520 船は兵庫津に
三好義継との会談を終えた翌朝、堺で家臣等と合流して、小西隆佐が用意した船に乗って赤穂を目指す。
なんで年末の忙しい時(?)に態々戦を起こすかなぁ。
本来なら年明けに妻子を連れて赤穂へ戻る筈だったのになぁ。
折角身代わりに養子の彦五郎を差し出して、妻子を西国へ連れて帰れる様になったのだが、流石に戦の最中に連れ帰るのはナシかな。
何もないとは思うが、戦や厄介事に巻き込まれるのは避けないと。
海の事はよく分からないが、この季節は逆風が多いらしく、風向きによっては陸路の方が早いかもしれないが、荒木村重…じゃなかった池田知正の領地を通り抜けなければならないので、無いとは思うが万が一を考えて海路を採る。
堺から赤穂へ向かうのだが、途中兵庫津へ寄って西国側から見た摂津国の様子を探ろうと思っている。
距離的にも、その付近で一泊しなきゃならんしね。
日頃の行いが良いせいだろう、道中何事もなく船は兵庫津に到着する。
さて、今の兵庫津の責任者は誰だろな?
「久しいな兵部少輔殿」
下船すると、出迎えてくれる積もりだったのか、別所家三兄弟の次弟、別所吉親が現れた。
別所三兄弟の内、三弟の重宗とは仲が良いんだけど…吉親とはどうなんだろう?
別段、仲は悪くはないと思うんだけど。
「これは山城守殿、御無沙汰しております。池田家の件では無理を聞き届けていただき感謝申し上げます」
別所家には志賀の陣を阻止する為に色々と無理を聞いてもらったからね。
見返りもあったろうから赦して欲しい。
「何の、此方にも利のある事。御陰でこの湊を得る事が出来た。大蔵大輔(別所安治)も大層喜んでおった」
おお、別所安治は喜んでくれてるのか。
吉親も俺に悪感情を持っている様には見えない。
うん、史実で吉親と藤吉郎の仲が険悪だったのは、藤吉郎の性格か何かが気に入らなかったのかもな。
「所領が増えるのは貴家の働きを見れば当然の事。某からの感謝は後程、落ち着きましたら必ず」
プライドの高い奴なんて、そのプライドを擽っておけば、気分が良くなってまた言う事を聞いてくれるだろう。
勝手な行動を取る六角義治なんかより扱いやすい。
「兵部少輔殿は義理堅いな。兵部少輔殿の言葉、確かに大蔵大輔に伝えよう」
宜しく!
ただ心配なのは、当主の別所安治の死期が迫っているという事か。
正確な時期は分からないが、来年病死する筈。
何かの間違いで長生きする可能性はあるが、死因が病死ならちょっと無理かな?
本当に病死とは限らないから、分からんけど。
安治が亡くなる前に次代の長治との仲も深めておかないとなぁ。
まだ会った事も無いしな。
「ところで、周囲の様子は如何に御座いましょう」
「池田家は相変わらず湊を返せと申して来るが、兵庫津は正式に当家が任された地。その様な戯れ言、聞く必要などあるまい?」
「仰る通り」
それはそうだし、是非ともその怨恨を以て摂津池田家とは更に険悪になってもらいたい。
そうすれば荒木村重か別所長治のどちらかは反乱を起こさずに味方になってくれるだろう。




