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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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 62 七郎右衛門と三弥左衛門

 

「傳兵衛様、叔父の権之助が参りました」


 家族との団欒を楽しんでいたが、奥田三右衛門が堀権之助殿の来訪を伝えに来る。


「うん?何かあったか?」


 思い当たる事もないので首を捻る。


「殿に召し抱えて頂きたい者がおるとか」


 今、この時期に?全く思い浮かばないが…


「そうか、まあよい。会おう」



「傳兵衛様、ご無沙汰しております」


 いや、権之助殿には、しょっちゅう会っているけどな。


「権之助殿も、いつも世話になっている。して、此度は何やら召し抱えてほしい者がおるとか」


 権之助殿の後ろに(ひか)えている二人の男の事だろう。


「はい、この者等、三河の一揆衆にて、蔵人(くらんど)様より国を追われた者達にございます」


 三十路(みそじ)くらいと二十歳(はたち)くらいの二人の男だ。


「元三河国松平家家臣、高木七郎右衛門(しちろうえもん)に御座います」

「同じく本多三弥左衛門(さんやざえもん)に御座います」


 ほう!本多さん…本多さんねぇ…


「両名とも、先日まで酒井将監(しょうげん)殿の元で一揆を続けておりまして、最後まで残っておった為か生国を追われる事となったようで」


 ああ、一向一揆終わってなかったか…


 (ちな)みに、この二人の参加していた一向一揆は、二月に家康と手打ちとなっているのにも関わらず、三河上野城の城主である元松平家家老の酒井忠尚(ただなお)が、手打ちになっても頑固に籠城を続け、九月に入ってから駿河方面へ逃げ出した為に(ようや)く降伏した。

 とっとと降参しとけよ、全く。


 九月に終わったばかりという事は、終わって()ぐに此方(こちら)へやって来たってことだな。

 どうやら、戦があると知って、武功を(かせ)ぐ好機と急ぎやって来て、仕官を頼み込みに来たようだ。


 本多三弥左衛門正重と高木七郎右衛門広正。

 本多三弥左衛門正重は、あの謀将本多正信の弟だ。

 兄とは違い、槍働きの得意な本多家のイメージ通りの武将だ。

 ただ上司にも、ズバズバ物を言い過ぎて煙たがられる存在らしい。

 こういう問題児は、俺が雇った方が安心だろう。


 高木七郎右衛門広正は、三方ヶ原の戦いで撤退中に家康の馬が鉄砲で撃たれた時に、代わりに自分の馬を差し出したり、浜松城で味方の士気が落ちたときに、自分の討ち取った武将の首を信玄の首だと家康に言わされたりした武将だ。

 あと、体調の悪い味方に『五徳散』という薬を自作して飲ませたので、薬学の知識もあるのかもしれない。…あるよね?あるんだよね!


「御両人とも、よく来られた。まもなく織田家は美濃攻めを始める(ゆえ)、大変有難い」


 と、歓迎の言葉をかけ二人を見る。


「三弥左衛門殿は、蔵人殿の重臣である本多家の出であられるか。猛将揃いの本多家の名に違わぬ体つき、大いに期待させていただこう」


「お任せ下され!必ずや御期待に添える働きを御約束いたします」


 三弥左衛門が声を張り、頭を下げる。


「七郎右衛門殿は、確か品野城での戦にて、滝山伝三郎殿を討たれた高木殿であろうか?丸根城での戦でも大いに活躍されたとか。美濃の戦いでも、七郎右衛門殿の働き、頼りにさせて頂く」


「はっ!某の力、存分に御覧くだされ!!」


 俺が戦歴を知っている事に目を丸くした後、食い気味に答えてくる。

 元服したての他家の若造が、自分の事を詳しく知っていた気分はどうなんだろうな。


「御両名共、当家にて存分に力を振るわれよ」



 九月半ば、堂洞城への進軍を開始する。

 俺も親父の軍の一員として戦いに参加だ。

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