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100話─パラディオンVSサモンマスター!

「こんのガキィィィ……! アーマーがなかったらアバラが折れてたぞ! もう許さねえ、ぶっ殺してやる!」


『ぴっ! うう、凄い迫力……でも、ボクは逃げません!』


 少しして、吹っ飛ばされたアグレラが戻ってきた。鎧の胸部分がおもいっきりヘコんでおり、ユウの放った掌底の破壊力を雄弁に物語っている。


 これまで戦ってきたリンカーナイツの三下たちとは違う、生粋の強者が放つ本物の殺気を浴びて小さく悲鳴をあげるユウ。それでも退くことはなく、アグレラに挑む。


『ていっ、スイングテール!』


「ハッ、尻尾で足払いしようってか? きひゃ、そんなもん当たらな」


『尻尾は九本あります、なのでこんなこともやれるんですよ!』


「んなっ、尻尾を縦ふべっ!」


 撃ち抜かれた翼を再生させるための時間稼ぎに、格闘戦を挑むアグレラ。相手の尻尾を避けようとするものの、ユウは器用に尻尾を縦に並べてビンタをお見舞いする。


 一族の集まりがあった時の隠し芸用にこっそり練習していた技術を、戦闘に転用してみようと思い立ちぶっつけ本番で叩き込んでやったのだ。


「ぐおっ! ……んの、舐めんな! ウォルゴススパイラル!」


『反撃しますか、なら受け止めます! フォックススキン!』


「らあっ!」


『コン!』


 吹っ飛ばれたものの、今回は足場のフチに爪を引っ掛け、湿原への転落を逃れたアグレラ。ユウ目掛けて身体をきりもみ回転させながら突撃していく。


 対するユウは、無策で受けるのは危険と判断しグランザームとの修行で身に付けた防御術を発動する。全身を防具ごと硬化させ、攻撃を受け止めてみせた。


(ふう、なんとか受け止められましたね。リンカーナイツの連中とはひと味もふた味も違いますね、相手は。フォックススキンを使わざるを得ないとは……油断なりませんね)


「おお、受け止めたぞ! それにしても、随分可愛らしい気合いの入れ方だ」


「せやなぁ。……にしても、あのボンの名前。もしウチの推測が正しいんなら、ボンは……」


 そんななか、自分たちでも苦戦を免れなかったアグレラの攻撃を真正面から受け止めてみせるユウを見て、フィリールが讃える。一方のアスカは、何か考え事をしているようだ。


 そんな彼女らを尻目に、ユウは相手の腕を払い除け反撃に移った。サモンマスターという未知の相手に、長期戦を挑むのはリスクが高い。そう判断し、一気に攻める。


『次はボクの番です! フォックスコンビネーションを食らいなさい! こゃーん!』


「ぐっ、なんつうスピードしてやがる!」


 パンチやキック、体当たりといった肉体を活かした攻撃を浴びせていくユウ。怒濤の連撃を前に、アグレラは防戦一方だ。時折、どうにか隙を見つけて反撃しようとするがそう簡単にいかない。


 何故なら……。


「隙アリ! 食ら……ぐっ!」


『反撃なんてさせません、このファルダードアサルトで撃っちゃいます!』


 反撃された瞬間、すかさずユウが右手に持った銃を撃って攻撃を潰しているからだ。マガジンを装填していない状態では威力がないらしく、相手の腕を弾くだけでダメージを与えられてはいない。


 マジンフォンを一切用いない、シンプルな戦闘スタイルだからこその自由度の高いコンビネーション。魔神化していたら、こうまで縦横無尽に戦えない。


「チッ、ガキが……。面倒くせえ、これで一気に終わりにしてやる!」


『アルティメットコマンド』


「まずいわ、フィリールにアスカ! あの子の救援に入れるよう準備して。場合によっては割って入るわよ!」


「分かった!」


「ガッテン!」


 このままではラチが明かないと考えたアグレラは、一旦バックジャンプして距離を取る。そして、腰に下げたデッキから大きく口を開けたオオカミが描かれたカードを取り出す。


 サモンギアと呼ばれるベルト型の装具にカードを装填し、切り札たる必殺の奥義を放つ態勢に入る。それを見たエヴァンジェリンたちは、ユウの援護には入れるよう身構える。


 直後、青い毛並みを持つオオカミ型のモンスター『フェイルウォルスタ』が現れる。唸り声をあげながら、ユウ目掛けてアグレラと共に突進する。


「食らいな、ガキ! ウォルフディール・クラッシャー!」


 前方からは牙を剥き出しにするオオカミ、そして頭上からは下半身をオオカミの頭部に変え……これまた大顎を開き落下してくるアグレラ。


 アグレラの方は相手の動きに合わせて軌道を変えることが出来るようで、迎え撃つのも避けるのも一苦労する二身一体のコンビネーションだ。


「二人とも、助けに……」


『いえ、大丈夫です。これくらい一人で対処出来ないようでは、ボクに名代の役目を託してくれたリオさんに顔向け出来ませんから! チェンジ!』


【ブレイクモード】


 助太刀しようとするエヴァンジェリンたちを制し、ユウは右腰のホルダーに刺さっている四本のマガジンのうち、ブレイクマガジンを装填する。


 向こうが切り札を使うなら、こちらも全力で立ち向かう。ファルダードアサルトを構えたユウは、銃口に膨大な量の魔力を集約させていく。


(この子、なんて凄まじい魔力……! 本当に、一体何者なの? この子は)


「きひゃひゃ、何をするつもりか知らねえが関係ねえ! 他の連中諸共食らい尽くしてやるよォォォォォォ!!」


「アォォーン!!」


 エヴァンジェリンと仲間たちがユウの放つ魔力に絶句するなか、アグレラは自身の勝ちを確信し攻撃を仕掛ける。だが、彼は……否、彼らは知らない。


 魔神の一族の末席にして、何者よりも強き魂の力を持つ少年……北条ユウ。かの者の真価を、実力を。ゆえに、この勝負……最初から勝敗は見えていた。


『残念ですが、あなたの負けです。闇寧神より授かりし、全てを破壊する力を受けなさい! ナインフォール・ディバスター!』


「がっ……!? なんだ、この凄まじいパワーは!? あり得ねえ、この俺様が……呑まれ、て……ぐああああああ!!」


「ギャィィィーン!!!」


 ユウがトリガーを引いた瞬間、銃口から紫色をした極太のレーザーが放たれる。破壊の力に呑み込まれ、アグレラは相棒共々断末魔の叫びを残し……消滅した。


 レーザーが消えた後、残っていたのは焼けただれ溶けたサモンギアとデッキホルダーの残骸だけだった。


「終わったね。それにしても、凄いじゃないの。アタシたちでも苦戦した天使モドキをあっさり倒しちゃうなんて」


『あ、ありがとうございます。これで……ボクの役目を果たせました』


「おおきに。なあ、ユウっちゅうたか。一つ聞きたいことがあるんやけど、聞いてもええか?」


『な、なんでしょうか……?』


 無事アグレラ……サモンマスタールガを撃破し、自分たちのピンチを救ってくれたユウにお礼を言うエヴァンジェリンたち。その最中、アスカがユウに疑問をぶつける。


 なんとなく嫌な予感を覚え、ユウは一歩退く。目の前にやって来た全身銀ピカの人物から、自分と同じ『異邦人』の匂いを嗅ぎ取ったからだ。


「ジブン、北条っちゅう名字やろ? もしかして、ボンもウチみたいに地球から転移してきたんちゃうんかいな?」


『!? あ、あなた……そうですか、天の神様たちが言ってた()()()()()()()()()()()()の一人でしたか……』


 やはり、とユウは心の中で呟く。具体的な名は聞かせてはもらえなかったが、バリアスと邂逅した際……別れ際に教えてもらっていたのだ。サモンマスターの中に、対処の必要がない異邦人がいると。


「あー、なるほと。あんたもあんたで何か事情持ちってわけね。で、あんたは結局その転移者? ってやつなの?」


 アスカが異世界転移した者であると知り、途端に動揺するユウ。エヴァンジェリンに問われ、ビックリしながら九本の尻尾の中に隠れてボールのような状態になってしまう。


 エヴァンジェリンの鋭く攻撃的な目付きを見ていると、思い出してしまうのだ。つい少し前に邂逅してしまった、忌むべき前世の母親の姿を。言葉を。悪意を。


『は、はい……。えっと、厳密には転移したんじゃなくて……転生したんです。天の神様たちが、()()()()()生前の記憶と人格を維持したまま転生したのが……ボクなんです』


「な、なんやてぇぇぇぇぇ!?」


 尻尾の中から目だけ覗かせ、オドオドした様子でユウはそう答える。思わずアスカが叫び声をあげると、小さく悲鳴をあげ尻尾でガードを固めた。


 そんなユウの様子を、遠く離れた待機地点で見ていたシャーロットたち。彼女らもまた嫌な予感を覚え、浮き足だっていた。


「やっぱり……ユウくんの様子が変だわ。エヴァンジェリンが余計なことしなければいいんだけど……」


「なあ、今のうちに割って入った方が良くねえか? どう見ても挙動が不安定だぞ、ユウ」


「ジュッチューハック、トラウマを刺激されてると見ていいデス。ゆーゆーを泣かせたらもう…許さんデスよ」


 そんな彼女らの危惧は、見事に的中してしまうことになる。他ならぬエヴァンジェリンによって……。

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― 新着の感想 ―
[一言] この助太刀参戦がファースト・コンタクトだったのは覚えてるけど(ʘᗩʘ’) その時から泣き虫だとは思ったが(゜o゜; メンタルボロボロなら最初から保護者同伴しとけよ(⌐■-■)
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