528 どこの細川さん?
「細川七兵衛に御座る」
官兵衛と弥八郎に連れられて向かった先、石田という村にある屋敷には細川七兵衛と名乗る男が待っていた。
………誰?
細川って、どこの細川さん?
七兵衛って名前の人、居たっけ?
「森兵部少輔だ。七兵衛、お主が儂の力になると?」
「某、安富筑前守により生地である城を追われ、以来筑前守に従いつつも城を奪い返す機会を窺っておりました」
ああ、成る程。
俺に協力して領地拡大を狙うというよりは、安富盛定に奪われた所領の奪還が目的なのね。
「ほう、それは所領を奪い返すにはまたとない機会と言えよう。して、元の所領は何処にある?」
今、口約束で元の所領を返すと勝手に確約しても、後で都合の悪い場所にあると面倒だし、確認はしておかないと。
「此処より東、川向こうにある石田城に御座る」
うん、川を挟んで目と鼻の先だね。
この屋敷のある所と同じ石田村だしね。
ちなみに、この屋敷の西側には寒川軍と安富軍が戦っている塩ノ木がある。
まあ、このまま塩ノ木に行けば奇襲くらい出来るだろうけど、その後の城攻めが面倒になるので行かないけど。
安富軍には、もう暫く塩ノ木で遊んでいて欲しいし。
「しかし、七兵衛が石田城を取り戻そうとしておる事は、相手も分かっておろう。敵兵が戻る前に素早く城を落とすのは難しかろう」
直ぐ近くで戦っているんだから異変に気付いたら直ぐ後詰めがやって来るって。
塩ノ木での戦いが有利になるとは思うが、後詰めに教われる俺が危なくなるやん?
このまま放って置いても直ぐに雨滝城を攻めている事が伝わって、敵はそのまま戦うか後詰めに向かうかの選択を迫られるだろうし、雨滝城より近い石田城で似た様な事をする必要もない。
今は供回りの者しか連れてないしな。
「元は某の所領に御座れば、某を慕う者も多く御座る。城外にも城内にも…」
七兵衛がニヤリと笑う。
ほう、既に城を落とす算段がついているのか。
余程領民から慕われている自信があるんだなぁ。
官兵衛と弥八郎の方を見ると、ぶん殴りたくなるくらいの良い笑顔で頷く。
準備も万端な訳ね…俺、要る?
本当に俺からの確約が欲しかっただけやん…
「官兵衛、兵は足りておるのか?」
「城内に兵は殆ど居りませぬ。十分に御座います」
官兵衛がOKというのなら、大丈夫だろう。
「良かろう。石田城を落とした暁には、旧領を含め、お主の所領として認めよう」
俺の所領が減る訳でもないしな。
七兵衛の配下の手引きにより石田城の城門が開くと、何時もの面々が勇んで突っ込んでいく。
留守番役には使えないが、こういう時は本当に頼もしい。
城の中に入りさえすれば勝ったも同然。
何の心配もない。
アイツ等にはスピード優先と言い含めてあるので、皆RTAでもやっているんだろう。
「噂に違わず、凄まじい戦振りに御座いますな」
ウチの脳筋共の暴れっ振りに若干引いている七兵衛が話しかけてくる。
「七兵衛の手配も流石だ。御陰で思ったよりも早くに落とせそうだ」
「左様に御座いますか。それは良う御座いました」
七兵衛の言葉遣いが何か丁寧になっている気もするが、きっと気のせいだろう。
「このまま六車城も落とせるか?」
官兵衛に尋ねるが渋い顔をしている。
この石田城から近い城は、大井城と六車城。
大井城は平城なので、丘城である六車城の方が攻略難易度が少し高い。
敵に篭られない様に落とせるなら落としておきたい。
六車城の方が塩ノ木から遠いし、城主の六車左衛門大夫(朝満)は安富家の重臣らしいので、与えるダメージは大きいだろう。
「難しゅう御座いますな。流石に城を落とす前に後詰めが参りましょう」
まあ、流石にそうだよな。
仕方ない。
後は安富家の出方次第という事で。
ところで、この細川さんが誰かをそろそろ教えてくれない?




