539 漸く赤穂へ帰れるな!
篠原家からの使いとの話し合いも終わった後、直ぐに香川家から十河家と和睦したいから許しをくれとの使者がやって来る。
香川香西両家の好きにしたら良いと言ったのに、態々俺の許しを得なくても良いのに律儀だなぁ。
俺はこれ以上十河家との戦に関わる気はないので、御二人の良いようにと返事し、一応使者を労ってから返す。
「殿、寒川丹後守(元隣)殿より、志度城の安富筑前守(盛定)が降伏したとの知らせが参りました」
本多弥八郎からの知らせにホッと息を吐く。
漸く戦が終わった…
何故か今年は戦ばかりしていた様な気がする。
「丹後守の所へ参るぞ」
先ずは寒川元隣と安富家の処遇を相談しないとな。
急ぎ志度城へ向かい寒川元隣と話し合う。
「丹後守殿、無事安富家を下した事、御見事に御座る」
取り敢えず元隣に、戦勝おめでとうと祝いの言葉を言っておく。
「兵部少輔様、此度の事は誠に感謝に堪えませぬ」
いや、ホンマに大変やったんやから感謝はしてな!
「して、安富家の仕置きの事だが…」
「筑前守の命は取るなという話に御座いますな」
「うむ。丹波守は嘸かし業腹であろうが、これで篠原家は矛を収めるそうだ。丹波守が安富家の所領を奪っても文句は言われぬ」
安富盛定の命一つでちょっかい出されないんだから、安いものだろう。
「岫雲(篠原長房)殿は、筑前守が余程大事と見える。来年には娘を嫁がせる腹であったとか」
嫌いな盛定の優遇っぷりに元隣の顔が歪むが、別に今回はそういう事ではないだろう。
「まあ、後詰めが間に合わなんだからな。周りの不信を除く為に、筑前守の身柄を欲したのであろう。今後、娘と婚姻を結ぶかも怪しい。まあ、そのまま婚姻を結ぶ事で諸将の信を得られると考えるのなら有り得ようがな」
この時代、家臣に後詰めを送らず見殺しにすれば、周りからの主家への評判が地に落ちるからな。
「成る程…」
いや、そんな事よりも安富家の所領の話だ。
「安富家の所領の事だが、大半はそのまま丹波守に御任せ致す。ただ、此度の戦に協力した数家の所領は安堵していただきたい」
幾つか勝手に所領安堵っていっちゃったし、頼みます。
「それは構いませぬが、それでは兵部少輔殿が損をなさるのでは?」
俺が取り分を主張しないので不気味なのだろう。
「いや、小豆島を既にいただいておる。ただ、出来れば雨滝城か志度城のどちらかとその近くの湊はいただきたい」
「ほう、城と湊を?どちらかで宜しいのですか?」
「うむ。来春に備えて、三好家を始め四国の諸将の動きは逸早く知りたい故な」
四国への橋頭堡は欲しい。
城があれば誰か殿から派遣されてくるだろう。
「それだけで宜しいのか?」
「構わぬ。前々から言うておる通り、讃岐国の事に口を出す気はない」
俺、そんな面倒臭い事なんてしたくないしな。
まあ、後は四国の皆で決めてくださいな。
さて、用事も終わったし、漸く赤穂へ帰れるな!
…あれ、弥八郎の姿が見えないな。
官兵衛も見当たらないが、何処に行った?




