84 弥八郎
本多三弥左衛門を訪ねて、その兄がやって来た。
三河一向一揆に参加後、三河を追放されて、大和の松永久秀の所へ厄介になっていたが、今回の将軍暗殺の騒ぎで出奔、弟の様子を見にやって来たようだ。
足を引きずりながら、此方へ挨拶しにくる。
気になって足を見ていたのがバレたのだろう、
「お気になられますか?これは丸根砦を攻めた折、膝に傷を受けてしまいまして」
と説明してくれた。
確か桶狭間の戦いの前、松平家が丸根砦を攻めた時の話だったか。
「いや、失礼致した。だが、弥八郎殿程の知略があれば、そのような傷など何ら問題にはならぬでしょう」
「某の知略に御座いますか…」
あっ、まだ殆ど活躍してないや。
なんか訝しげにこちらを見ているな。
「ところで、弥八郎殿は当家へ、御力をお貸しいただけるので?」
誤魔化せ~。
未来を知っているとバレると不味い…と思う。
脳筋なら信じずに笑われるだけだが、賢い奴にバレるのは嫌だ。
危険視されて、謀臣にでも暗殺される可能性もなくはない…かもしれない。
「申し訳御座らぬ、某は加賀へ行ってみたいと思うておりまする」
確か加賀一向一揆に参加していたという話もあったか。
こいつの辿ったルートもイマイチ分からないし、いつ徳川に帰参したのかも定かではないしな。
「それは残念です。当家は武に偏りすぎているので、知の部分を補っていただきたかったのですが…尾張美濃にも真宗の寺は多い。急がずとも良いのであれば、是非ともこの蓮台にてゆるりとして頂きたい」
残念、取り込めるなら取り込みたかったのだが。
「代わりといってはなんですが、滞在の間、少々お知恵をお貸しいただければ有難い」
「某の知恵などでよければ、喜んでお貸し致しましょう」
いや~、助かるわ~。
あと、初め松平家に仕えたのは、鷹匠としてらしいから、鷹狩りも教えてほしいな。
殿や関白殿下も鷹狩りは大好きだから、念のために擦り寄っておく下地作りをしてたいし、弥八郎とも仲良くなっておきたい。
まだ家臣にするチャンスはある。
たとえ家臣にできなくても、時間を稼いで仲良くなっておいて、家康とのチャンネルが出来れば大きいと思う。
いつ家康の元に戻るのかは知らないし、死んでくれれば楽なのにとは思っているが…
だいたい、武田と敵対したのも駿河の事で要らん事した家康のせいだという…まあ、それが無くても、そのうち敵対したかもしれないが。
弥八郎は月の終わりには別れを告げ、俺の家臣の一人である加治木久蔵と共に旅立って行った。
さよ~なら~!また会いましょ~う!
そして暫く経ったある日、東美濃の土岐郡にある神篦城城主、延友佐渡守信光より報せが来た。
武田軍、美濃へ侵攻!




