104話─決戦の後の決意
五日後、ユウはリオたち英雄と共に理術研究院へ総攻撃を仕掛け……死闘の末にダイナモドライバーを簒奪した者。サモンマスターランズを討ち取った。
その後に行われた記念パーティーを経て、英雄やその仲間たちと親睦を深めることが出来たが……。
「お主ら、そこに直れい。全く、ユウのことが心配なのは分かる。じゃがの、アレでもキャプテン・ドレイクはそなたらの先輩。ちとやり過ぎぞ」
「申し訳ありませんでした……」
「ほんとすんません……」
「返す言葉も無いデース……」
パーティーの最中、シャーロットたちがコリンの仲間と少々揉めてしまい。流石にこれはよくないと、アイージャに三人仲良く大目玉とゲンコツを食らうことに。
たっぷりと反省文と謝罪文を書かされている頃、ユウはリオと共に以前魂の検査を行っていた。彼は異界にやって来てから、とある違和感を覚えていたのだ。
「お待たせ、結果が出たよ。ユウ、やっぱり君の予感は当たってた。魂の力が、前に計測した時より大幅に下がってる」
『ああ、やっぱり……。おかしいと思ったんです、いくら気張っても気弱さが抜けないだなんて。魂の衰弱に、人格が引っ張られてるってところですか?』
「うん、それ以外にないね。誰かが僕たちの想像の外にある力で、なんらかの干渉をしてると見ていいと思う」
エヴァンジェリンたちとの騒動、そして記念パーティーでのトラブル。その双方で、ユウは本来ならあり得ない無様を晒してしまった。
あまりにも、過去のトラウマがフラッシュバックしすぎる。その違和感の原因を探るため、再度精密検査を受けた結果。魂の力が衰弱していることが判明したのだ。
(たぶん、リンカーナイツの連中の仕業ですね。あの人を呼び寄せて、そのうえでさらにボクの魂を弱らせる……狙いは絶対……)
何者が何の目的で、こんなことを仕掛けてきているのか。ユウにはある程度察しがついていた。こんなことをするのは、リンカーナイツ以外にいない。
では、何故ユウの魂を弱らせるのか。その目的が、彼の心の深層に封じ込められた魔魂片ヴィトラの解放だろうと推察したのだ。
(ボクの魂の力が弱まれば、必然的にヴィトラの封印も弱体化する。危険水域を超えれば、復活ついでにボクの身体を奪われかねない……)
ヴィトラの復活と、それに伴うユウの肉体の乗っ取り。そんな事態になれば、リンカーナイツの当初の目的が達成されてしまう。
どうすればその事態を防げるのか。一人考え込むユウの肩に手を置き、リオは自分を見るよう伝える。
「ユウ。来たんだ、君が過去を……前世の因縁を乗り越える時が。これは試練なんだよ、僕やアゼルくんたちがそうだったように」
『ボクの、試練……。因縁に決着をつけるための……』
「そうさ、これは君自身がケリをつけなくちゃいけない。そうしなければ……永遠に苦しめられるよ。心に巣食う、過去の幻影に」
かつて、リオは乗り越えた。自身の身に降りかかった、あまたの試練を。それは彼だけではない。アゼルやコーネリアス、フィルとアンネローゼ。
彼らもまた、それぞれの試練を乗り越え。今回共闘したキルトもまた、彼らに続かんと戦い続けている。そこに続くのが、ユウのなさねばならぬ事なのだ。
『……分かって、います。でも……やっぱり、怖いです。あの人と対峙すると、あの時の痛みを、苦しみを、絶望を思い出してしまって』
「分かるよ、なんて言えない。抱える痛みはその人だけのものだから。でも、そこから逃げたって先には行けない。ユウは……ずっと後ろを向いて足踏みしてたいかい?」
『嫌です、そんなのは! ボクも、ボクだって……ボクだって、魔神なんです! パラディオンなんです! パパやママたちのように、大切な人たちを守れるようになりたいんです!』
優しく諭すリオに、ユウは叫ぶ。自分も先達のようになりたいと。自分だけが過去に囚われ、何も出来ず前に進めないのは嫌だと。大切な仲間を守れるようになりたいと。
「うん、その意思があるなら大丈夫。今はまだ恐怖に呑まれていても、きっかけさえあれば必ず乗り越えられる! ということで、今回僕たちは直接あの女を倒すことの手助けはしないよ」
『え、してく……いえ、そうですよね。ボクが自分で決着をつけなくちゃ、何の意味もありませんから』
「そう、その意気だよ! 大丈夫、事が終わった後であの女達がしぶとく生き延びたりするようなら……『後始末』はこっちでやるからさ。ふふふふふ」
『そ、そうですか……』
息子がさらなる成長を果たせるように、リオはあえて突き放す。だが、完全に知らんぷりするわけでなない。決着がついた後のことは、現父親としてきっちりカタをつけるつもりでいた。
愛する息子を苦しめ、その命を奪った魔夜を許すつもりなど到底ない。リオにはリオのやり方で、魔夜に責任を取らせるのだ。
「……っと、結構話し込んじゃったね。そろそろ戻ろっか、ねえ様のお説教も終わってるだろうし」
『そうですね、パパ。……後でちゃんと、ドレイクさんには謝らなきゃ。流石にシャロさんたちやりすぎてましたし。ボクのことを心配してくれるのは嬉しいんですが……』
そんなこんなで、病院を出たユウたちはグランゼレイド城に戻る。クァン=ネイドラにみんなで戻るつもりでいた、のだが……。
『え、居残りですか!?』
「うむ、こやつらはユウを心配するあまり周囲に気を配る余裕がなくなっておる。そんな不抜けた状態で送り出せば、また粗相をしてパラディオンの品格を落としかねん。そうならぬために、こやつらはしばし妾が預かり再教育する」
「ごめんね、ユウくん。私たち、アイージャ様のところでもう一度自分を鍛え直すわ。いくらなんでも、今回は傍若無人すぎたから……」
シャーロットたちも十分反省した……が、それだけではケジメをつけたとは言えない。二度と過保護さから来る暴走を起こさないように、アイージャに再教育してもらうことになったのだ。
『じゃあ、ボクとケンゾウさんだけであの人たちと戦わなきゃいけないってことですか……?』
「なに、最後まで二人で戦えとは言わぬ。再教育の終わった者から順に、クァン=ネイドラに送るでな。それまではあの者と共に頑張るのじゃぞ、ユウ」
『うう……分かりました、もうへこたれないって決めたんです。これくらいやってみせます!』
「えらい! そんなユウにー、僕からプレゼントがありまーす! はい、これ。待たせてごめんね、ようやく完成したんだ。五つ目と六つ目のアドバンスドマガジン!」
城の談話室にて、アイージャやシャーロットらを交えそんな会話をするユウたち。二人だけでも戦い抜いてやると気合いを入れるユウに、リオは魔法で呼び寄せたアイテムを授ける。
黄色と青、二つの拳銃用マガジン。長らく手に入ることのなかった、光明神と時空神の力を宿すマガジンがようやくユウの手に渡ったのだ。
『わ、ついに完成したんですね! ずいぶん難航したみたいですが……』
「すまんの、レケレスの阿呆めが自分のアイデアを盛り込めと完成直前でちゃぶ台をひっくり返しおってな。仕様を変えて作り直した結果、えらい時間がかかってしもうたのよ」
「でもでも、その分強力な効果に仕上がってるよ。その【ブロックマガジン】と【クイックマガジン】はね!」
リオ曰く、黄色い方がブロックマガジン。発砲直後に不可視のバリアを作り、攻撃を防ぐ守りの力を備えていると説明をする。
『ふんふん、なるほど。いろいろ応用が効きそうですね、バリアと一口に言ってもいろいろ活かし方がありますし』
「うんうん、柔らか~い発想でどんどん活用してね! で、青い方は……」
「それは自分で使ってのお楽しみよな、リオよ。楽しみが削がれてはユウもやる気が出まい。実戦でその効果を知るもまた一興じゃ」
『えー……。まあ、確かにママの言うことも一理ある……かも』
「なに、案ずるでない。初回使用時に、どんな効果があるのか頭の中に情報が流れるよう魔法をかけてある。使い方が分からずじまいにはならぬよ」
もう片方のマガジンについても説明しようとするが、アイージャに止められてしまった。苦笑しつつ、ユウは二つのマガジンをホルスターに装填する。
これでついに、六つのアドバンスドマガジンが揃い踏みした。後は憲三と共に、魔夜に挑み前世の因縁を打ち破るのみ。アイージャやシャーロットと別れ、ユウとリオは談話室を出る。
「名残惜しいけど、そろそろお別れだね。次に会う時は、とびきりの笑顔で帰っておいでね、ユウ」
『はい! 必ずあの人を……北条魔夜を倒してきます。それが、ボクの乗り越えるべき運命なのですから』
「よく言ったね! それでこそ僕らの自慢の息子だよ!」
互いにそう言葉を交わし、魔神の親子は微笑み合うのだった。
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『……感じる。あの者の……ユウの魂が衰弱してきているのを』
その頃、ユウの心の深層ではヴィトラが静かに佇んでいた。復活が叶う日も、そう遠くはない。そう感じてはいたのだが……。
『気に入らぬ、全てが気に入らぬ。……あの女、北条魔夜。奴を見ていると思い出す……我がまだ終焉の者と成り果てる前。我を弄び、ふざけた絶望を与えてくれた神どもを』
ヴィトラは苛立っていた。深層に封じられてはいるが、外で起きていることは全て見聞き出来る。ゆえに、彼女は憤っていたのだ。
かつて、魔魂片に別たれる前の彼女が終焉の者フィニスと成り果てるに至った元凶。その者たちに重ねていたのだ。魔夜という暴虐の化身を。
『我をアシストしているつもりなのだろうが、素直に受け取るものか。今回ばかりは……フン、思惑に乗ってなどやらぬぞ』
そう呟き、ヴィトラは力を蓄える。いずれ来る、復活の時に備えて。




