96 斎藤利三
氏家直元は、あっさり織田家への臣従を約束した。
というより、既に坂井右近将監殿が臣従の約束を取り付けていた。
稲葉良通も、斎藤新五殿が口説き落としている。
あと美濃四人衆とも言われることのある不破光治は、史実では稲葉山城が落ちてから臣従するので、他の人に任せましょう。
そんなところに時間をかけていられない。
折角西美濃へ来たので、幾人かの所へ顔を出しておきたい。
まずは当然、斎藤利三だな。
おそらく、これがラストチャンス。
これを逃せば、稲葉良通の家臣となってしまうだろう。
「漸くお目にかかれました。金山城城主森三左衛門が嫡男、傳兵衛に御座る」
「斎藤内蔵助に御座る。初めて文を頂いてから、かれこれ五年程になりますか」
俺は頷くと、早速用件を切り出す。
「これから西美濃の多くの国人衆が、織田に靡くことになります。内蔵助殿も、いずれかの方と共に織田へ降ることとなりましょう」
じっと内蔵助殿の目を見ながら言葉を紡ぐ。
内蔵助殿も、おそらく分かっているだろう。
このままなら稲葉良通について織田へ降ることになると。
「故に、おそらくこれが最後の機会となりましょう。どうか彦四郎(稲葉良通)殿ではなく、森家へ、出来ますれば某に力を御貸しいただきたい」
「傳兵衛殿、何故そこまで某をお誘い下さるのか?」
こちらは、五年も情熱的にラブコールしている上、稲葉良通との仲はイマイチ、迷っておくれー。
「美濃を調略する上で、色々と諸将の事を調べました。その上で、心に引っ掛かったのが、内蔵助殿に御座る。数ある美濃の将の中、あわよくば家臣にと思った者は、幾人かおります。大島鵜八殿の弓の腕、竹中半兵衛殿の稲葉山城を落とした手腕、谷野大膳殿の剛力。なれど必ずや家臣に、森家ではなく某の家臣にしたいと思うたのは、内蔵助殿のみに御座る」
理由になってないな。
稲葉の家臣になってから、明智に引き抜かれるのを阻止したいっていう理由は言えないし、勢いと情熱で押すしかない!
内蔵助殿はじっとこちらを見ている。
まだいけるか?
「少なくとも彦四郎殿よりは、某の方が内蔵助殿に活躍の場を与えられると思うております」
内蔵助殿は目を瞑り腕を組んで静かに俺の話を聞いている。
迷いが大きくなっているようだな。
「彦四郎殿の方が、多くの知行を与えられるのかもしれませぬ。しかし、内蔵助殿が御助力を下さるならば、いずれ必ずや万貫を与えられると思うておりまする」
「それほどまでに、某の事を…傳兵衛殿!いや、殿!これより宜しくお願い致しまする!」
あっ、感動してくれたよ…ラッキー!
なんとか、稲葉良通VS明智光秀の対決は回避できそうだな。
しかも、親父の家臣にではなく、俺の直臣だ。
万が一、明智光秀に引き抜かれても、森可成VS明智光秀の対決も避けられそうだ。
あとは、安藤太郎左衛門殿に紹介してもらった乾作兵衛の勧誘へ行かないと!
その後、乾作兵衛のついでに、青木村の青木加賀右衛門重直、福田城の那波和泉守正澄、鏡島城の石川杢兵衛光信、伊地良村の谷野大膳衛好などを森家へ勧誘する。
色好い返事が貰えたらいいなぁ。
まあ、領地持ちが多いから、子供や兄弟を狙っているんだが…
あっ、乾作兵衛と谷野大膳は、すぐに俺の家臣となってくれた。




