531 籠城も此処まで
籠城経験の少ない家臣達の為に石田城に篭って敵を迎え撃っているが、飽きてきた。
いや、きっと俺だけじゃないよ?
家臣達もだよ?…多分。
まあ、予想はしていた事だが、やっぱり脳筋達の性に合わなかったのだろう。
現に最初の方はヤル気に満ちていた様に見える。
やらなきゃいけない時には出来るんだけど、今回本当にやらなきゃいけないのか?って思っちゃったんだろう。
確かにウチの場合、敵軍の中に突っ込んでいって将の首を取った方が楽に終わりそうだから気持ちは分からんでもないけどさ。
でも、性に合わないってだけで、籠城が出来ないっていう訳じゃない。
ウチの子達は、殺れば出来る子達なんだから。
「殿の後心配も無用に御座いましたな!始めは皆、何時もと勝手が違う事に戸惑っておりましたが、直ぐに慣れた様子。見事な働きに御座います」
弥八郎(本多正信)が脳筋共の働きを称賛する。
あれ?飽きてきたんじゃないの?
飽きてきたんじゃなくて、馴れて余裕が出てきただけですか?
いや、まさか俺が飽きただけとか…ないない。
脳筋達より先に俺が飽きたなんて事はあるはずがないから、敵の勢いが弱くなったせいで、そう見えただけだろうな。
「ふむ。経験不足を危ぶんでおったが、問題無さそうか。しかし、それにもまして七兵衛(細川国弘)の働きは見事よな」
「自慢の倅に御座います」
俺が七兵衛を誉めると、父の左兵衛尉(細川矩広)は嬉しそうにニマニマしている。
七兵衛はウチの事に脳筋共にも負けない弓使いで活躍しているので自慢したいという気持ちは分からんでもない。
「七兵衛を儂に寄越さぬか?あの弓の腕があればかなりの活躍が出来よう」
今、弓担当の武将がいないから、七兵衛にそのポジションを任せたいんだけど。
「申し訳ない御座いませぬが、七兵衛には早々に家督を継がせたく思うております。御容赦いただきたい」
「左兵衛尉も隠居するには早いと思うが、そう申すのであれば致し方ない」
チッ、これだから土地に縛られている奴等は。
まあいい、四国での戦で扱き使ってやろう。
「さて、そろそろに御座いますかな?」
「そろそろ来ても良い頃合いに御座いましょうな」
官兵衛(小寺孝高)と弥八郎が何やら悪巧みをしている。
まだ何か仕込みでもあるのか?
あるんだろうな…
2人を呆れた目で見ていると、家臣の山本修理大夫(尚治)が駆け寄ってくる。
「殿!東より一軍が迫っております! 」
東より…敵の後詰めか?
「三河衆に御座いましょう」
官兵衛が自信満々で三河衆だと教えてくれる。
「彼奴等が三好家に敗れる事など有り得ませぬ。それに三弥左衛門には、三好家の上の者とは話がついているとの噂を流せと言うてあります。打ち破るのは難しくはないでしょう」
え?三好家との話って、ほったらかしだよね?
嘘吐いて相手の動揺を誘ったのか…この2人、やっぱり性格最悪だよな。
「では籠城も此処までか。此方からも攻め掛かるとしよう。皆に伝えよ」
まあ、皆も我慢の限界だったし、これ以上我慢させるのも悪いしな。
「「はっ!」」
修理大夫等もやっと槍を振るえると、声に力が篭る。
全く仕方のない奴等だ。
「行くぞ!」
俺も槍を手に一番に駆け出す。
目指すは敵将・六車左衛門大夫(朝満)!




