72 湯浅讃岐
「あの讃岐殿は、中々の腕前に御座いますな」
後方に下がりゆっくりと、戦場を観察できる余裕ができる。
先程の讃岐と呼ばれた男が、一際目立った活躍をしている。
「あの者は、湯浅讃岐と申す槍の達人で、先日の堂洞城の戦で岸孫四郎殿を討った者に御座る」
右近右衛門殿が教えてくれるが、そうか彼が湯浅新六か。
後に、於勝ちゃんとの戦いでも活躍する槍の達人で、この関・加治田の戦いでの勇戦で斎藤新五殿から、新六の名と刀を与えられている。
新五殿は、まだ到着していないので、新六の名にならないかもしれないが。
「いや、讃岐殿の働き、誠に見事に御座いますな。何か褒美でも与えたいところですが」
あのまま連戦になっていればまずかったから、来てくれたのは本当に助かった。
何か恩を売っておきたい所だが、俺の家臣でもないしね。
貰えなくなった新六の名の代わりに、俺の諱とかで良ければあげたいところだけどな。
「それは良いですな。某の名を与えましょう」
声に出てたのかな?まあ、俺が与えるのもおかしな話だし、しょうがないかな。
斎藤新五殿の家臣となるなら兎も角、右近右衛門殿の家臣では引き抜くのもなんだし。
「傳兵衛殿!此度は愚息の危機を救って頂き、誠に忝ない!」
城へ戻ると直ぐに、佐藤紀伊守殿らが駆け寄ってきて御礼を言われる。
「紀伊守殿、礼には及びませぬ。右近右衛門殿に何かあれば、我等は何の為に此所に残ったか分からぬ所に御座いました」
取り敢えず媚びを売っておく。
加治田衆とは仲良くしておきたい。
於勝ちゃんが負けるくらいだから、中々の武将が揃っているのだろう。
引き抜きたい…
お礼に誰かくれないかなぁ。
「この御恩は後日必ず御返し致す」
紀伊守の言葉に続き、
「傳兵衛様、右近右衛門様の事、誠に有難う御座いました」
と、家老の長沼三徳が頭を下げる。
確か親父は、長沼三徳の息子の武者ぶりに惚れて、ウチの三妹の松と結婚させようと、しつこく迫ったらしい。
そんなに有能なのだろうか?
親父がそれを言い出したら、紀伊守殿や三徳に借りを返せと、結婚の援護射撃をしてもいいかもしれないな。
でも、湯浅讃岐も捨てがたいな。
その後、援軍の親父と斎藤新五殿が到着して参戦し無事に防衛戦を終えると、斎藤新五殿の発案で、すぐさま長井隼人の拠点である関城を攻める事で一致した。
殿に援軍要請をして、一気に攻略する。
が、俺は落馬したので待機させられる事になっている。
まあ、いいや。あっさり終わるはずだし。




