101話─一触即発……!?
「ちょっと、それどういうこと? 天上の連中がそんなこと出来るなんてアタシ知らないんだけど」
「ほーん、ほならボンはどんな理由で転生してきたんや? ちゅーか、あの神さん連中何やっとんねや。自分で転生転移は御法度うんぬん言っとったクセに」
「神々がそこまでするとは……君は一体何者なんだい?」
『えっと、あの、その……』
エヴァンジェリンたちに詰め寄られ、ユウは返答に困ってしまう。敵ではないが、彼女らは完全な部外者。自身のアレコレや神々の思惑、伝えられることは多くない。
そんなユウの目の前に立ち、エヴァンジェリンが少年を見下ろす。鋭い目をスッと細め、ゆっくりと……声を発する。
「煮え切らないわねぇ。大丈夫よ、別に取って食おうなんてしないから。だから落ち着いて話してみなさい?」
『ひっ……!』
それがトリガーとなり、ユウの脳裏にフラッシュバックする。つい数日前に起きた、忌まわしい出来事。自分を守らんとしたミサキが倒れ、もう二度と会うことのないはずの存在と再会してしまったあの日。
そして……前世においての、自身の最期を。心の奥深く、魔魂片ヴィトラを封じている深層に押し込めていた魂の痛みを。
『このクズ! ゴミ! なんでお前は普通に話せないの! 人並みになれないのよ!』
『ご、ごめ、ごめなさ……ひぐっ!』
『こっちは必死に腹を痛めてあんたを産んでやったのに! 私の完璧な人生によくも! 泥を塗ってくれたわね……この出来損ないめ!』
窓一つない、暗く閉ざされた部屋。そこに横たわる、全身傷や火傷だらけの幼いユウ。そして、ユウをゴルフクラブで殴る半狂乱の魔夜。
ただでさえ不安定だった精神の均衡が完全に崩れ、ユウの目に涙が浮かぶ。大粒の涙がポタポタと落ちるなか……少年は大泣きしてしまった。
『う、ひぐ、ふえ……』
「え? ちょ、ちょっと? どうしたのよ、なんでいきなり泣いて」
『うえぇぇぇーん!! ごめんなさい、ごめんなさいー! う、うま、生まれてきてごめんなさいぃぃぃ!!』
当然、それを見ていたシャーロットたちが動かないはずもなく。無理矢理ゲートをこじ開け、ユウの救出……そして、エヴァンジェリンを追い払うため異界へ向かう。
「ど、どないしたんや!? 落ち着いてぇや、ウチらは別に……ひいっ!?」
アスカがユウを泣き止ませようとした、その時。少年の背後の空間に亀裂が走り、無理矢理ゲートを突破してきた激怒モードのシャーロットたちが現れる。
アスカの頭のすぐ横を、シャーロットの放った矢がかすめ遙か後方へ飛んでいく。彼女らもまた、怒りで完全に我を忘れてしまっていた。
「てめぇら……ずっと見てたぞ。よくもうちのユウを泣かせやがったな、ええ?」
真っ先に現れたチェルシーは、ドスの効いた声で呟きつつエヴァンジェリンを睨み付ける。その手は今にもマジンフォンに伸びそうだが、すんでの所で踏みとどまっているようだ。
「お前たちの行い、万死に値するわ。ここで死に、詫びなさい」
続いて現れたシャーロットは、二の矢をつがえながらアスカの心臓へと狙いを定めている。父譲りの、敵対者への無慈悲さが遺憾なく発揮されていた。
「ゆーゆー泣かせるたぁふてぇ奴デスマス。……はらわた引きずり出してやっから覚悟しろデス、このクズどもが」
最後に現れたブリギットは、三人の中で一番怒り狂っていた。血走った目でフィリールを睨みながら、二つのトマホークを打ち鳴らす姿は殺人鬼のそれだ。
「な、何よあんたたち!? ちょっと待って、こっちの話を」
「うるせぇ。ユウを泣かせる奴らの話なんざ聞くつもりはねえんだよ。ユウ、おいで。怖かったな、アタイらが守ってやるから」
『うわぁぁん、チェルシーさぁぁぁん!! えぐっ、ぐすっ』
怒り狂ったパラディオンたちの突然のエントリーに、エヴァンジェリンたちは仰天してしまう。チェルシーの元に走り寄り、ユウはえぐえぐ泣き続ける。
そんなユウを抱き上げてあやしつつ、一歩前に出ようとした……その時だった。界門の盾が出現し、その向こうから二人の人物が飛び出してくる。
「はいストーップ! いろいろと誤解してるようだから、まずは両方とも落ち着いて! ね?」
「な、なんなんです? この状況は……」
「あっ、リオ様にキルト! よかった、この状況なんとかして! あの三人こっちの話全く聞いてくれないのよ!」
現れた二人のうち、片方はリオ。どうやったのやら、この騒ぎを感知して止めに来たらしい。もう一人は、オレンジ色のジャケットと青いズボンを身に着けた、銀髪の少年だ。
困惑している少年……キルトは全く状況を飲み込めず混乱しているようだ。
「リオさん! でもよ、こいつらユウを泣かせて……」
「だからそれが誤解なんだってば! 実は……」
リオが来たことで、チェルシーたちは少しだけ落ち着いた。今がチャンスとばかりに、エヴァは急いでこれまでのことを捲し立てる。
「なるほど。あなたたちが何かしたわけではないことは分かったわ。でもね……エヴァと言ったかしら、あなたの行動はユウくんには絶対してはダメなのよ」
「へ? そ、そうなの?」
「ゆーゆーは上から睨まれるのがトラウマなのデスマス。だから、お話する時は視線の高さを合わせたり睨まないよう注意が必要なのデス」
「そ、そうだったの……って、別にアタシ睨んでないんだけど!?」
どうにか冷静さを取り戻したシャーロットとブリギットは、エヴァンジェリンが悪意を持ってユウを泣かせたわけではないことを知り事情を説明する。
驚きつつも不服そうにしているエヴァンジェリンを見ながら、フィリールはやれやれと首を横に振る。
「エヴァ、お前は何かを問い質す時に視線がキツくなるぞ? いつも私にそんな目を向けてるじゃないか、あれは興奮し」
「あんたはちょいと黙っとれやこのドM!」
「おっふ❤」
「えぇ……? な、なにこの人……」
エヴァンジェリンが落ち込むなか、何故かマゾ発言をするフィリールと彼女の尻をアスカが蹴り飛ばす謎のやり取りが挟まる。フィリールが生粋のマゾヒストということを知らないシャーロットたちは、困惑しつつ吹き出してしまう。
「ぷっ! 何やってんだか、こいつら。ま、ユウが泣いた理由は分かった。今回は不幸な事故だったってことにしといてやるよ。な、ユウ?」
『ひっく……ぐすん。ごめんなさい、ボクのせいでいらない混乱を招いてしまって……』
「いえ、僕たちが間に合ってよかったです。……ところで、ユウくんでしたっけ。どうして君はこの大地に?」
誤解が解け、ユウが落ち着いたところでそれまで経過を見守っていたキルトが質問を挟む。そんな彼に、リオが代わりに説明を行う。
「僕が頼んだんだ、この大地にいる戦士たちを代わりに助けてあげてって。本当なら、もっと穏便な顔合わせにしてあげたかったんだけどね……」
『そうだったのか。で、結局ユウとやらは何者なのだ?』
『はい、ボクは……創世六神と取り引きして、転生させてもらう代わりに……色んな大地で悪さをしてる、地球からの転生者や転移者を倒すお仕事をしてるんです』
「な、なんやてぇぇぇぇぇ!?」
キルトの右腰に下げられたデッキホルダーから謎の声が質問を投げかけるなか、ユウはとりあえず真実半分嘘半分な事情をキルトたちに話す。
パラディオンという存在を深く知られて困るわけではないが、あまり深入りされても仕事に差し障るため一部の真実は告げないことにしているのだ。
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その後、チェルシーやブリギットによって一悶着ありつつもどうにか和解した一同。すっかり落ち着いたユウは、とある疑問を口にする。
『あの、ところで今の声……誰ですか? エヴァンジェリンさんの誰とも違う声質でしたが』
「あ、紹介するね。僕……、まだ僕のことも知らないか。僕はキルト、エヴァちゃん先輩たちと一緒に戦うサモンマスターなんだ。で、声の主は……」
『ルビィ。もっとも神に近き偉大なるエルダードラゴンにして、キルトと命を共有する魂の伴侶だ。外に出るのはおっくうなのでな、デッキホルダーの中から失礼するぞ』
『あ、そうなんですね。よろしくお願いします、キルトさんにルビィさん』
ひとまず挨拶を済ませ、どうにか一件落着し。ひとまず、今後の共同作戦遂行の準備をするためキルトたちサモンマスターのアジトに滞在することになったユウたち。
リオやキルトはそれぞれやることがあるとのことで、ユウやエヴァンジェリンたちと別れて戻っていった。
『わあ、凄いですね! 大きな山脈一帯にこんな大要塞が……』
「ええ、コーネリアス様に格安で建てていただいたのよ。まあ、格安ったってかなりの大金だけど」
「お父様のところの建設屋なら安心ね、手抜きなんてしないもの」
サモンマスターたちの基地は、シャポル霊峰と呼ばれる大山脈に築かれていた。まさしく、難攻不落の要塞と言っていい威容を誇る巨大建造物だ。
「キルトから連絡があるまではここで待機よ。とりあえずリビングでくつろいでてちょうだい。欲しいものがあったら……なによ、アンタ。変なもの見るような目ぇして」
「え、ええ。なんていうか……私が聞いてた人物評と大分違うのね、貴女。もっと粗暴で愛想が悪いのかと思ってたわ」
「……まあ、そう思われても仕方ないわね。アタシの過去が過去だもの」
アジトのリビングに通されたユウは、お洒落なバーのような雰囲気に興味津々なようだ。チェルシーとブリギットを伴い、フィリールとアスカに案内したもらってアジト中を見て回っている。
そんななか、一人エヴァンジェリンとリビングに残ったシャーロットはそう口にする。実のところ、彼女は困惑していた。エヴァンジェリンの予想外の優しさに。
「アタシもねぇ、自分で言うのもアレだけど昔は手の付けられない暴れん坊だったから。まあ、今でも媚びへつらってくるような同族は叩きのめしたりたりするけど」
「……それ以外の相手には丸くなった、ってところかしら? 驚いたわよ、絶対貴女とユウくんが会ったらロクなことにならないと思ってたもの」
「ふふん。大切な人……まあ、キルトのことなんだけど。愛を知るとね、真逆の方向にだって変われるのよ。このアタシでもね」
一触即発の騒動を経て、少しずつ……パラディオンとサモンマスターたちの間に、絆が芽生えはじめていた。




