95 指南役
イガイガに居場所を教えてもらい衣斐丹石に会いに行ったのだが、残念ながら指南役は断られてしまった。
新八郎の事は気に入って貰え、教えを受けることは許してもらえたが。
代わりに弟子を一人紹介してもらった。
なんでも娘婿らしい。
その弟子を求めて、更に北へ向かう。
「御免!某、衣斐丹石殿の紹介で参った森傳兵衛と申す者。伯山殿にお会いしたいのだが御在宅であろうか?」
中々立派な屋敷の前にいた下男らしき者に伯山がいるかどうか聞く。
「少々お待ちを!」
「どうした、何かあったか?」
と、慌てて奥へ引っ込もうとしている男だったが、中から出て来た俺より少し上くらいの若い男に呼び止められる。
「旦那様にお客様です。丹石様の御紹介だそうで」
下男の言葉に頷くと、
「嫡男の権之進と申します。生憎父は所要で出ておりますが、直ぐ戻りますので中でお待ち下さい」
と言い、招き入れてくれる。
「よろしいのか?突然参ったのです。改めて出直しますが」
「なんの!丹石先生が御紹介された方々をそのまま返しては父に叱られましょう」
まあ、また来るのは面倒だから助かるな。
「父上、こちら織田家の森傳兵衛様に御座います」
権之進と半刻ほど話をしていると、伯山が帰ってくる。
「織田家の…お待たせして申し訳ない。野中伯山に御座る」
「織田家家臣、森三左衛門が嫡男、傳兵衛と申します。此度は衣斐丹石殿の薦めで伯山殿に当家の指南役をお願いしたく参りました」
伯山は少し考えてから、
「師の紹介を断る事など出来ますまい。それに豪傑揃いと名高い森家の指南役なれば、喜んでお引き受け致しましょう」
と了承してくれる。
新八郎の目が爛々と輝いている。
よっぽど剣術が習えるのが嬉しいのだろうな。
これで新八郎の腕を腐らせる事はないだろう。
早速とばかりに新八郎は伯山殿に挑んでいく。
勿論、勝てるはずもないが何か光るものでもあったのか、稽古に熱が入っているようにも思える。
権之進もそんな新八郎に対抗意識が芽生えたのか、熱心に稽古を受けている。
そして帰り際、
「傳兵衛様!どうか某を家臣にお加え頂きたい!」
突然、権之進が仕官を頼み込んできた。
「普段より権之進は、己の力を試したく仕官の道を探しておりました。邪魔にはならぬと思います故、どうかお連れくだされ」
と、伯山も後押ししてくるし、断る理由もないので了承する。
二人で切磋琢磨して剣の腕を磨いてもらいたい。
少し長居をしてしまったが、野中権之進良平を家臣に加え、次の目的地へと向かう事にしよう。




