88 土岐悪五郎
「さて、他の状況はどうなっている?」
大丈夫だとは思うが、金山城や親父たちはどうなったのか。
「金山城を攻めていた奥村・羽崎両軍は、援軍の佐藤右近右衛門様と、大島鵜八様、山田八郎右衛門様の挟撃を受け打ち破りました。その折、羽崎三郎は鵜八殿に討ち取られ、奥村又八郎は羽崎城へ逃げ込みました」
おお!鵜八が羽崎光直を討ち取ったのか。
羽崎城の方は、攻め込んで被害を出すより、囲んで出られなくすればいい。
後で、どうとでもなる。
「殿と武田の秋山伯耆守の軍勢がぶつかり戦となりましたが、道家清十郎様、助十郎様の御活躍もあり、今は睨み合いとなっております」
ウチの与力となっている道家兄弟が首三つ取って、白い旗指物に殿が直筆で『天下一の勇士なり』と書いたという話があったか。
彼らも、尾藤親子と同じく志賀の陣で親父と一緒に討ち死にしているので、俺の中の評価は高い。
「して、土岐悪五郎は如何した?」
「はっ、久々利三河守は武田と殿の軍を挟撃しようとしましたが、逆に援軍の小坂孫九郎殿により挟撃されております」
一応、予め援軍を頼んでおいた小坂孫九郎殿が活躍してくれたようだ。
本当は近くの楽田城の坂井右近将監様あたりに頼みたかったのだが、親父と仲が悪いし伝手もあまりないので、前野将右衛門の兄である小坂孫九郎殿に頼んだのだが、何とかしてくれたようだ。
よかったよかった。
「では皆、連戦で疲れておろうが、今少し我慢してもらおう」
元気いっぱいの家臣たちが、戦い足らんとばかりに声を上げる。
可児六郎左衛門に城を任せ、土岐悪五郎に止めを刺すべく出陣する。
暫くすると、敗れて敗走したか、久々利城へと戻ろうとする悪五郎の軍勢を発見する。
丁度真正面からぶつかる形となるので、堂々と正面から悪五郎の軍勢と対峙する。
「何処へ行く土岐悪五郎!すでに久々利城は、落とした。最早お主に戻る場所などないぞ!」
と、手に持った太刀を掲げ、悪五郎に見せびらかす。
久々利家伝来の太刀『鵜丸』だ。
名前の謂れは、白河上皇が鵜漁を観覧している時に、鵜が引き上げてきたらしい。
諏訪神社に祭られていたがいつの頃か無くなったらしく、それが流れて久々利八幡宮にあったのを土岐悪五郎が盗んだという説。
もう一つ、初代土岐悪五郎が五条大橋で弁慶の真似をして百人斬りをし、二、三百人斬ったところで川に刀を落としたら、鵜が咥えて持ってきたという説もある。
前者なら、三条小鍛冶宗近または吉家の太刀。
後者なら、豊後行平だったか?いやそれは、鵺退治の『獅子王』の話と混ざってるやつか。
呪われていて持ってると妖怪が出てくるらしいが…
まあ、調べるのは後で暇な時にするとして、この伝来の太刀を見れば、久々利城が落ちたことが理解出来るだろう。
「おのれ!十九の小倅めが!」
十九という、親父の蔑称に一瞬カッとなるが堪える。
「父上が十九ならば、それにも劣るお主は十か九か?」
「ほざくな!!小僧めが!」
なんか激昂してる…ちょっとスカッとする。
「御託はいいから、さっさと掛かってこい八殿」
「おのれ!あの小僧の首を十九に送りつけてくれる!あの者の首を討て!」
悪五郎の兵が俺目掛けて押し寄せてくる。
敵味方全員の意識が俺に集中した次の瞬間、悪五郎の側にいた兵が数人、いきなり崩れ落ちる。
「なっ!」
驚き振り返った悪五郎の腹に、槍が突き刺さった。




