85 高野口の戦い
武田軍侵攻の報せを聞いて、直ちに援軍の用意をする。
神篦城は、今いる蓮台の地から見て、ずっと東の位置。
金山城の南東方向にある東美濃の遠山氏の領地との境目…くらいにある土岐氏発祥の城だ。
親父が報せているだろうが、念のため俺も殿に報せを入れておく。
あと、通り道になる城へも報せを送らないとな。
加治田城の佐藤紀伊守殿にも援軍を頼んでおこうか。
前野将右衛門の兄の小坂孫九郎殿にも、親父への援軍をお願いしてみよう。
「殿、加治田隼人様と新助様が見当たりませぬ」
「才蔵も何処にもおりませぬが」
小姓の森源八郎が慌てて報告に来る。
同じ小姓の安孫子竹丸は、おっとりしているが、恐らく数日前より居なかった事に感づいていたのだろう。
「問題無い。三人には別命を与えてある。その為、既に城を出ている」
二人に安心するよう言うと、
「殿は武田が攻めてくるのを御存知だったのですか?」
竹丸が尋ねてくるが、ニヤリと、笑って誤魔化す。
本当に武田が来るかどうかは分からなかったし、歴史が変わって来なくなってしまっていたかもしれない。
そもそも、その話が嘘だったり間違っていたりするかもしれないので、確実に知っていたとは言い難い。
だから、意味ありげに笑みを浮かべるだけで明言しない。
取り敢えず蓮台城の事は増田仁右衛門に任せて、俺がついでに口説き落とした事で、親父の与力となってしまった、ついてる方の生駒さんこと、生駒甚助政勝のいる土田城へ向かい合流した後、更に東の親父の家臣となった可児六郎左衛門秀行の守る室原城へと向かう。
六郎左衛門には、武田だけでなく周辺の国人衆の情報も集めるよう伝令を送る。
「六郎左衛門!どうであった?」
室原城へ着くや否や、六郎左衛門に情報寄こせと詰めかける。
「はっ、既に三左衛門様、肥田玄蕃允殿、土岐郡高野口にて、秋山伯耆守と対陣しております」
「で、此度援軍を出しておらぬのは誰だ?」
「久々利、羽崎、大森に御座います」
ほほう、久々利城の久々利三河守頼興に、その親族である羽崎城の羽崎三郎光直、久々利頼興の家老の息子で大森城の守将である奥村又八郎元広。
久々利の一族だけか…他にも反抗的な奴らはいると思うんだが、武田と織田なら織田の方がマシということなのかな?
領地も安堵される保証もないし。
「奥村又八郎殿の軍勢、大森を出、金山へ向かい進軍中!」
「羽崎三郎殿、城を出、東へ兵を進めました!」
と、物見が報告してくる。
「これには、悪五郎も加担しておろうな」
と、傍らに控えている山田八郎右衛門に問いかける。
久々利氏は代々、土岐悪五郎の名と、三河守の受領名を名乗っているので、今は久々利三河守頼興が土岐悪五郎だ。
「間違いなく」
「おのれ、悪五郎めが!」
と、周りが激怒している中、生駒甚助が尋ねてくる。
「如何致します?このままでは金山が危のうございますが」
「まずは、このまま大森城を攻め落とす。兵が出たならば好都合だ」
即決で空き家を狙う事を決める。
「傳兵衛様、金山や顔戸へ向かわずともよろしいので?」
心配気に山内次郎右衛門が尋ねるが、
「無用だ。既に佐藤紀伊守殿に金山へ向かうよう頼んである」
既に手は打ってあるので大丈夫!
加治田の戦いで嫡男の命を救ったのだから、借りは返してもらいたい。
よし、森家の嫡男らしい勇ましい事でも言って士気を上げておこう。
「父上が武田を抑えている間に、久々利一党を討つ!昨年臣従したばかりで、舌の根も乾かぬうちに寝返るとは断じて許しがたい!土岐悪五郎めに森家の恐ろしさを刻み込んでやれ!」
「「「応!!!」」」




