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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
536/554

523 さて、何れだけ譲歩してくれるのか

前野長康視点です。

播磨国赤穂郡坂越(さこし)村坂越城 赤穂森家家老 前野将右衛門長康


「殿!家島より、讃岐国寒川家より使いの者が参り、此方へ向かわせたとの先触れが参りましたぞ」


家臣の森甚之助(正成)が知らせにやって来る。

西国に来るまでに殿より与力に付けられた者達は、そのまま儂の家臣となっているが、その中でも甚之助は親族である故、重宝しておる。

それは扨置き、家島の梶原家よりの知らせという事は、その使いは小豆島から家島へやって来たか。

さて、以前より小豆島の割譲又は臣従を迫っておったが、その返答であろうか?

受け入れられる事はあるまいと思うておったのだが、まさか向こうから使いを送ってくるとは…

断る為に態々使いを送るとも思えぬし、四国で何ぞあったか?


「ふむ…どう思う、隼人?」


家臣で友人の加治田隼人(直繁)に尋ねる。


「分かりませぬな。四国で何ぞあったのか?三好家を頼らず、織田家に臣従せねばならぬ何かが」


「ふむ」


やはり、そんな所か。


「先月は小豆島で対峙しておる。我等に思うところはあろう。それを押して使いを出したのだ。三好方を頼れぬ理由があるのだろう」


「成る程…」


「まあ、殿が裏から手を回しておっても不思議ではない」


隼人は軽口で言うておるのだろうが、有り得ぬとは言い切れぬのが殿の厄介な所だ。

流石に畿内で戦を行いながら、そこまでの事はなさるまいが。


「兎に角、先ずは話を聞いてからだ」


殿が畿内に居られるうちに何とか小豆島を得たいものだが…

初めは小豆島は備前国という殿の言葉を盾に攻め入るという話もあったのだが、流石に詭弁が過ぎると勝三郎殿や内蔵助(斎藤利三)殿に止められてしまった。

だが、何かあれば何時でも船を出せる様にはしてある。

殿が戻られる前にせめて小豆島を足掛かりにして、讃岐国を切り取りたいものだ。



「虎の威を借る安富筑前守(盛定)を討つ為に御助力願いたい!」


寒川三河守(光永)の話では、やはり三好家の問題の様だ。

殿のせいではなかったのか…いや、三好家を追い詰めたのは、殿の力も大きいのではないか?


「兵部少輔様は京にあって、直ぐに判断を仰ぐ事は出来ぬ。寒川家が既に織田家に臣従しておるなら兎も角、親交のない家への後詰めは某の職責を超える故、後詰めを送る事は出来ぬ」


流石に四国への出兵を勝手に行う事は出来ぬ。

親交のある香川家であったなら兵を出したかもしれぬが、(えん)(ゆかり)もない寒川家ではな。


「森家が御助力がいただけぬならば、四国ばかりか小豆島も三好家に降るしかありませぬ。それは森家も困るのでは御座いませぬか?」


「困る困らないではなく、兵部少輔様の許しなく勝手に兵は動かせぬという話だ。京に居られる兵部少輔様に事の次第を送る故、返答があるまで待たれよ」


切り取り次第というならば兎も角な。


「それでは時が掛かりすぎる。直ぐに後詰めを御送り願えませぬか?」


「このまま四国にある寒川家に後詰めを送る事は出来ぬ。が、方策がない訳ではない」


「それは?」


「小豆島は備前国に属しておる故、備前国を任されておる我等は兵を送る事が出来る」


すがる様な表情を見せる三河守に憐憫の情が湧いた訳ではなく、元より互いが想定していた通りの流れだ。


「ならば小豆島西岸の割譲で如何か?」


さて、何れだけ譲歩してくれるのか。

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>家臣の森甚之助(正成)が知らせにやって来る。 >その中でも甚之助は親族である故、重宝しておる。 森正成の父・森正久の室が前野正義の娘・阿久以 前野正義の弟が前野宗康、前野宗康の子が前野長康。阿久以と…
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