518 兵部少輔殿に執心?
三好義継視点です。
河内国若江郡若江村若江城 三好家当主 三好左京大夫義継
「御手数をかけ申し訳御座いませぬ」
霜台が頭を下げるが、霜台のせいではなく儂の考えが浅かったというべきであろう。
「いや、儂が兵部少輔殿に大和国へ向かうよう頼んだのが悪かったのだ」
先日、森兵部少輔殿が神太郎(安宅信康)の助力を得たいと儂を尋ねて来た。
儂はその対価として、兵部少輔殿には大和国に居る霜台への助力を頼んだ。
大和国では霜台が反抗する筒井家一党に手を焼いていた為、若くして数々の武勲を重ねてきた兵部少輔殿ならば霜台の力になってくれようと頼んだのだが、まさかこの短期間で筒井家を降伏させてくれようとは思いもせなんだ。
「当主が亡くなり、家が割れた十市家の騒動を収めてもらうだけであったのですが…」
「まさか十市家の代わりに越智家が騒動をおこすとはな。兵部少輔殿も運が悪い。御陰で此方は大きな借りを作ってしもうた」
十市家の騒動を収める為の知恵を借りるだけであったのにな。
「某も、丁度良いからと兵部少輔殿に越智家の騒動への助力を頼まねば、神太郎殿に苦労を掛ける事は御座いませなんだ」
「互いに兵部少輔殿の力を甘く見ておったという訳だな」
「はっ」
此迄の兵部少輔殿の出世振りを見ておると、何事も兵部少輔殿に都合良く動き過ぎておる様な気もするがな。
これが天運というものか。
「元より安宅の船を出す事は約束しておった故、どのみち出陣は避けられぬ事であった」
儂も神太郎も船を出すのは年明けの事と思うておった故、今頃神太郎は大慌てであろうがな。
「ただ越智家の騒動に関して、兵部少輔殿が関与したのではないかとの疑いが御座います」
「何?!」
まさか兵部少輔殿が越智伊予守(家増)を唆し民部少輔(越智家高)を襲わせたとでも申すのではあるまいな?
「十市常陸介(遠長)の話では、兵部少輔殿に越智伊予守の事を聞かされたと。その為、越智家に探りを入れたところ、この様な騒動となった様に御座います」
「霜台は、此度の騒動は兵部少輔殿が謀ったものだとでも申すか?」
流石に、それはあるまい。
兵部少輔殿に大和国で謀を行う暇など無かろう。
「そこまでは申しませぬ」
「第一、兵部少輔殿に大和国での霜台以外の伝手などあろうか?」
「兵部少輔殿の室は播磨国の小寺美濃守の娘に御座います。確か美濃守の弟が大和国に居ったはず」
全く伝手がない訳ではないか…
しかし、だからと言って此度の騒動を引き起こすには時が足るまい。
越智伊予守が民部少輔を襲った事も、兵部少輔殿が謀ったにしては御粗末なものであった。
「いや、やはり偶然であろう。ここまでせずとも安宅家の後詰めは約束されておった。それ以上の働きをしても兵部少輔殿に利があるとも思えぬ」
「念の為、兵部少輔殿に探りを入れたく」
霜台は疑り深いな。
それとも兵部少輔殿に思うところでもあるか。
「くれぐれも兵部少輔殿の機嫌を損ねぬ様にな。兵部少輔殿とは四国の事でも協力せねばならぬ」
「承知しております。兵部少輔殿と仲の良い新左衛門(柳生宗厳)に命じて探らせまする。探るだけであれば問題御座いますまい」
「良かろう。しかし、何度も言うが兵部少輔殿の機嫌を損ねぬ様にな」
やれやれ、霜台は兵部少輔殿に執心であるな。




