75 新八郎
仙石家へやって来れば、戦支度に追われていた。
どうやら関城で戦う織田家に助力して点数を稼ごうという作戦のようだ。
兵を率いるのは、あの仙石権兵衛。
やっぱり、もう越前から帰って来てたのね。
しかも、嫡子として紹介された。
ということは、一緒にいる新八郎こと仙石久勝は、既に廃嫡されたということか。
「ところで、権兵衛殿が家督を継がれるのなら、新八郎殿は如何なさるのか?」
主水殿は、暫し新八郎を見つめながら、
「新八郎には、家臣として当家を支えてもらう」
飼い殺しにするのかな?
でも、比叡山の焼き討ちにも参加してたし、剣豪として名が売れたんだっけ?
「ならば、某にお預け下さらぬか?」
今、ウチに仕えても剣豪の腕前にはならないかもしれないが、そこそこは使えるようになるだろう。
「傳兵衛殿にで御座るか?」
「左様。新八郎殿、権兵衛殿共に見事な武者ぶりにて惚れ申した。権兵衛殿が家督を継がれるならば、新八郎殿を是非とも我が家臣に頂きたい。無論返事は、織田家へ臣従がなり、権兵衛殿が家督を継がれてからで結構」
熱烈プッシュしてみる。
藤吉郎の下で活躍させたい権兵衛よりも、剣豪の新八郎の方が良いような気がしてきた。
まあ、ウチは武闘派ばかりなので、どうしても欲しいという訳でもないので断られても構わないが。
それよりも知将が、何処かに落ちてないだろうか…
「申し出は承った。この話はまた後日に」
突然の申し出だし、すぐに返事が来るはずもない。
新八郎にも他に使い道があるかもしれないしな。
その後、多少世間話をした後、出立する権兵衛の軍と共に関城へと向かうことにする。
俺が話を通した方が、スムーズに事が運ぶだろうから。
俺が間に入る事で、仙石家に恩を売りつつ、援軍の印象を薄れさせる効果を狙ったりもしているが。
「権兵衛殿、この辺りに年配の弓の名手は居りませぬか?」
話題提供と情報収集を兼ねて話しかける。
「弓の名手に御座いますか?」
「加治田の戦にて対峙しましたが、かなりの腕前にて、是非とも教えを請いたいと」
「おそらくは、大島鵜八殿に御座ろう」
やっぱりそうだよね~。
大島鵜八は欲しいな~。
「鵜八殿は、どちらにお住まいか、ご存知であろうか?」
「おそらく大杉村ではなかろうかと」
大杉村か…確か幼い頃に父が死んで、大杉なんとかさんに育てられたんだっけか?
後に大島氏の居城となる迫間城の近くのようだ。
関城の戦いが終わったら勧誘に行こう。
権兵衛と適当に話している内に、何事もなく関城に着く。
これで、俺のお役目は終了だ(勝手にやっているだけだが)。
後は親父に任せて、怒られない内に素早く加治田城へと戻るだけ。
「次郎兵衛!権兵衛殿の参陣を…茂助か仁右衛門に伝えて参れ」
茂助か仁右衛門なら空気を読んで、いい感じにまとめてくれるだろう。
次郎兵衛が戻ったら、さっさと逃げよう。
あと、勝三郎に大島鵜八の居場所を調べさせないとな。
大島光義の雲八になる前の通称は、鵜八なのか、鴉八なのか、鶴八なのか、かも八なのか…鳥ならなんでもええんかい…




