529 籠城くらい出来るもん
明けましておめでとうございます。
「殿、敵軍が此方へ向かっております!」
供回りの真野左近(助宗)が敵の接近を知らせに来る。
「ほう、此方へ来たか…。屋敷の方は如何なっておる?」
「少数は屋敷へも向かった様に御座いますが、大半の兵は此方へ向かっております」
屋敷へ向かった兵が少数なら物見程度か?基本、細川さんが元居た屋敷はスルーか。
「既に屋敷の方は門を外したうえ、皆引き上げております故、安心召されよ」
細川さんが屋敷は裳抜けの空だと教えててくれる。
まあ、屋敷は平城なので、篭られたとしても大した事はないだろう。
「些か気が早かったのではないか、左兵衛尉」
城を落とす前から屋敷を引き払っていたらしい。
落とせなかったら、どないすんねん。
あっ、細川七兵衛は城を取り戻すと名乗りを七兵衛から左兵衛尉に改めた。
官兵衛からこっそり教えてもらうと、細川さんの名は七兵衛(左兵衛尉)矩弘と言って、先祖代々石田村の地頭らしい。
「兵部少輔様の力添えあって、城を落とせぬなどという事は御座いますまい」
いや、そんな事はないよ?
そんな事より、城へ向かってくる敵をどうするかだ。
敵の方が数も多いし、素直に籠城するか?
幸いほぼ無傷で城を落とせているし、近くの味方が来るのを待つだけだしな。
「殿、如何いたしますか?ここはやはり何時もの様に打って出ますか?」
弥八郎…お前…謀臣がそれではアカンやろ。
「それも良いが、当家は籠城戦の経験が少ない。今後の為にも経験しておくのは悪くあるまい?此度はあまり危険もないしな」
俺がちゃんと籠城したのって、本国寺で三好家と戦ったくらいじゃないかな?
今後、大きな戦いで籠城しなきゃならない事もあるだろう。
ウチの家臣達にも経験を積ませておきたい。
直ぐに塩ノ木に居る寒川家や雨滝城を攻めているウチの兵が後詰めに呼び寄せられるので安全安心。
不安なのは物資だが、長くても数日、早ければ1日で終わるかもしれないので問題ないだろう。
攻め寄せてる敵を弓で迎撃しながら耐える。
ウチの脳筋達も逸る事なく冷静に攻撃しているな。
ウチの奴等は(俺に)脳筋脳筋言われてますけど、脳筋でいられる時は脳筋になるだけで、脳筋が駄目な時は普通に戦ってくれるんだ。
まあ、本当に突撃しか出来ない奴なら、とっくの昔に討たれているだろうしな。
…安心した。
ウチの脳筋共でも籠城くらい出来るもん!
「左兵衛尉殿の配下にも中中の者がおりますな」
護衛の羽柴与六郎が、1人の細川矩弘配下の武将を見詰めている。
ほう、確かに目立っている奴がいるな。
弓の腕はなかなか…かなりの命中率だ。
「あの者は?」
側で観戦している細川矩弘に尋ねる。
「某の嫡男の七兵衛に御座います」
矩弘の子供か…
矩弘が左兵衛尉を名乗ったので、七兵衛の名前を子に譲ったんだろうけど、元の名前はなんだろう?
なんか知ってる様な気もするが、思い出せない。
何か出かかってる様な、気持ち悪い感じがするな。
「敵方にも目立つ者がおりますな」
与六郎の弟の与九郎は、敵方に目を向けている。
確かに有象無象の中に目立っている者がいる。
「あの者は六車左衛門大夫(朝満)に御座いますな」
成る程、あれが安富家の重臣かぁ。
アレを殺すか、捉えるかしたいな。
次回更新は1/16頃予定です。




