521 ゴメンね、伝内
別所吉親と話をした翌早朝、再び船に乗り赤穂を目指す。
途中、梶原水軍のいる家島に寄るという選択肢もあったが、どうせ当主の梶原景秀は小豆島に遠征中で不在だしな。
予め手紙で赤穂に戻ると知らせてあるから、家臣達は皆、赤穂に集まっているだろうしな。
この一年、運悪く騒動に巻き込まれる事が多かったが、此度は何事もなく船は赤穂へ辿り着く。
赤穂では城代の伝内(建部賢文)と三家老の内、勝三郎(森隆恒)と内蔵助(斎藤利三)、の2人が、揃って俺を待ち構えるかの様に出迎えてくる。
家老が1人足りないのは、小豆島に出張中なのだろう。
「殿!御待ちしておりましたぞ!」
城代の伝内が慌てて俺の所へ駆け寄ってくる。
「うむ、変わりな…い…。いや、苦労を掛けたな、伝内」
挨拶代わりに変わりはないかと尋ねようしたが、恨みがましい伝内の目を見て、変わった事しかなかったなぁと思い出す。
その為に戻って来たんだしな。
心労からか伝内の顔色も少し悪そうに見える?
色々と面倒事が舞い込んでいるんだろうなぁ。
うん、右筆としてスカウトしたのに城代なんて任せてゴメンね、伝内。
でも、周りの面子を見てみてよ。
城を任せている奴等を除いて、城代が出来そうなのって君くらいないんだよ。
頑張れ!
「はっ」
伝内さん、否定はナシですか…
少しは大丈夫ですとか言ってくれてもエエんやで?
「全くに御座る。伝内殿の孤軍奮闘振りは見るに堪えませなんだ」
勝三郎が沈痛な面持ちで首を振る。
いや、そう思うならお前も手伝ってやれよ。
勝三郎には、但馬国侵攻の後始末や播磨国の調整を任せていたから余裕があったかは知らんが。
「此処で立ち話も何ですので、取り敢えず城内へ参りましょう」
内蔵助が急き立てるように俺を城へと連行していく。
城内へ連れ込まれ、3人の圧を受けながら、先ずは喫緊の問題である小豆島の話を聞く。
讃岐国の国人である安富盛定が、三好長治や篠原長房等と共謀して、寒川家の所領を割譲せよと迫った為、寒川家の当主である寒川元隣が小豆島西部の割譲を条件にウチに助けを求めてきたらしい。
そこでウチの水軍派閥連中が小豆島西部割譲の餌に釣られて後詰めを送ったそうな。
元々、俺は殿から備前国の仕置きを任されているし、戦前に俺が小豆島を取れるなら取っても良いと言ったから問題ないという拡大解釈をして、責任を俺に押し付ける感じで攻めに行ったそうだ。
正直勘弁して欲しい。
後でそいつ等には釘を刺しておかないとな。
まあ、殿の許可は貰ったから安富家を攻めてもいいんだが、バックに居る三好家が鬱陶しい。
史実では安富盛定は1570年に篠原長房の娘を室に迎える筈だが、今はどうなっているのかな?
「確かに安富筑前守(盛定)が岫雲斎(篠原長房)の娘を室に迎えるという話で纏まっておるとの話に御座いますな」
纏まっているという事は、まだ婚姻が成立した訳ではないという事か。
「ならば、その娘を彦五郎の室に迎えられぬか?」
成立していないなら、こちらが掻っ浚う事も不可能ではない筈。
「彦五郎様との婚姻に御座いますか?」
相手を引っ掻き回す策の1つに使えないかな?
まあ、やるだけやってみて、失敗したならしたで問題ない。
寧ろ成功した方が面倒臭いまであるけど。
「うむ。駄目で元々だ。成らなくとも何も問題はない。打診するだけしてみてくれ。それと内蔵助、備前国に変わりはないか?」
内蔵助に備前国の動きを聞く。
俺が留守なのを良い事に、宇喜多直家辺りに長房から話が来ていても良さそうだけど?
「御座いませぬ」
直家は動かずか…
今回は三好家に勝ち目なしと見ているのか?
でも動いてくれないと潰せないんだけどなぁ。
すみません、次回は27日で。




