533 志度城?行かないけど?
五郎左衛門(斎藤頼元)には田井城の中村新左衛門(恒頼)の、六車朝満には志度城に引き篭る安富盛定の調略を命じて、次の動きを官兵衛と弥八郎に相談する。
「さて弥八郎、雨滝城は如何なっておる?」
ウチの主力が攻めている安富家の本城である雨滝城の進捗状況はどうなっているんだろう。
落とせるかどうかは分からんが、そろそろあの兵力が欲しいんですけど。
「後詰めが来ぬと知れば、直ぐにでも降りそうではありますが…」
流石に弥八郎や官兵衛でも攻略時間までは計算は出来ないし、仕方ないね。
「遅くなる様であれば、寒川家の者に雨滝城を任せ、兵を呼び寄せた方が良いやもしれませぬ」
官兵衛も俺と同じでで、兵を合流させた方が良いという考えか。
志度城?行かないけど?
「では直ぐに寒川丹後守(元隣)に雨滝城へ兵を送るよう、申し付けよ」
これでひょっとしたら雨滝城が落とせなくなるかもしれないが、最悪志度城へ後詰めを送れない様に城内に押し込めておいてくれたら良い。
「志度城へ向かわず、此方に兵を集めて如何されるのでしょうか?」
家臣の緋田日向守(貞信)が雨滝城を攻めている最中の兵を退かせて此処に集めようとしている事を不思議に感じたのだろう、その意味を問うてくる。
「志度城に後詰めが来ぬ様に潰しに行くのだ」
官兵衛が日向守の問いに答えるが、ちょっと省略し過ぎで優しくないな。
「志度城は後詰めが来なければ簡単に落とせよう。ならば後詰めを送れそうな所を攻めて、送れぬ様にすれば良い」
「はぁ」
あまりピンと来てない様だな。
「志度城近くに新たに後詰めを送れるような国人衆は居ない。三好家にも直ぐに第二陣を送る余裕はあるまい。足止めの虚報も仕込んだしな。故に後詰めを出して間に合いそうなところは一つしかない」
「それは?」
「十河家しかあるまい」
今、香川家や香西家に足止めされている十河家が両家を撃破するか撤退すれば、志度城への後詰めが間に合う可能性も少しはある。
「成る程…」
日向守も納得した様だな。
素早く当家の兵を集めて十河家が後詰めを出せない程度の被害を与えておきたい。
既に香川家が十河家を打ち破っている可能性も…いや、ないな。
「しかし、宜しいので?」
いつも側に控えている岸新右衛門が何か聞いてくる。
「ふむ?」
「確か殿は、尾張守様より寒川家と安富家以外の領地には出向くなと申し付けられておられたかと思いましたが?」
あっ、やべぇ…
忘れてた…いや、忘れてた訳じゃないんだけど。
でも、十河家を放置する訳にはいかないだろ。
もし、このまま放置して後詰めを送られようものなら、また面倒臭い事になりかねない。
「ここは攻めねばならぬ。殿の御叱りは甘んじて受けよう」
「承知致しました」
俺の覚悟に新右衛門も納得してくれた様だな。
仕方ない事なんだ。
まあ、怒られはするだろうけど、最後には殿も納得してくれるさ。
「兵の合流は待たず、一刻も早く十河家の許へ向かうべきに御座いましょう。上手くいけば挟撃も出来ましょう」
成る程、官兵衛の言う事も最もか。
香川家が十河家を引き付けておいてくれれば、背後から襲えるかもしれない。
「うむ。では、官兵衛殿は後の事を頼む。儂等は十河家の許へ向かう」
後の事は官兵衛に任せておけば大丈夫だろう。
安富盛定の降伏を寒川家が認めない等の諸問題も官兵衛なら何とかしてくれるはず。
俺に内緒で色々画策してくれたんだし、面倒事を押し付けても文句は言えないだろう。




