70 加治田の戦い
この戦いの後に廃城が決まっている堂洞城に、念のために残ってもらった尾張兵200が入っている。
率いているのは、勿論俺ではない。
まあ、当然だな。
率いているのは、蜂屋兵庫頭頼隆殿。
殿の黒母衣衆筆頭を務める武将で、大の連歌好き。
歌道の師である岡田助右衛門殿の所で何度か会ったことがある。
そしてもう一人、堂洞城で共に交渉に当たった金森五郎八殿も残っている。
二人とも美濃出身で、蜂屋殿に至っては堂洞城のある蜂屋村が出身だ。
二人に向かい黙礼し、静かに座る。
最後に降伏したばかりの岸三郎兵衛殿がやって来て状況を報告する。
「西より長井隼人殿率いる兵約三千、東より肥田玄蕃允率いる兵約千、加治田へと迫っております」
兵数は史実とそれほど変わらないのか。
まあ、援軍自体は堂洞城が落ちる前に出しているだろうからな。
「上総介様の援軍千、斎藤新五郎殿、森三左衛門殿に率いられ、加治田へ向かうとの事」
こちらは、倍になっているな。
先の戦いで、消耗が少なかったのもあるか。
親父も兵を率いているのは、俺がここにいるからかな?
犬山まで帰ったから時間が少しかかるのか?
敵が来て城から出づらくなる前に、とっとと加治田軍に合流に向かう。
堂洞城に攻め込まれても、元々破却する予定なので、城を壊し逃げればいい。
なんなら火をかけて、敵軍ごと焼けば…
まあでも、あっても睨み合いになるくらいかな。
さて、我ら蜂屋兵庫頭頼隆殿率いる堂洞軍は、加治田城の西側、衣丸にて長井軍と対峙する。
西側は、長井・一色軍3000に対して、こちらは加治田軍800、蜂屋軍200(内、俺が率いる兵50)…援軍が来るまで耐えればいいのだが、兵力差が結局史実とあまり変わらないな。
向こうも時間がないから力押ししかないだろうし、史実と兵力が変わらないのなら耐えられるかな。
加治田城の西にある衣丸の北側には、川が流れているので、敵は西から来ることになる。
ほぼ正面向いての殴り合いの中、俺は敵の弓兵に注意する。
この戦いで佐藤忠能の嫡男の忠康が射られて討ち死にしている。
忠康が死ななければ、斎藤利治が佐藤家の養子になることはないだろう。
斎藤利治には恨みはないが、兄の利尭、テメーはダメだ。
本能寺の変の後、領土拡大を目論む於勝ちゃんを撃退したのは赦さない。
自分も稲葉家と共謀して独立を目論んだ癖に…
利尭には加治田・兼山合戦の恨みがある(まだ起こってないが)ので、利治はもう少し遠くで出世してください。御近所禁止!
まあ、美濃に領地を持つのは変わらないだろうが。
じっとしていて欲しい忠康だが、馬に乗って縦横無尽に突撃していく。
仕方なくそれを護衛する形で、こちらも突撃していく。
結果、ウチの兵も目立ってくる。
もう、首を挙げてノルマを果たしたので、適当に流したいのだが、周りの者は頑張るなぁ。
「又四郎!次郎右衛門!弥太郎!右近右衛門(佐藤忠康)殿から離れるなよ!矢に気を付けろ!敵には時間がない。大将を射殺して一気に攻めるかもしれん!」
我ながら苦しい、意味の分からん指示だな。
史実通りになるとは限らないが、家臣に矢への警戒を徹底させる。
まあ、射られる前に気が付かなければ、躱しようなどないのだけども。
今は戦でハイになっているので、多少おかしな命令をしても気付かれないだろう事に期待する。




