538 さて、前置きも終わったところで
さて、問題の十河家は素直に本拠の十河城へと退いてくれた様だ。
ならば、後は志度城に篭る安富家を降伏させさえすれば赤穂へ帰れる。
「殿、篠原家より使いの者が来ております」
本多弥八郎が篠原家からの来客を告げる。
三好家ではなく篠原家から使いの者が来たか…
後処理とか面倒臭いから、俺の所に来なくて良いのなぁ。
「会おう」
さっさと戦を終わらせたいから、会わないという選択肢はないけど。
という事で、篠原家からの使いに会う。
「和泉守であったか。久しいな。」
会ってみれば見知った顔だな。
確か篠原長房の家臣で庄野和泉守(兼時)と言ったか。
以前播磨国で長房と会った時に一緒に居た筈。
「御久しゅう御座います、兵部少輔様」
うん、よかった、合ってた。
「して、如何なる用か?篠原家とは直接ではないが、寒川家安富家を挟んで諍いの最中。手打ちの話であれば有り難いが」
ニヤリと意味ありげな笑みを和泉守に投げ掛ける。
分かってんだろうな?
「はっ、無論その話に御座います」
「うむ」
流石にそれ以外の話だったりして更に面倒事に巻き込まれるとか嫌だぞ!
「先ずは十河家の所領の安堵願います」
「ふむ、しかしそれは些か虫が良すぎるのではないか?香川家や香西家が納得すまい」
俺はどうでもいいんだけど、俺が勝手に了承して両家に恨まれるのは嫌だぞ?
「そちらは当家で話を致します。貴家の立場としての話に御座います」
うん、向こうに話をつけてくれるなら構わないよ。
拗れたとしても俺が恨まれなければね。
「当家としては両家に話を通すのであれば、十河家には戦費の負担以外は望まぬ」
領地は要らんけど、お金は大事だからな。
「そちらも当家で用立て致します」
「ならば結構」
「では、安富家の仕置きに御座いますが…」
「流石に十河家とは違い、所領没収は免れぬぞ」
十河家と違い、こちらは潰させてもらうよ?
小豆島の統治に邪魔だし、見せしめは必要だし、殿の判断次第では誰かに所領として与えるかもしれないからな。
因みに俺は、厄介事に巻き込まれそうだから要らない。
「それは仕方ありませぬ。安富家の身柄の安全と、当家での保護を認めていただければ」
「そちらは寒川家と協議の上、返答させていただく。こちらは寒川家の支援に参っただけで勝手は出来ぬ故にな」
こっちは、寒川家がぶちギレるだろう。
これだけ寒川家に肩入れして、寒川家に不満を抱かせるなんて有り得ない。
寒川家が妥協出来る提案じゃなきゃ無理だよ。
それからも和泉守と細々とした事を話し合い、俺の決めれられる範囲で合意していく。
主にお金の話と停戦の話だな。
少なくとも土佐下向の間は騒ぎを起こされては困る。
和泉守との話し合いは、概ね合意が出来てホッと胸を撫で下ろす。
「さて、前置きも終わったところで、本題と参ろうか」
「はっ」
和泉守にニコリと微笑むと、和泉守は神妙な顔付きで応じる。
「して、紫雲殿は何と?」
「その事につきましては、正月明けに早々に御会いしたいと」
成る程…
さて、それは三好家としてか、篠原家としてかどっちだろうね。




