105話─傷だらけの贖罪
リオたちと別れ、一人クァン=ネイドラに帰還したユウ。ニムテにあるアパートメントに戻ると、虚無僧姿の憲三がエントランスにて待っていた。
「お帰んなさいまし、坊ちゃん。そちらの首尾は……ん? お一人でやすか?」
『ええ、いろいろとありまして……。ところで、そちらはどうでした? ボクたちがいない間、何か収穫あったり……』
「ええ、大有りなんでさあ。今すぐ渡したいものが山ほどありやしてね、お疲れのとこ悪いでやすが戻りやしょ」
『わひゃっ!』
憲三はユウを肩車し、急いでシャーロットの部屋に戻る。リビングにてユウを降ろし、リンカーナイツの基地から奪ってきた大量の資料を渡す。
『おお、たくさんありますね。こんなに持ち帰ってくるなんて凄いです!』
「お褒めにあずかるのは嬉しいんでやすが、まずはこれを見てくだせえ。リンカーナイツの連中、とんでもねえことをしてやがるんでさあ」
『えーと、なになに……!?』
憲三から渡させた極秘資料を見て、ユウは絶句する。そこには、レオンと魔夜によるユウの抹殺……そして、魔魂片ヴィトラ奪還の計画がビッシリと書き込まれていた。
それを読んだユウは、何故邂逅して以降魔夜が現れなかったのかを知る。彼女は今、遠く離れた地からそのチートパワーを振るっているのだ。ユウの魂を削り取るために。
『これは……なるほど、あの人が元凶なんですね。ボクの魂の力が弱まってるのは』
「ええ、そうなんでがすよ。そこまでは突き止めたんでやすが、どの基地でそんなたいそれたことをやってるのかまでは突き止められず……肝心なところで役に立たなくて申し訳ねえ」
『いえ、ここまで分かれば大丈夫ですよ。ボクの心の負担が軽くなるって意味で。さて、相手が何をしてるのか分かった今……次にやるべきはもう分かりますね? 憲三さん』
「もちろんでがす。どこでこんなことをやってるのか暴いて、とっちめに行く。それがあっしの役目でさあ」
病院で行った検査では、魂の衰弱の原因までは分からなかった。ゆえに不安に駆られたが、今はもう違う。原因さえ分かれば、後は簡単。
元凶たる魔夜を排除し、己が運命に決着をつけるだけ。まだトラウマで身体が震えはするが、乗り越えると決めたユウの心はすでに不退転の意思で固まっている。
『憲三さん、これからしばらくパラディオンギルドと協力して情報を集めましょう。いくら何でも、闇雲に探し回るのは効率が悪すぎますから』
「あっしもそう思って、一人で行ってみたんでやすがね。なにしろこの風体だ、門前払いを食らっちまいやして。それで坊ちゃんの帰りを待ってたんでやすよ」
『……まあ、仕方ないでしょう。その格好だと変質者だと思われても……はい』
今後の目的は決まった。魔夜が仕掛けてきているなら、真っ向からその策を打ち破り首を獲る。そのためにも、まずは情報収集を始めようとする、が。
『そういえば、憲三さんその笠いつも被ってるんですか? それを脱いでからなら、一人でもパラディオンギルドに入れると思うんですけど……』
「……そうしたいのは山々ですがね、坊ちゃん。いい機会だ、見せてあげやしょ。あっしの素顔を、ね」
ボディがアストラルとはいえど、笠の下には前世での憲三の素顔がすげ替えてあるはずだと。そう考えていたユウは、直後絶句することとなる。確かに、彼の素顔がそこにはあった。
……ズタズタに切り裂かれ、酸で焼き潰されて。右目周辺以外、おぞましい傷痕が刻まれた顔がそこにあったのだ。
『ど、どうしたんですかその顔!? まさか、リンカーナイツの基地に潜り込んだ時に怪我を!?』
「いえ、これは前世でくたばる少し前に付けられた拷問の痕でさぁね。神さんにも言われたんでやすよ、この傷を治してマトモな顔にしてやると」
『なんでそうしなかったんですか? その方がいいと思うのですが……』
「これはあっしなりのケジメでさあ、坊ちゃん。誰一人守れず、無様に死んだあっしが罪を忘れないために。こうして傷痕を残してるんでやすよ。他人から恐れられ避けられたとしても関係ねえ。それもまた、あっしへの罰でやすから」
神々の厚意すらも断り、傷を残したのには理由があった。これは憲三なりの償いなのだと。彼の言葉から察したユウは、何も言わず小さく頷いた。
彼が顔を元に戻すのは、全てが終わってからだろうと。いや、終わったとしても元に戻すつもりがないかもしれない。そう考え、今は傷を治せとは言わないことにしたのだ。
『……分かりました、憲三さん。でもこれだけは約束させてください。その覚悟が実を結んだ時、ボクがあなたの献身に報います。魔神の力で、その傷を全て治しますよ。それが罪を償ったあなたへの、赦しですから』
「坊ちゃん……その気持ち、ありがたく受け取りやす。とはいえ、そんな先のことを考えるのは全部終わってからでいい。今はギルドでの情報集めをしやしょう」
『ええ、閉館時間になるまで片っ端から調べましょう!』
その代わり、一つの約束をした。全てが終わった時、罪が赦された証として顔の傷を……過去と共に消し去ると。ひとまずそれを了承した憲三は、ユウと共に部屋を出て行った。
◇─────────────────────◇
「ったく、いつまでこうしていればいいのかしら。そこの……アストラルLとか言ったかしら、あの生ゴミはまだ完全に衰弱してないわけ?」
「そう焦んなよ、ユウをぶっ殺してやりたいのはこっちだって同じなんだ。果報は寝て待てって言うだろ? 今はやるべきことをやってりゃいいんだよ」
同時刻、大地のどこかにあるリンカーナイツの基地。最深部にて、魔夜は卵型の巨大な装置に乗り込み自身のチート能力をフルパワーで発動していた。
装置によって増幅された魔夜のチート能力が、前世から続く血の繋がりによってユウへと伝わり魂を蝕んでいるのだ。そんな彼女の側に立つのは、黒いローブで全身を覆ったアストラルL。
本来ならば、アストラルJと共に憲三の始末に向かうはずだった。が、魔夜が話し相手を寄こせとワガママを言った末にその相手として抜擢されたのだ。
「フン、そんなのは分かってるわ。慌てる乞食は貰いが少ない、とも言うしね。それにしても驚いたわねぇ、あなた……ゴルンザといったかしら? あなたもあのクソガキに迷惑をかけられてたとはね」
「ああ、オレは……いや、オレやラディム、リリアルがこんなドン底に落ちたのはあいつのせいだ! 今思い出しても腹が立つ!」
魔夜の言葉を受け、アストラルL……ゴルンザは苛立たしげに地団駄を踏む。かつてユウの仲間だった彼もまた、リリアルのようにアストラルへと改造されたのだ。
どこか生気がなかったリリアルと違い、ゴルンザはアストラルボディとの適合率が高かったためエネルギーに満ち溢れていた。今にも床を踏み抜かんばかりに脚を振り下ろしている。
「可哀想にねえ。あんな出来損ないを産んでしまって、本当に申し訳なく思うわ。もう一度あの人間未満をくびり殺して責任を取らないと」
「ならオレも手伝うぜ。あいつをこの手でブチのめさなきゃあ腹の虫が収まらねえ。トドメは譲ってやるから、二人でユウを叩き潰そうじゃねえか」
「いいわねえ、その案乗ったわ。……はあ、まだなのかしら。あのレオンとかいう奴、いつまで私にこんなことをさせるつもりなのかしらね」
ユウと憲三が絆を深めているなか、魔夜とゴルンザもまた逆恨みによる団結力を高めていた。正と負、二つの絆のパワーがぶつかる時……どちらが勝つのか。
それはまだ、誰にも分からない。
面白いと感じていただけましたら、ブクマ・評価等していただけると嬉しいです。




