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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
553/554

540 このまま埋もれ朽ち果てるよりは…

安富盛定視点です。

 讃岐国寒川郡志度村志度城 安富筑前守盛定


「最早此処までか」


「今ならばまだ命の保証は致すと」


 既に寒川家に降伏した六車左衛門大夫(朝満)が共に一人連れてが城へやって来て、儂にも降る様に説得する。

 儂を説き伏せる様に命じられたのであろうが、左衛門大夫は心から儂の身を案じておるのが感じ取れる。



「しかし、ここで降伏したとて再起の芽はあるまい 。なれば最期まで意地を通す事を考えるべきではないか?」


「岫雲殿も必ずや殿を助けてくれましょう!」


 生き延びたとて丹波守(寒川元隣)は儂を許すまいし、岫雲(篠原長房)殿も儂を重用する事はあるまい。

 家を残せぬとなれば、せめて名を残さねば。


「殿、命さえあれば、何時の日にか再興も叶いましょう。どうか降伏を!」


 儂が乗り気ではない事が分かったのであろう左衛門大夫が、真剣に降伏を勧めてくれるが、先の事を考えれば降伏する気にはなれぬ。


「やはり、筑前守は降伏する気はない様に御座いますな」


 それまで黙って左衛門大夫の後ろに控えていた者が口を開く。


「いや、暫し御待ちを!必ずや説き伏せます故!」


 左衛門大夫の家臣かと思いきや、どうやら其の者の方が立場が上の様だ。

 恐らくは左衛門大夫が降伏した相手、森家の者であろうか。


「いや、筑前守の腹は決まっておろう」


「うむ」


 その者の言葉に頷くが、果たして何者であろうか。


「失礼。某は播磨国小寺家家臣、小寺官兵衛と申す」


 小寺だと!

 あの赤松家の重臣のか!


「確か兵部少輔殿は赤松家の…」


「左様。兵部少輔殿は左京大夫(赤松義祐)様の御息女を娶られておられる。故に某も兵部少輔殿の為に微力を尽くしておる」


 赤松家の助力もあったか…

 しかし、その赤松家が、今更この儂に何用か?


「それで官兵衛殿は何故此方へ?」


「うむ。筑前守の覚悟は見事なれど、些か勿体無い。筑前守、播磨国へ来られぬか?」


 播磨国へ?


「儂に赤松家へ仕えよと申されるか?」


 しかし、今更歴史ある赤松家へ仕えたとて、大した出世は見込めぬ。

 寧ろ飼い殺されて終わるのではいか?


「否。筑前守の力を借りたいのは赤松家ではなく、浦上家に御座る」


「浦上家?」


「左様。只今浦上家は播磨国の宗家と備前国の分家に別れて争っておる。儂と兵部少輔殿は宗家の久松丸殿の後見をしておるのだが、残念な事に力の差は歴然。そこで筑前守には浦上宗家に仕え、久松丸殿を支えてもらいたいのだ」


 そう来たか!

 確かに浦上家と安富家は昵懇の仲。

 当家から浦上家へ養子に入った者もおる。


「どうだ?浦上家へ仕えてくれるのならば、家や所領は保証致そう」


 儂の態度から脈ありと思ったのであろう。

 間髪入れずに押してくる。

 大きく揺らいでおるのは確かだが…


 言うて悪いが播磨国の浦上家は、備前国の分家とは比べるべくもない程の弱小。

 だが、弱小故に今後の出世も見込める。

 それに赤松家や森家の後ろ楯があると為れば、まったく勝算が無い訳ではない。

 出世の見込みのない四国に残るよりは、遥かに家を大きく出来るやもしれぬ。


「流石にまだ小さい家故、大した所領を渡せぬが、お主の才覚であれば如何様にでもなろう」


 ふふっ、讃岐国を追われ播磨国で再起か…

 このまま埋もれ朽ち果てるよりは…面白い!

不定期気味で申し訳ございません。

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― 新着の感想 ―
はたからみると主人公っぽいムーブかましてる(笑)
>儂と兵部少輔殿は宗家の久松丸殿の後見をしておるのだが、残念な事に力の差は歴然。 >そこで筑前守には浦上宗家に仕え、久松丸殿を支えてもらいたいのだ 寒川家領を奪い安富家との連結どころか、安富・奈良両家…
いつもありがとうございます。 続きが読めるだけで感謝感謝です。 官兵衛も暗躍してるなぁ。
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