536 判断が遅くないか?
十河家にウチの兵が突撃をかますと、それまで睨み合っているだけだった香川家、香西家の兵も慌てて十河家に突撃しだす。
睨み合うだけで戦わずにお茶を濁そうとしたのだろうが、戦後の発言力を考えればちゃんと戦っていた方が両家の寒川家に対して大きな顔が出来るはず。
その機会を与えてあげるなんて、俺って優しいなぁ。
「ほれ、香川香西両家も慌ててやって来たぞ!急がねばどんどん手柄を奪われようぞ!」
周りの家臣達に聞こえる様に声を上げると、その声に応える様に家臣達のキルペースが上がる。
周りの敵兵は堪ったものじゃないだろう。
さあ、讃岐の民に森家の恐ろしさを叩き込んでやれ!
来年の土佐下向の下準備を楽にする為に!
「物集大蔵太夫の首、この本多三弥左衛門(正重)がいただいた!」
おお、三弥左衛門も名のある武将を討ち取ったようだな。
十河家の本陣の方を見ながらニヤリと笑みを浮かべる。
ほれほれ、さっさと逃げないと味方の首がどんどん落ちていくぞ?
まあ、俺の姿なんて十河家からは見えてないだろうけど。
さて、俺ももうちょっと戦功を上げておこうか。
こういう機会でもないと活躍する事なんてないからな。
敵にも味方にも俺の存在を示しておかないと、アイツ何時も後方で威張ってるだけじゃね?とかナメられると今後の活動が大変になるしな。
頭脳派の俺が脳筋共を纏めるのも大変なのだよ。
家臣に文治派が多ければ俺の統治の実績で黙らせられると思うけど、武断派(?)の多いウチの家では常に力を示し続けないとナメられる。
危ない目に会いたくはないから、あまり前に出ない様にはしている…筈だけど、サボり過ぎには注意が必要だ。
既に名のある武将らしき奴は1人討ち取ったので、後は嵩ましの弱い奴等カモン!
さて、何人斬っただろうか…あまり家臣の手柄を奪う訳にもいかないので抑え気味に狩っていかないと。
ふん!もう一人追加っと。
「殿、十河家が退いて行きますぞ!」
雑兵狩りに勤しんでいると、軍師の林助蔵(能勝)が敵の動きを見て敵の撤退を報告してくれる。
まあ、ウチに崩されたところに香川家と香西家が加わったら撤退するか降伏するかしかないだろうけど、その二択なら流石に撤退するわな。
でもちょっと撤退の判断が遅くないか?
鬼十河は居なくなったとは言っても下の者達は残っている筈なんだけどなぁ。
誰がかまでは知らんけど…
もしかして十河存保自身が戦の指揮を執ってるとか?
いや流石に齢十六の若僧に戦を任せたりはしないよなぁ。
俺が十六の時なんて、親父の下で大人しく従っていただけ…な気がする、うん。
よっ、更に1人追加っと。
いや、さっきから周りに護衛要るのに敵が1人ずつやって来る…っていうか俺の前に誘い込まれているなぁ。
周りの奴等が空気を読んで、1人くらいならと俺に恵んでくれてるのか。
そんな配慮要らないけど。
まあ、どっちにしても十河家が撤退してくれるなら有り難い。
十河家は無視して他への圧力を強めようか。
十河家だけが無傷で撤退すれば、周りの国人衆に不信に思う事だろう。
三好家一党には内部闘争が起こるくらいに散り散りに分裂してもらわないとな。




