあ、風魔投の末裔ですんでね」
「あぎゃぱ!」
本来の通路が見えた。位置情報を確認した健三が、罠を見抜いたのだ。そのまま進もうとする二人に、右の分かれ道から現れた敵が襲いかかる。
が、憲三の投げた二本の棒手裏剣が額と心臓にヒット。あえなく返り討ちとなった。そうしてどんどん彼らが進んでいく一方……。
「ええい、どいつもこいつも何をやってる! たった二人を地下訓練場に誘導出来ないとはどういうことだ!」
「も、申し訳ありません! 何故かは分かりませんが、こちらの用意した策をことごとく見抜かれて対策されてしまっているようでして……」
宗吾は監視用の魔道具を通し、モニターに映し出される光景を見ながら憤慨していた。せっかく本部から渡された『切り札』があるというのに、それを配備した地下にユウたちを追い込めていないからだ。
「まったく、このまま司令室にたどり着かれたらたまったものじゃない。……それにしても妙だな。何故あいつらは先読みしてるかのようにこっちの作戦に気付いているんだ?」
報告に来た部下を叱りつつ、宗吾は思考を巡らせる。頭が冷え、思考がクリアになったことで彼は気付く。自らの頭上にある、ごく小さな気配に。
「む、何か天井裏にいるな! おい、槍を出せ!」
「は、はい! どうぞ!」
「せいっ! ……消えた。あまりにも気配が薄すぎて気付かなかったが、何か使い魔のようなものを潜ませていやがったな。抜かりない奴らめ」
天井を槍で一突きし、潜んでいるモノを始末しようとする宗吾。間一髪、憲三の左目は攻撃を逃れ退散していった。それを使い魔だと勘違いし、追い払えたことに満足する。
「これで形勢も逆転するだろう。今度こそ連中を地下訓練場に誘導する、準備を進めろ!」
「ハッ!」
「とりあえず様子見だな。誘導に失敗したら最悪、この部屋ごと転移してしまえばいい」
そんなこんなで、憲三の左目を追い払った宗吾。だが、それでもユウたちの進軍を阻むことは出来ず。数十分後、二人の司令室への到達を許すこととなった。
『お前がこの基地の司令官ですね。あの女……北条魔夜について記した機密書類があるなら渡してください。そうすれば悪いようにはしませんから』
「言うことを聞く気がねえってんなら、ケジメつけてもらうことになりやすぜ。素直に従っておいた方がいいと忠告しておきまさあ」
「クソッ、使えない部下どもめ! ……まあいいさ、こうなればプランBを使うまで! 自分たちが虎穴に飛び込んだ愚か者であることを思い知れ!」
『なにを……!?』
喉元にまで攻め込まれたなら仕方ないと、宗吾はあらかじめ部屋に仕掛けておいた転送魔法を発動した。想定する中で最悪のケースではあるが、どうにかユウたちを地下に誘導する。
「こんなところにあっしらを……!? 坊ちゃん、あれは!」
『あれは……ゴーレム? 顔の部分にモニターが……?』
宗吾諸共、地下訓練場に送られたユウと憲三。彼らが見たのは、宗吾の後ろにそびえる巨大な灰色のゴーレムだ。ところどころ基盤や配線が剥き出しになっており、頭部には顔の代わりにモニターがある。
「ハハハハ! 驚いたか? こいつはお前たちパラディオンに対抗するため、アップデートを施されたアストラルM! こいつを操るのは」
『この私よ。久しぶりね、ゴミクズども。二人揃ってここで消し去ってあげる。覚悟しなさい!』
「と、いうわけだ。このアストラルMはこれまでお前たちが戦ってきたのとはワケが違うぞ、それに……稼働しているのはこの一体だけではないからなぁっ!」
頭部のモニターに、忌まわしき宿敵……魔夜の顔が映し出される。遠く離れた別の基地から、ゴーレムことアストラルMを遠隔操作しているらしい。
切り札の出番が来たことで勢いづいた宗吾は、さらなる絶望を見せ付けようと指を鳴らす。すると、薄暗い訓練場の奥から追加で四体のゴーレムが姿を現した。
『こんなにたくさん!?』
「ハハハハ! 元は一体しかいなかったアストラルMをこの俺が! ここまで増やしたのさ! お前たちを確実に葬るためにな!」
『全機同時操作なんて、完璧な存在である私には朝飯前。さあ、覚悟しなさい。お前たちのような虫ケラ、すぐに蹂躙してやる』
現れたアストラルMたちの頭部にも、同じように魔夜の顔が映し出されていた。悪夢のような光景に一瞬失神しそうになるも、ユウは気合いで耐える。
「こいつぁ……なるほど、流石にヤベぇな。あっしらを執拗に誘導したがったのも納得でさぁね」
『ですが、いくら数が多いとはいえ今更アストラルに遅れを取るようなことは……』
『甘いわね、このアストラルたちは特別製。私のチート能力を使えるのよ』
『!? それは……本当にまずいですね』
今回立ちはだかるアストラルMは、これまでの連敗から宇野が逆に対策組み改造を施した存在。単体のスペックは他のアストラルに劣るが、その分強力な機能が追加されているのだ。
「さあ、処刑を始めようじゃないか。え? 俺も俺でアシストさせてもらう、そうすればトップナイトの覚えもめでたいからな!」
『好きにしなさい、邪魔さえしなければね。さあ、断末魔に何を叫ぶかを考えておきなさい。薄汚いゴミども!』
宗吾は背後へ跳躍し、アストラルMの肩に着地する。首に取り付けられた取っ手を握り締め、自身のチート能力を発動する準備を整えた。
『くっ、こうなったらやるしかありません! 本人を倒す前の前哨戦、絶対に負けられませんよ!』
「命に変えても坊ちゃんはお守りしまさあ。来やがれ、でくの坊ども!」
地下訓練場にて、戦いが始まる。




