53 やって来た人物
明けましておめでとうございます。
松倉城で松原内匠助を紹介してもらったが、前野将右衛門殿と蜂須賀彦右衛門殿にも御助力願おう。
蜂須賀彦右衛門殿の所へは、以前世話になっていた稲田太郎左衛門に向かわせて、俺は前野将右衛門殿の元へ向かう。
「お久し振りに御座います、将右衛門殿」
「うむ、直に会うのは暫く振りだな、小太郎殿…いや、元服して傳兵衛殿となったのだったな」
手紙でのやり取りは定期的に行っているが、直接会うのは久し振りだ。
「実は某、伊木山、宇留摩両城の調略を命じられまして、お力をお借りしたく…」
「何を水臭い、某と傳兵衛殿の仲ではないか。喜んでお貸ししよう」
事情を話して協力を仰ぐと、快く力を貸してくれた。
さすが、幼名が小太郎なだけあって、人間が出来ている。
蜂須賀彦右衛門殿の所へ向かった太郎左衛門が帰ってきたが、余計な人物を連れて来た。
「おお!傳兵衛殿!お久し振りに御座いますな!」
調子の良い大声が聞こえ、小者を連れた小柄な男がやってくる。
「藤吉郎殿もお変わりなく。奥方も御壮健で?」
ここで来ますか、木下藤吉郎…
「夫婦共々恙無く過ごしておりますぞ」
「それはなにより。して、此度は如何致しましたか?」
藤吉郎はニヤリと笑いながら、とぼけた顔で答える。
「偶然、彦右衛門殿の屋敷に居りましてな、なんでも伊木山と宇留摩の城への調略だとか。
某も何か手伝いが出来る事もあろうかと思いまして」
まあ、手柄を立ててもらわないと、出世が遅れて困るからいいのだが…
しかし偶然、彦右衛門殿の所にいたという事はないよな。
蜂須賀小六は木下藤吉郎に取られたと見ておいた方がよいのだろうな。
元々その予定ではあったのだが…もったいない…
「おお!それは助かります。大沢次郎左衛門殿の調略に力をお貸し願いたい」
「傳兵衛殿には、祝言の時の借りがあります故、漸くその借りを返す機会に恵まれました。次郎左衛門の事はお任せくだされ!」
自信たっぷりに請け負うのを聞いて、本当に大丈夫かと不安になるが、とりあえず任せてみよう。
駄目なら駄目でどうにかなるだろう。
「では、宇留摩城の方は、藤吉郎殿にお任せしましょう」
「お任せ下され!必ずや良い知らせをお持ちいたしましょうぞ!」
藤吉郎は、最後まで調子の良い事を言いながら、いそいそとその場から離れていった。
しかし、あの小者は、なかなか強そうな若者だったな…誰だろうか?




