56 さよなら正左衛門
「傳兵衛様!」
俺を呼び止める声がする。
「如何した、喜左衛門」
呼び止めたのは、家臣の加藤喜左衛門清重。
「実は先日、兄の正左衛門が亡くなったと知らせがありまして」
と、少し沈んだ声で報告してきた。
「なんと!そうか…正左衛門殿が…」
何気なく自分の腰に差した刀に目をやる。
正左衛門に打ってもらった刀だ。
そうか…今年亡くなるんだったか…
加藤正左衛門清忠は加藤清正の父親で、清正が三歳の時に亡くなっている。
もし医学の知識でもあれば助ける事も出来たのかもしれないが、少なくとも今の俺には無理だ。
破傷風に罹って足が悪いのは知っているが、死因の方は知らんな…
「出来れば、義姉と甥を呼び寄せたいと思うのですが」
「ほう、正左衛門殿に、お子がおられたか」
それは当然知ってるけどね。
「はっ、三つになる子がおります」
未来の清正くんは、無事生存っと。
「正左衛門殿に刀を打ってもらった時、子が生まれれば、仕官させると約束したことがある。一家が不自由の無いようにな」
「有難く存じます」
「強要はせぬが、もし武士になりたいのならば、ウチで取り立てる」
うんうん、藤吉郎に取られる前に囲っておかなきゃね。
これで手元に賤ヶ岳の七本槍のうち、平野長泰、加藤嘉明、加藤清正の三人が元服前ではあるが、いることになるか。
ウチに仕官してくれるかは分からないが…
あと、三中老の堀尾茂助吉晴、五奉行の増田仁右衛門長盛、それからあの有名な羽柴四天王から戸田三郎四郎氏繁(勝隆)と尾藤甚右衛門重直(知宣)の二人。
藤吉郎の家臣ばかりを、ちょっと取りすぎたかな?
七本槍は次世代だから取っても関係ないけど、志賀の陣の時点での家臣はだれだ?
仁右衛門と三郎四郎はセーフだが、茂助はアウトだよなぁ。
甚右衛門はどっちだろうか?
あとどれくらいなら、取っても大丈夫だろうか?
美濃で金山城が手に入ったら、家臣を色々増やしたいんだけどなぁ。
金ヶ崎の退き口の時に与力として家臣が増えるみたいだけれど、与力ならば他の人が代わりに補充されるだけで、藤吉郎の出世への影響は少ないはずだよね!
弟の小一郎くんと蜂須賀彦衛門殿がいれば、何の心配もない!はず…
時々、もう潰してしまった方がいいような誘惑に駆られるが、我慢我慢。
宇佐山城の守将候補が多い方が、こちらに回ってくる確率が下がっていいよね。
どこかの国の国会議員に大臣のポストを順番に与えていく様に、城主の順番待ちを消化してくれた方が、俺は助かる。
宇佐山城を任されるのは勘弁願いたいものだ。
もちろん史実通りに親父が、金山城を手に入れられればの話だが。




