57 従兄弟なのか再従兄弟なのか【地図あり】
八月になり、伊賀伊賀守は、一色龍興に稲葉山城を返還した。
竹中半兵衛が主君を諌める為にやったといわれているが、まあイガイガでは人がついてこなかっただけだろう。
半兵衛は家督を弟に譲り、近江へと去っていったそうだ。
次の目標は、多治見修理が治める猿啄城。
丹羽五郎左衛門殿、河尻与兵衛殿に攻略の命が下った。
この間を利用して、犬山城の北東に位置する土田城に調略をかける。
この土田城は、放っておいても調略するのだが、その前に俺達の手柄にしてしまおうという作戦だ。
土田城の城主は、生駒甚助親正。
家系上、小折城の生駒八右衛門殿の従兄弟にあたる。養子となっている関係で、血統上は再従兄弟なのだが。
なので、八右衛門殿に調略の手伝いをしてもらう。
やることは、この前の宇留摩城の時と同じ、周囲の情勢と縁でもって口説き落とすこと。
調略するだけなら八右衛門殿に任せてもいいのだが、親正と顔を繋いでおきたいので俺が調略する。
八右衛門殿は豊臣政権下で浪人、片や親正は、三中老の一人にして讃岐国17万1800石の大名。
いやこれは能力の差ではなく、織田信雄の家臣か、豊臣秀吉の家臣かの差かもしれないが…
ともかく、俺は顔を繋げるし、八右衛門殿は手柄になるだろうし、親正は早めに臣従して殿の覚えが良くなる。
殿も楽に城が手に入る。
みんな幸せ、どこからも文句は出ないだろう。
ということで、八右衛門殿を訪ねる。
殿の馬廻をしているので、そこら辺にいるだろう。
「おお、傳兵衛殿ではないか!伊木山、宇留摩の調略お見事であった。して、本日は如何された?」
あっさり見つかったな。暇なのかな?
「はい、少し手が空きましたので、今のうちに土田城の生駒甚助殿と話をしようかと。そこで八右衛門殿に仲立ちしていただこうかと思いまして」
八右衛門殿は少し困った顔をしながら、
「傳兵衛殿は、随分熱心なことだな。無論、仲立ちは喜んでさせて頂こう」
「有難う御座います。ならば、発案は八右衛門殿ということで御願い致します」
八右衛門殿は、流石にビックリしたようで、こちらをじっと見つめたあと、問うような表情になる。
「此度の調略は、八右衛門殿の伝手があってこそのもの。某はただの使いですので」
手柄が俺に集中するのは避けた方がいい。
今回は八右衛門殿の伝手なのだから、俺が手柄を横取りしたなどと思われたくはない。
俺はもう十分な手柄は立てただろう。
八右衛門殿に恩を売りつけておこう。
「忝ない。話を通しておく故、宜しくお願いする」
と、頭を下げられる。
うん、いい人だな。出世競争に負けそうな感じがする。
あっ、ついでに木材の手配をお願いしようかな。
墨俣一夜城の為の資材をストックしておいて、いつでも使えるようにしておこうか。
一夜城があるかどうか知らないけど、なければ別の用途に使えばいいや。
俺が一夜城のイベントを奪えなければ、藤吉郎に資材を売りつければいいし。
親正への文を預り、八右衛門殿と別れる。




