77 鵜八
「大島殿、堂洞での弓の妙技、お見事でございました。あの弓の腕、是非とも当家で活かして頂きたい」
目の前にいる俺の爺ちゃん程の年齢の武将と話をする。
相手は勿論、大島光義だ。
関城の戦いで、大島光義は長井隼人を稲葉山城へ逃がし、自身は稲葉山城へ向かわず野に降った。
殿にスカウトされる前に、なんとか接触して交渉の機会を得た。
「妙技と申されましても、元服したての若武者に防がれる程度の児戯に御座る。それよりも正確無比な槍の腕前、実に御見事に御座いました」
別に拗ねている訳でもなく、からかい半分に答えているようだ。
「いや、正しく妙技で御座いました。某に出来た事は、大島殿の腕を信じ、心の臓の前に槍先を置いただけに御座います。矢を防いだのではなく、矢の方が当たりに来たのです」
本当に槍先で心臓への射線を遮っただけで、一分の狂いもない正確な弓の腕でなければ、右近右衛門殿は亡くなっていただろう。
「ククッ、敵である某の腕をお信じになられるとは。しかし、正確に心の臓を射た事が大将首を逃す事になろうとは…真に面白い」
実に楽しそうに笑みを漏らす。
正直怖いわ~。
やっぱり、その道を極めようとする人は狂気的な面があるんやな~。
敵に回したくない…なんか興味持たれてそうな感じがするし。
敵に回られたら真っ先に俺を狙いに来そうな、そんな予感がしているので、身の安全の為に家臣に加えておきたいという思いが増してくる。
「八幡太郎も斯くやあらんという大島殿の弓の腕、是非とも某にお貸し頂きたい!」
ウチの御先祖様の八幡太郎義家の弓の腕に例えてヨイショしておく。
八幡太郎こと源義家は、頼朝や木曽義仲、新田義貞、足利将軍家などの先祖でもある。
大島氏も新田氏の支流を名乗っているので、共通の先祖となる。
「八幡太郎義家に例えられるなど誠に誉れに御座るが、某などまだまだ精進が足り申さぬ」
「いやいや、正に神箭と呼ばれるに相応しき一矢に御座いました。某ら凡人からしてみれば、八幡太郎と何ら遜色御座いませぬ」
「己の腕前を棚に上げて、某の腕前を神箭などとは…傳兵衛殿の槍の腕前こそ神槍に御座ろう?」
いやいや、本当に…少なくとも神槍ではないな…いや、未来の知識を持っているのは充分人外なのかもしれないが。
ククッと笑い声が漏れている鵜八殿、楽しそうで何より…なのかな?
「傳兵衛殿は、中々に面白き御仁故、お世話になり申す」
あれ?意外にあっさりとOKが出たな。
よし、取り敢えず100貫スタートでいいよね?
俺の家臣の中で、圧倒的高給取りになるんやで?
「おお!有難い!共に織田の天下の為に存分に力を振るいましょうぞ」
ふう、スナイパー確保成功!
後々、俺達が狙われるなんてゾッとしないからな。
逆に狙いたい奴もいるしね。




