91 謀臣
親からの呼び出しというものは嫌なものだ。
逃げ出したいが、逃げると更にマズくなる様な気がするので、行かざるを得ない。
高野口の戦いは、殿の援軍がやって来て、一応停戦となった。
これから武田信玄との交渉が行われるのだろう。
俺は売られていく子牛のような気分で、親父の待つ金山城へと向かう。
当然、主犯格の加木屋久蔵と本多弥八郎は確保だ。
今回の話はこうだ。
久々利頼興が織田家に臣従した為に、親の仇を討つことが出来なくなった加木屋久蔵が森家を出奔。
仇を討つ機会を狙って、正体を隠し久々利家に仕官。
すると、久々利家が武田家の進軍に合わせて寝返る計画を練っていた。
それを知った久蔵が旧主である俺に連絡した。
俺は、客人として迎えていた本多弥八郎に相談し、弥八郎が久々利家へと仕官を装い潜入する。
弥八郎は城に残り門を開き、久蔵は悪五郎の側にあって殺害の機会を伺う。
といった流れを親父に説明する。
こんな感じの話で如何でしょう?
あとは、前野将右衛門殿と佐藤右近右衛門殿に援軍を頼んだ事は、始めに武田進軍の報せと共に、殿へ知らせてあるから大丈夫のはず。
胡散臭そうなものを見る目をしている気がする…気のせいだといいが…
「で、その久蔵の親の仇というのはどういう事だ?」
親父が久蔵の親の事を聞いてくるので、久蔵に話すように促す。
「某の元の姓は、斎藤と申します。父は近衛家の庶子にて、後に道三入道の養子となりました斎藤大納言正義と申します」
「妙春殿の子という事は、お主は亀若殿か!生きておられたのか!」
妙春は斎藤正義の法名だな。
「はい。家臣の手により、知多郡加木屋村へと落ち延び、加木屋久蔵正次を名乗っております」
「確かに妙春殿のお子であれば、久々利三郎を討つのは理解できるか…」
斎藤正義は土岐悪五郎に酒宴で騙し討ちに合って殺されている。
一説には、道三の言うことを聞かなくなったので、道三が悪五郎に命じて殺させたというが…ありそうかな…
親父がギロッとこちらを睨み付けるが、表情を消して知らんぷりをする。
「傳兵衛、知っておったな?」
「まさか、某の家臣の中に妙春殿の遺児がおられるとは…誠に縁というものは面白いものです」
偶然なのだから、文句は仏様に言ってくれと、責任を仏へと擦り付ける。
一向宗の僧である堀権之助殿が連れてきたのだから、仏の導きで間違ってないだろう。
ピンポイントで勧誘したのは、権之助殿しか知らないはずだし。
「まあよい。して、本多弥八郎殿であったか…」
親父は納得いってない表情だが、話を進める。
「はっ、本多三弥左衛門の兄、弥八郎に御座います」
弥八郎は余裕があるのか落ち着いた態度で挨拶する。
「たしか傳兵衛に鷹狩りを教えておったな」
「はい、間違い御座いません」
俺と久蔵が教えてもらったな。
「某、弟の縁を頼りに傳兵衛様へ仕官を願い出ておりましたところ、丁度久蔵殿の報せが届き、某の働きを見ていただける好機と考えまして御座います」
あれ?加賀だか越中だかへ行きたいんじゃなかったの?
「それにしても、随分と危険な事をする」
「某、戦傷を受け足を悪くしておりまして、槍働きは不得手としております。ですので、それ以外の所での働きをせねばなりませんので」
まあ、槍働きの出来ない牢人の仕官は厳しいよな。
某山勘さんみたいに。
「某の働き、如何で御座いましたか?傳兵衛殿に召し抱えていただけましょうか?」
こちらに顔を向けて、そんな事を言ってきた。
仕官してくれるなら、貰うよ?
「某でよろしいのか?」
「宜しくお願い致しまする」
なんで心変わりしたのか分からんが、よかったよかった。
はぁー、皆の知行も上げてやらなきゃな…




