7 ツキのない生駒さん
松倉城を出て、生駒家長の小折城を目指す。
生駒家は、灰や油、馬借などの商売で大きくなった家だ。
一昨年、父親の家宗が亡くなって、嫡男の家長が継いだ。
信長の側室になった妹の吉乃ばかりが有名だが、家長も馬廻として働いている。
最高でも2000石に達していないが…
「よくぞ参られた。紹徹殿、小太郎殿」
ひとの良さそうなオッチャンと対面する。
この人が、生駒八右衛門家長か。
なんか出世出来なさそうな、人の良さオーラが出ている気がする。
「わざわざ時間を割いて頂き誠に忝ない」
と、爺ちゃんが挨拶を交わしている。
八右衛門殿は、妹が信長の次男の茶筅丸を生んだばかりで、護衛の為に戻っているらしい。
茶筅丸生まれてたのか…全然気にしてなかったな。
待てよ、勝蔵が信忠の家臣になっていたから、自然とそうなると考えていたが、親父が生きていたら変わってしまうかもしれないのか。
だが、茶筅丸の家臣になるのは避けたいところだ。
出世も出来なさそうだしな。
史実では八右衛門殿も、小牧長久手の戦いの後、浪人になっている。
生き延びること最優先だとはいえ、没落したいわけではない。
君子危うきに近寄らず、程々の距離を保たせてもらおうか。
「して、本日はなにやら商いの話だとか」
挨拶も終えて、本題に入ったようだ。
「はい、我が領内で椎茸が採れまして、その売買を八右衛門様にお頼みしたいのが一点」
「ほう、椎茸ですか。それは運が良い」
ウンウンと、嬉しそうに頷いている。
まさか栽培しているとは思うまい。
「次に、油と灰と酒を少しずつ売っていただきたい」
石鹸と清酒にチャレンジしようと思う。
石鹸は、生活環境を良くして、少しでも死亡率が下がればいいな、という思いから作ってみたい。
清酒は、なんといっても、お酒大好きな人が多いので、贈答品として作れば派閥形成や賄賂など、使い道はたくさんあるんじゃないかな。
「最後に油菜の種を手に入れたいのですが…」
菜種自体はもう日本にあるはずだが、まだ菜種油はないので、これも作って将来の足しにしたい。
ついでに水車も作って楽に搾油したい。水車自体は、もっと昔から使われているはずだから。
搾りは甘くなるが、俺が使う分だけならそれでも構わないだろう。
あとは、作業者や職人たちが考えればいいことで、俺がすることではない。
銭儲けの準備だけはやっておいて、効率化は専門家に投げればいい。
先ずは銭を稼いでいかないと。やはり何をするにも銭は必要だからな。
かと言って銭儲けばかりやっていると、周りに武士として蔑まれるので注意が必要なのだが。
その点、親父は理解があって助かっている。
あのバーサーカーで有名な勝蔵くんも政務には積極的で、兼山湊を発展させているのだから。
「種ですか。分かりました、手に入れさせましょう」
あとは情報収集だな。生駒家と親しい蜂須賀家などの俗に言う川並衆の情報をもらって、小折城を後にする。
「若、油菜なんてどうするんですかい?」
と、聞いてくる五郎右衛門をいなしながら、次の目的地である前野屋敷へと向かう。
前野屋敷は、川並衆の前野長康の屋敷だ(そのままだな)。
前野長康といえば、秀吉最古参の家臣の一人だが、義兄弟の蜂須賀小六の活躍によって、ほぼ存在を消される程の影の薄さを誇る有名武将だ。
シンパシーを感じるよな!
最期も、あれだけ貢献したにも関わらず、豊臣秀次の連座で切腹させられてしまう、(存在を気付いている人にとっては)悲劇の武将。
秀吉じゃなくてウチに付こうよ!切腹なんてさせないよ!
という事で、前野屋敷目指して出発だ!
生駒家は、子孫の方の話では商売などしていないらしいですが、まあいいや。




