66 堂洞合戦決着
「三郎兵衛殿、一色殿の援軍も来ず、最早戦の趨勢は決した。岸家は充分に忠義を果たされた。これ以上は無用に御座る」
親父が岸三郎兵衛に向けて、降伏勧告をしている。
うん、頑張ったよ岸さん。
加治田衆の裏切り、来ない援軍。あまり堅固でもない城を守っての奮戦。
もう十分義理は果たしたよ。
「だが、我らは長井隼人正様よりこの城を任された身。降伏などできぬ」
頑固すぎやろ岸一族。面倒臭いぞ。
俺も参戦するか。
「昔、道三入道が、土岐家より美濃を奪ったのは、土岐家に力なく美濃を治めるのに不足と考えられたからではありませんか。なれば、今の一色右兵衛大夫殿には美濃を治めるは荷が重いと言う他ありますまい」
美濃の為に、土岐を見捨てて道三に付いたんだから、今回も美濃の為に織田に付いてよと、名分ぽい言い方をしてみる。
まあその後、道三を見捨ててる訳だけど、もう代替わりした後だからセーフか。
「上総介様は、先代の義弟にして、道三入道より斎藤新五殿へ託された国譲り状を頂いておられる。美濃を治めるに不足はないと思われるが?」
ちょっとは心動いたかな?
「勘解由殿は、道三入道より感状を頂くほどの勇士。上総介様も重く用いられましょう」
取り敢えず持ち上げておいて、降伏しやすい環境作りを。
「残念だが、兄は先程自害致した。孫四郎も討ち取られてしまい申した」
うーん、やっぱり亡くなってしまったか…確か奥方と刺し違えたのだったかな?
「なれば尚の事、御降り頂きたい。岸家の者が残って居るのと居らぬのでは、孫四郎殿の御子の立場が変わりましょう」
もう一押しで落ちそうな気がするな。
「城は本丸にまで攻め入られ、嫡男は討ち死に当主も自死なされた。長井隼人殿への義理は充分以上に果たされたでしょう。この上は、御家の事をお考え下され」
「傳兵衛殿…我等は降伏致す。当家の事、上総介様に何卒御取り成し頂きたい」
溜息をつくと、ようやく納得したのか降伏してくれるようだ。
今回もこのまま、楽に終われば…………あれ?
「傳兵衛様、如何なされました?」
俺の様子に違和感を覚えたのか、側に控えていた稲田次郎兵衛や森勝三郎が尋ねてくる。
「いや、元服してから全く首を取っていないなと思ってな」
「あっ…そうですな…」
お前らも、俺とずっと一緒にいたからな。
「今更狩りにも行けぬしな、失敗したか」
ひょっとして、このまま戦っていた方が有難かった?
いや、止められてたから変わらないか…
あーあ、なんだかどっちでもよくなってきたぞ。
程なくして、降伏の報せが届き、戦いは終了した。
今回も武勲を立てられず…
このままでは、お酒の人で終わってしまう…俺自身は構わないが、森家の嫡男としては、問題アリだ。
せめて、志賀の陣に介入できるくらいの発言力や地位を得ないと、取れる選択肢が少なくなる。
いや、まだだ!まだ終わらんよ!
史実では、長井隼人と一色龍興の援軍が、すぐに来るはず!
手柄を立てるチャンスはまだある!
本来よりも約一年早く堂洞合戦となっているけど、流石に援軍は出してくれてるよね?龍興くん!
とある本に斎藤龍興が、永禄七年八月から八年一月の間に、一色治部大輔棟と名乗りを変えたと書いてあったけど、稲葉山城奪還時に変えたのか、正月に変えたのか、いつでしょう?




