52 みんなで脅せば怖くない
さて、伊木山城の伊木清兵衛の調略を仰せつかったわけだが、やはり此処はこの辺りの纏め役の坪内玄蕃殿に聞いてみるのが一番じゃないかな?
それから、前野将右衛門殿や蜂須賀彦右衛門殿にも協力してもらおう。
というわけで、供回りに山内次郎右衛門を連れ、親父から彦右衛門殿と仲の良い稲田太郎左衛門、元織田伊勢守家家老の堀尾中務丞を借りて、松倉城へと向かう。
「ほう、伊木山と宇留摩の調略を…伊木清兵衛殿は、よく存じておりますな。こちらからも頼みがあったので、丁度よかった」
するとそこで、松原内匠助芸久という男を紹介された。
葉栗郡に勢力をもつ亘利城主、松原源吾芸定の弟だ。
この松原源吾は、斎藤道三と織田信秀との戦いの最中、道三の命を受け、道三の娘婿で軍の大将である土岐頼香を殺害したというエピソードをもっている。
斎藤道三ゲスいなぁ。
土岐氏抹殺の為に、自分の娘婿でもある家臣を暗殺させるかー。
長良川の戦いでは、一族それぞれ道三軍と義龍軍に別れて、生き残りを図っている。
今回の接触も、兄弟で織田と一色に別れて、生き残りを図っているのだろう。
史実でも織田が美濃を支配した後、織田側についた弟に家督を譲っているし。
「傳兵衛殿、此度の伊木、宇留摩への調略にお力添え出来ればと」
うん、織田側での点数を稼いでおきたいのだろう。
まあ、役に立ってくれれば、別に構わないのだが。
「内匠助殿から、上総介殿へ口利きを頼まれたところに、傳兵衛殿が訪ねて来られたのだ。宜しく頼む」
まあ、親父に丸投げすればいいことだし。
「清兵衛殿も、今の一色家に付くという事がどういう事かわかっておるはず。なれば、我等近隣の者が説けば必ず降りましょう」
と、自信たっぷりに見える内匠助殿の言葉。
まあ、伊木清兵衛は川並衆と仲が良いそうだから、なんとかなるか。
もともと清兵衛の父である香川長門守が伊木山城を守っていたのだが、織田家配下の武馬和泉守に城を奪われた。
武馬氏は伊木山城を与えられて、それ以降は伊木氏を名乗っている。
伊木和泉守は、家臣の小野木氏に城を任せるが、香川長門守の子である清兵衛忠次に城を奪い返され、清兵衛も伊木氏を名乗る。
ややこしいぞ、両方伊木氏を名乗るかよ。
伊木清兵衛は直ぐに織田方に付きそうだが、大沢次郎左衛門は面倒そうだ。
商売上、接点がないわけではないのだが、それで陣営を変わってくれる程ではない。
だが、みんなで脅せば怖くない。




