519 赤穂へ戻る前に
一部ではあるが、殿に讃岐国へ攻め入る許可を得た。
安富家の所領内だけだが…
うん、中途半端だし、正直要らない。
出来れば四国からは手を引けと言って欲しかった。
そうすれば殿の命令だと言って救援を求めてきている寒川家を見捨てて、家臣達を無理矢理撤退させる事も出来たし、撤退の不満も殿に擦り付ける事が出来たのに。
まあ、赤穂へ戻る事は許されたので、小正月まで京に残って公家の相手をさせられるよりはマシだと思っておこう。
さて、赤穂へ戻る前に幾つかの所に手紙を送る。
先ずはウチの家臣達に殿の命令を伝える。
ウチの脳筋共よ!聞いてませんでしたは通用させぬからな!
次に寒川家の当主である寒川元隣に、改めて俺からも救援に向かうと知らせる。
流石に放置して予想外な動きでもされでもしたら、碌な結果にならないからな。
それから讃岐の有力国人である香川之景や香西佳清等に、三好家が不当に寒川家の所領を奪おうとしていると訴え掛ける書状を送る。
香川家や香西家も、後に寒川領の割譲の事を持ち出して三好家に反抗しているから、脈がない訳ではないと思う。
そして三好長治への形だけの抗議文と篠原長房への勧誘文。
確か安富元盛は来年、長房の娘を室に迎えると思うので、今回の騒動は長房の方が主導なのかもしれないが、知った事ではない。
長治と長房へ異なる内容の手紙が送られてきたのを知って、2人の仲が悪くなってくれれば良いだけだしね。
まあ、これは上手くはいかないだろうけど。
さて、手紙も送った事だし、もうここでやる事はないかな。
赤穂へ戻る為にも河内国の三好義継の許へ向かおうか。
「まさか今年の内に戦を始めるとは思わなんだぞ、兵部少輔殿」
義継に会うと開口一番文句(?)を言われた。
いや、俺が仕掛けた訳じゃないから、文句を言われても知らんがな。
「流石に某も予想外に御座いました。小豆島の事で寒川家とは交渉を試みておる最中に御座ったが、まさか後詰めを頼まれるとは…」
本当に俺も思ってなかったからね!
「して、此度は神太郎(安宅信康)へ後詰めを頼みに参られたか?」
「無論それも御座いますが、左京大夫(三好義継)様には阿波守(三好長治)と讃岐守(細川真之)殿への書状を御頼みしたい」
讃岐守、細川真之は三好長治の異父兄で讃岐国守護。
長治との仲は悪い…はず?
その内に敵対するしね。
「ほう?儂に書状を出せと?」
「はい。阿波三好家を割りとう御座います。家を割らせて讃岐国への力を削いでおく事は、左京大夫殿にも利がある事かと存じます」
義継の阿波三好家引き抜き作戦もやり易くなる筈。
「内容は?」
「御随意に。和睦でも帰順でも罵詈雑言でも。何でも構いませぬ。某は阿波守へは叱責の、岫雲庵(篠原長房)へは帰順を求める、それぞれ異なった内容の書状を送っております」
「成る程。であれば協力せぬ訳にはいかぬな」
「宜しく御願い致します」
2人で阿波三好家をガタガタにしましょうね。
「ところで兵部少輔殿。兵部少輔殿の近侍として仕えたいと申す者がおってな。その者を側に置いてもらえぬか?」
えっ?誰か家臣にくれるの?
「近侍に御座いますか?」
「柳生新左衛門(宗厳)の嫡男、新次郎が兵部少輔殿に仕えたいと申しておってな。聞き入れてもらえようか?」
「それは有り難い申し出に御座います」
いや、新次郎とは見知った仲だし、全然オッケーですけど。
この前までずっと一緒に居たけど、そんな話は無かったけどなぁ…
まあ、仕えてくれるなら良いか。
将来柳生家を味方に付けるのにも役立つしな。
セーフ




